ダサくて、良いすか?

「――で、維新くん。あれだけカッコつけてたわけだけど――」


「う・・・」


 俺は、正座していた。

 窮地に立たされてもなお諦めない漢気溢れる姿勢を見せていたはずなのだが。


 まあ、その・・・ね


「私もかっこいいなぁ、とか、あーやっぱ好きだなあ、とか思っちゃったわけだけど――」


「うぐぐ・・・」


 正座で鈴宮からの説教を受ける俺。

 反論するべくもなく。ただ項垂れる。


「――最後の最後に気を失っちゃうなんてダサすぎない!? シリアスな空気ぶっ飛んで一気に白けちゃったじゃない! 結局彩音先生の乱入で収まったから良いものの・・・というか彩音先生は一体どこで油売ってたんですか!」


「「滅相もございません」」


 彩音先生も、俺の隣で正座していた。


「いや、一刻も早く1-Aの教室に待つ求婚者に挨拶しようと思ったんだけど、途中の教室でキャッキャウフフしてるカップルを見つけてしまい、嫉妬の余り彼らのイチャイチャを一部始終目撃していたら、他の生徒に盗撮――あ、覗きがばれて彼らの口を封じるために下のお口を――」


 何してんねんこの先生。およそ教師がしてはいけないことを総なめしてるだろ、倫理観が脳みその外で踊ってるよあんた。


 橘遼の襲来を鐘沢から聞いた時、即座に思いついた救済案。それが彩音先生の実力だった。だのに先生は何故か呼びに行ったはずの鈴宮より後に現場に到着したらしい。


 まあ、結果として先生の立場を利用して橘遼を諌めてくれた訳だが、時すでにお寿司。俺が無様にも気を失った後だったのである。


 俺もなんで良いとこで気絶しちゃうかなぁ・・・いやはや、やはり俺は凡人でしかないのだろうね。


「全くもう・・・惚れて損した」


 腕組みして頬を膨らませる鈴宮。

 いやほんとすみません。

 我ながら恥ずかしい。


 鈴宮の好意を真正面から受け止める覚悟を決めて決め台詞を吐いたつもりだったのだが・・・


「――鈴宮、相当御立腹みたいだけど一体何を言ったんだい。処女奪う宣言でもしなきゃあんな怒らないだろうに」

 

 彩音先生が小声で聞いてくる。

 いやまあ当たってるけど、違うと言うか。


「ちょっとまあ色々ありまして・・・」


「というかそもそも決闘予定の相手と決闘前からやりあうなんて私以外の先生が見たら停学ものだからね、気をつけるんだよ」


「はい・・・」


 正座して説教されている先生から説教される俺。

 食物連鎖の最底辺かよここは。


 戦いは、終わった。

 結果としては引き分けないしは俺の負けというところだろう。


「あー、それと維新くん」


「はい?」


 もはや鈴宮に対しては敬語がデフォである。


「鐘沢くんから伝言」


「・・・なんて?」


 俺たちに危機を知らせ、身を張ってクラスの安全を守り抜いた鐘沢。あいつには改めてお礼を言わねばならないのだが、俺が気を取り戻した時、既にあいつの姿はなかった。


 結構ボロボロだったと思うのだが。


「ナイスファイト、ですって」


「・・・なんだそれ」


「さぁ? カッコつけて『こいつは俺の女だ』とか言ってから気絶しちゃうどこぞのお兄さんに向けて言ってるんじゃ無い? 私にはよくわからないけど」


「ウッ」


 言葉に棘がある。ごめんて。


「まあ、でも、その・・・」


「?」


 鈴宮が自らの太ももをモジモジと擦らせながら、徐々に顔を赤らめていく。


「か、カッコよかったぞ。維新くん♡」


 鈴宮の顔がゆっくりと俺に近づく。


「――――」


「――惚れなおしちゃった、かも・・・」


「――お、おう―――」


 つぶらな瞳が閉じられ、かすかに震える睫毛が艶やかに煌めいている。


 何かを待っているかのようなその顔に、俺は――――――


「はい不純異性交友は先生の前で禁止〜しばくぞ〜SMプレイするぞ〜」


 と、すんでのところで彩音先生が俺と鈴宮の間に割って入る。


 危ない危ない。


 静かでありたいはずの俺の日常は、まだ随分と騒がしい。

 それでも、この胸の鼓動はなぜだか嫌な気がしなかった。

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知略があれば学園ハーレム作れるって本当ですか?  そこらへんの社会人 @cider_mituo

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