第49話 被虐君⑤
「こっち見んなよ。キモいな」
囲まれる。
「先輩から通達があってさぁ。お前の事はこれから人間として扱わなくて良いんだってよ」
馬鹿にされる事は有ったが何だかんだ話をする事は出来た人達だった。
昨日までとは状況が違う。
「何で?どうして?」
笑い声の中に声は消え入る。
「とりあえず俺らの荷物全部持ってグラウンドに来いよ。露出犬くん」
後には沢山の大きなカバンの山が残されている。
耐えるとかそういう次元じゃなかった。
ピッチングマシーンと銘打って僕は防具無しで身体でボールを受けさせられ、身体の部位によって点数が付いて競っている。スライディング練習として僕が立たされスパイク付の靴で蹴られ、タックル練習として僕は起き上がり小法師の様に何度も起き上がらされる。ベンチに座れない人間の為に僕が四つん這いになって人間椅子となり、ワザと崩そうとジャンプしたり手足を蹴られる。大量の道具もグラウンドの整備も僕が一人で行っていた・・・これが毎日続いて行く。
僕は耐え切れなくなって顧問の先生に虐められている事を告白した。
「そうか。証拠が無いと分からないから俺が調べてみる。もう少しだけ耐えろ」
言葉が少しおかしい。
僕はそれでも先生を頼るしかなかった。
先生が部員と話しているのを偶然にも聞く事が出来る場面に出くわす。
「お前達○○を虐めてるんだってな」
「ええ誰がそんな事言ってるんすか?そんな事してないっすよ」
頼む。頼む。
「まあそんな事はどうでもいいが練習だけはちゃんとやれよ。これから先に響くからな」
えっ?
「分かりましたー。俺らスポーツマンですからね。今年も県大会優勝目指して頑張ります。しかし○○も碌にボールも投げられないのに良く続けますよね」
「アイツは選手としてじゃなくて”マネージャー”として採用してるからな。良いマネージャーだよ。」
何で。
「監督酷えー!じゃあ3年間アイツはボール拾い確定って事じゃないですかぁー」
「アイツも面倒臭い奴なんだよ。自分が下手なのを肘が壊れてるから投げられませんって何度もしつこく言い訳されてな。それでも打つ方には自信がありますから使って欲しいですってなぁ。」
・・・。
「じゃあアイツはそれを信じてずっとこの部に居るんすねぇ。アイツの3年間可哀想だなぁマジで」
一緒に笑っている声が聞こえて僕は逃げ出した。
最初から僕みたいな生贄を用意するつもりでいたんだ!
顧問の先生は素行の悪い中学生達の中で何とか上手くやっていこうとご機嫌取りをしている。
そんな人間が先生に、人を導く立場になんかなるな!
あいつらは何のお咎めも無く、ただ僕だけが、僕一人が悲しんで他が喜べば良いのか?
何を信じたら良いのか。何をしたら助かるのか。もう無理なのか。
このままただ受け入れるしかないのか、、、
自然界では弱い個体は淘汰される。
弱肉強食、それをただ受け入れろって言う事なのか。
クモの巣に捕まった片腕が折れているバッタが僕を見つめている。
バッタはクモの子供に群がられ、少しずつ食べられていく。
バッタは僕を見ている。最期の瞬間まで。
僕は知る由もなかった。
この街にはある暴走族のチームがある事、そしてそこに所属している男の弟が悪魔である事を。
すっかり調子に乗っている同期も集団から離れた個では僕に何もして来なかった。
それどころかクラスではやけに話して来る。
僕はソレが罪滅ぼしのつもりなのは百も承知だが、昔みたいに野球の話が出来る時間は少し嬉しかった。
そんな同期も悪魔と一緒になると信じられない位に攻撃的になる。
「おい〇〇息を吸うんじゃねえよ。酸素が勿体ない」
「酸素が勿体ないって」周りは笑っている。
「今日も気持ち悪いなぁ○○。身体も臭いしよ。お前の母ちゃんも大変だなぁお前の着た服を洗濯するんだろ。俺だったらノイローゼになるよ」
「昔からお前がムカついてたんだよ。上手くねえのにレギュラーだったりよ」
DV被害者の心理なのだろうか。こんな事を言うこの男もクラスでは昔みたいに話してくれる。
「昔みたいに純粋に野球したいよな。家族を馬鹿にされて悔しいよな。あれは俺も酷いと思ったよ」
分かっているのに優しい言葉を掛けられると少しでも信じてしまう。部活では悪魔が怖くてそう話しているだけなんだと信じてしまう。
実際の所は分からない。何も信じられないからだ。
信じても裏切られるからだ。なら最初から何も信じなければ良い。
僕の仲間なんて居ない。居ないんだ。
ずっと闇の中に居る。
何も考えたくないのに、痛みが苦しみが僕を生きている事を忘れさせてくれない。
痛い。苦しい。誰か助けてよ。誰か・・・
今でもずっと死にたいあなたへ 世界の大やん @sekainodaiyan
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