episode 6. バック駐車の流儀

「今日は久しぶりに会社の営業車に乗ったけど、古い軽四だからバックモニターが無くてさ」

 まいったよ、と轍 道生わだちみちおは唇をへの字に曲げる。道生の車にはバックモニターがついており、バック中に画面で車の真後ろの映像と導線のガイドラインが示される。これに慣れたらサイドミラーは補助に、モニターをメインで確認すれば楽にバック駐車ができるのだ。


「本当にモニターは便利よね、あれが無いなんて今となっては考えられないわ」

 妻の路乃みちのも深く頷いている。以前の車はバックモニターがついていなかった。看板の支柱があるのに気が付かず、後輪のあたりをこすったり、下がりすぎて壁にバンパーをぶつけてしまうこともあった。


「おかげで何度もきりかえして、主任は車の運転が苦手なんですねって言われたよ」

 道生はそのとき助手席に乗せていたアシスタントの女性スタッフに苦笑いされたという。

「女性の前でカッコつけたかったのに、残念ね」

 路乃はニヤニヤほくそ笑む。

「そういうわけじゃないよ」

 道生は慌てて否定し、気まずそうにハンバーグをつつき始めた。


「バック駐車のときに助手席のヘッドレストに腕をかけて後ろを振り向きながらバックする彼氏の姿に惚れるって言ってた子がいたなあ」

 路乃の大学の同級生で、彼氏がバック駐車するときにドキドキとすると嬉しそうに話していた。

「何だよそれ、上手いアピールなのか」

 道生にはそのカッコ良さが理解できないようだ。


「あなたは運転席のドアを開けて後ろを見てたわね」

 思い出して路乃は笑い出す。

「あれが一番確実なんだよ」

 道生はふて腐れながら反論する。

「でも、最近ではモニターが普及してきっとそんな姿も見られなくなったわね」

「うん、バックモニターが一番分かりやすい」

 二人の意見はここで合致した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る