episode 7. 危険なトラック
片側一車線のゆるやかな山道はかつては有料道路だった。いつしか料金所が撤去され、無料通行ができるようになった。高速道路ほどではないが、道幅は広めで走りやすい。大回りになるが、信号機がないので市街地を通過するよりこの道を選ぶドライバーも多い。
轍
「前のトラック、居眠り運転じゃないのか」
道生は苛立ちながら速度計に目をやる。この道路は制限速度60キロだ。前を走る銀色のトラックはカーブでふらつき、坂道になると40キロまで速度を落とす。運転がかなり不安定に思えた。
「そうね、あまり近付かない方がいいわね」
道生に言われてトラックの動きを注視していた路乃も不安に思ったようだ。時折、ガードレールすれすれに寄ることもあり、もしぶつかって転倒でもしたらトラックの荷台に突っ込むことになる。こっちの車などぺしゃんこだ。
バックミラーを見ると、道生の車の背後には後続車が数珠つなぎになっている。カーブの際に見えるトラックの先の道路には車は一台も走っていない。このトラックが道を塞いでいるのだ。
「このさきに休憩所があるじゃない」
路乃が看板を指差す。美原山グリーンオアシスという物産館やトイレ、広い駐車場のある休憩スポットだ。
「きっとそこで休憩するわよ」
しかし、トラックは美原山グリーンオアシスを通過してしまった。道生を路乃は深いため息をつく。
それから40キロののろのろ運転にしばらく付き合っていると、登坂車線が出現した。
「これで追い抜ける」
トラックはゆるやかに左車線へ入った。道生は思いきりアクセルを吹かし、坂道を登っていく。運転手が眠りこけているんじゃないかと路乃がトラックをみやると、
―岡本水産
「ああ、なるほど」
道生はそりゃ仕方無いね、という。
「日本海からの長距離運転で疲れているからってこと?」
「いや、このトラックには鮮魚が乗っている。つまり水槽を乗せて走っているんだよ」
だから坂道はおそろしくゆっくりだし、カーブで車輌が振られるような動きをしていたというわけだ。
「きっと運転には気を遣うだろうね」
理由が分かり、道生はさきほどのイライラがすっかり解消されたようだ。
「普段道を走っていると、トラックって前が見えないし嫌なものだけど、こうして生活に必要なものを運んでくれると思うと頭が下がるわね」
あなたもお疲れ様、と路乃は缶コーヒーのプルタブを開けてを道生に手渡した。
ドライブ・イン・ザ・ダーク 神崎あきら @akatuki_kz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ドライブ・イン・ザ・ダークの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます