10歳、夏(3)
目を覚ますと一人で秘跡の前で寝ていた。縄は解かれていたが、体には縄と鞭の跡の跡がしっかりと残っていた。
家を出て冒険者になる。旅は前世でも得意だった。得意というか、のっぴきならない理由があってイタリアを北から南まで旅をした。ローマで指名手配されて北から南へ、南の島のマルタで問題を起こしてマルタ騎士団から逃げて南から北へ。一つのところにとどまれない運命なのだろうか?
家を出るにあたって、やり残したことが一つあった。
ブルーノという従者に声をかけた。
「ブルーノ、お前、俺と一緒に来るか」
ブルーノは同じ年の少年だった。ブルーノの親も俺の家につかえており、親から俺の世話をするように言われていた。
「え?はい。グイドが行くところならどこにでもついていきます」
終始こんな感じだった。
「よし、俺は明日家を出て冒険者になる。お前もだ」
その時のブルーノの表情は見ものだった。間抜けな鶏のように口を開いて、目をパチパチさせていた。
「急にそんな。両親にどういったらいいか」
「バカ。黙って出ていくんだよ。書き置きでもして出ていけばいいだろ」
ブルーノは優柔不断なところもあったが美少年だった。
ブルーノに指示をしてアルフォンソを誘い出した。そしてアルフォンソを背後から強襲した。いつだって暴力は先制攻撃が優勢だ。前世を思い出した俺は喧嘩も自然とできるようになっていた。
アルフォンソを縛り付ける。大声を出せないように口に猿ぐつわをはめる。
ブルーノに剣を持たせる。
「ブルーノ、右手に剣を持って左手でアルフォンソ先生の頭を掴んで。髪の毛をぐわっと鷲掴みにして」
ブルーノは言われるがままに動く。
アルフォンソの顔に抜身の剣が近づく。アルフォンソは恐怖で顔が引きつり冷や汗が吹き出す。
「心配する必要はないですよ、先生」といい、続けて心なかでつぶやいた「もう殺しはしませんよ、たぶん」
アルフォンソは絵のモデルだ。ブルーノに用意させた道具で絵を描く。もうひとりのモデルはブルーノ。
ブルーノはダヴィデ、アルフォンソはゴリアテだ。ダヴィデとゴリアテは前世で何度も描いたモチーフだ。
俺はこの世界に来て1つ目の作品を描いた。
俺は画布をアルフォンソの正面に立て掛けた。
「特別にお代はいだたきません」
置き手紙にひとこと「家を出て冒険者になります。グイド」と書いて絵の近くに置いた。
俺はブルーノとともに家を出た。〈冒険者〉としての人生が始まった。
ミケランジェロ・メリージさん享年38歳、異世界に転生する 九夏三伏 @NwxRFU
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