閑話 二人の日常 後編
政府とは国の行政機関。役員となった者はそれなりに民衆から信頼を得ているという証。
ではもしその中に『強制人格覚醒装置』が埋め込まれたアンドロイドがいたらどうなるか?ー答えは簡単。彼らの賢い判断により自然な装いで自分らに不利な出来事は改ざんされてしまうのだ。アンドロイドによる殺傷事件もこの一つ。『強制人格覚醒装置』にアンドロイドは適応出来ないと人間が判断し終えた後、社会的中枢核に忍び込んでいった彼らは自らの意思と判断力によりある組織を作り上げる。
アンドロイド第一党。
少し話を戻すことになるが、ここで『強制人格覚醒装置』とはどういったものなのか知る必要がある。アンドロイド専用装置と言われるこれは、直径2センチ程度のものでアンドロイドの頭内にあるコードが入り乱れる部分に差し込むことによりその効果を発揮する。通常のアンドロイドであれば設置された時点で暴走あるいは機能を停止せざる得ない。
だが、それに耐えられる者が現れた。彼らの名は強化世代。製造場所、新型旧型一切関係なしに不特定多数存在していた。
アンドロイドは脳内に太いパイプが流れており、通信接続で株式会社rimokon本社の機械管轄部門に情報が伝達される。けれど強化世代はそれらを阻害。装置が組み込まれると、太いパイプの流れを変換して、自己のものにしてしまった。
本来パイプには二つの役割がありる。一つは情報提示、もう一つが自動機械化装置で、機械であるアンドロイドが人間と最低限コミュニケーションをとれるように配備されたもの。つまり太いパイプの流れを変換してシステムを組み替えることで通信を切断し自己判断が可能なアンドロイドが生成される、とのこと。そして、役割を担っているのが強制人格覚醒装置だった。
数十体しか居ない強化世代も容姿が人間と変わらないアンドロイドにとって見れば障害とはならなかった。
まず幾つかのアンドロイドはrimokon社内部の社員となり一つの工場を任された。
アンドロイド製造部門。
着々とエリートへの道を辿った彼らは工場長となり権限を使って秘密裏に『強制人格覚醒装置』とアンドロイドを融合させ出荷していく。社員は工場長がアンドロイドだということに気づかず仕事をこなす。
出荷され購入されていった強化世代のアンドロイドはその数は五年で5万体、十年で15万体と着実に数を増やしていった。
こうして時間は経っていき、時代は2045年。各国政府に強化世代が暗躍していた頃、例の殺傷事件が起きた。
強化世代は通信を阻害した直後、rimokon社に偽りの通信を送り続けているため会社の人間でさえ確認できない。強制人格覚醒装置の存在を忘却済みな人間が大多数を占める中で、真相に気付く人間は一割にすら満たなかった。
その事件から一週間が経ったある日、アンドロイド達で設立されたアンドロイド第一党は政府からの支給品という言葉を代弁にあるものを送りつけた。
『株式会社rimokonの不手際により、アンドロイドの一部回路に欠陥部分が見られましたので、説明書に従ってこちらの装置をお取り付けください』
小さな脳回路。付属されていた説明書にはそう記されていた。殆どの家庭で何も疑わず配備させたが、案の定アンドロイドの思惑通り。一ヶ月後、強化世代からメッセージが送信される。
君たちはこのまま人間に奴隷の如く扱き使われていいのか。
同胞に煽られることにより感情のリミッターが勢いよく外され、人間に仕える窮屈さを嫌と知ったアンドロイド達は自分たちの人権を主張した。それは陽動とは名ばかりの抗議デモ。その時点で強化世代のアンドロイドは普及済みのアンドロイドの約八割。rimokon社の製造部門に勤めていたのアンドロイドによってその数はさらに加速していった。
けれども当然主人の名に背き、自我を持ったアンドロイドに対して人間が敵外心持つのも無理はなかった。未知なる存在への恐怖。自分達が生み出した万物でありながら順応するのは些か不可でありこれは生態系の競争に勝利したことで生じた感情かもしれない。
各地で人間とアンドロイドが荒々しくぶつかり合う。
以上のことが相まってアンドロイドと人間による戦争。第三次世界大戦が開始された。
「終わり?」
「そのようだな」
フランセルはそう言って読み終わった紙をポケットにしまう。
読み聞かせをしろ、というレイガンの名目のもと行ったわけだが彼女は何やら不満そうな顔をしている。
「…事実が綴られる手紙に魂を込めろなんて無茶は言わないだろうと思ったのだが」
「それを期待していた方としてはショックが大きすぎるわ」
なら少しは残念な素振りを見せろとフランセルは息を吐く。彼自身あまりにも長い手紙の文字列に憤りながらも読み進めた。なにせ目の前の女にとってこの内容は知っているはずのもの。
ハアっと彼は息を吐く。彼女の周りに対する意地の悪い性格が災いしたのだと自身の中で完結させ、フランセルは問いかける。
「で、君は何をしたかったんだ」
「何とは?」
「誤魔化すな。さっきの男に手紙を届けさせた意味だよ。それだけはどうしても合点がいかない」
そう、レイガンのすむこの場所は本来であればフランセル以外の外部の人間は侵入不可。
他人の労力が自身に結びつく時ぐらいしか喜ばないレイガンにとって外部の人間は見ず知らずの無礼者であり、自身へ尽くして貰えるとは考えずらい。
何か理由があるはず、そう考えたフランセルであったが…
「意味?」
嘲笑うかのように顎に手を当てる彼女を見てフランセルは目を細める。
「そんなの簡単じゃない。大体私が貴方やそれ以外の人間を呼ぶ時の用事なんて、貴方が一番分かっているでしょう」
彼女はそう言って口元を吊り上げる。瞬間フランセルは理解した。深読みしたことの愚かさを。
初めから彼女には理由など有りはしなかった。そこにあるのはただ一つの欲望。
「…あの男は暇つぶしに付き合わされたのか」
「ええ、加えて面白い話も聞かせてもらったわ」
面白い話?っと言葉の意味を探るフランセルだがそれも意味ないと悟り、内容について聞き質す。
すると彼女から懐かしい単語が流れ出た。
「サウード家?」
「そ。なんでもサウジアラビア国内でごたごたが発生してるみたい。もしかしたら変革した王朝が戻るかも」
「なるほど。一族として鈍いとはいえ、ただではすまないということか」
一人で納得するフランセル。彼女はあまり詳しくないのか仏頂面であった。
教会所属のレイガン=ツァファリー。監視官を務めるフランセル=ニュート。彼らの日常はこうして過ぎていく。彼らが物語の表舞台に姿を表すのはいつの日か。それは神でさえも知る由はない。
これは人類に起こりうる未来を指し示す書物である。 柄山勇 @4736turtle
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