「結局、シオリって何者だったの?」

 僕が訊くと、ユキナはちょっと考えてから答えた。

「私にもよく分からないけど――多分、向こうの世界から私を迎えに来てたんだと思う」

「死神、とか?」

 あの日のシオリとの会話を思い出して、僕は言った。

 ――ちょうどあの電車に乗っていた時、ユキナはちょうど生死の境を漂っていた時だったらしい。

「ううん」

 ユキナはかぶりを振った。

「シオリには死をもたらすとか、そんな力はなかったと思う。――多分、見届けて案内するだけ。何一つ出来なかったと思う」

 縛られて過ごしていく、というのはそういう事だったんだろうか。

 ユキナだけでなく、たくさんの人をただ見届けて、時には案内して来たんだろうか。

「……苦しいよね」

 僕が言うと、ユキナは頷いた。

「うん。すごく」


 路線バスはスピードを落として、道端にぽつんと立つポールの前に止まった。

「着いたよ」

 バスを降りると、熱気と蝉の声が僕たちを包み込む。

「……暑い」

「退院したばかりだから無理しない方が」

「大丈夫だよ-。病気とかならともかく、事故で頭打っただけなんだから」

「その頭打ったせいで生死の境目漂ってたんだろ……」


 ――弥沢駅は、あの日と同じように、日射しの中で、草に埋もれていた。

「アキくん」

 ゆーちゃんが、昔のように僕の名前を呼ぶ。

「ゆーちゃん」

 僕も同じように、ゆーちゃんの名前を呼ぶ。


 顔を見合わせてから、ふたり同時に笑った。


 告白? 確かに子供の頃に「すき」とは言ったけど、あの頃の好きと今の好きなんて違うし。

 責任を果たせた? そんな大げさなものじゃない。僕なんて忘れてたんだし。

 じゃあ、なんで僕たちは笑ったのかって?

 互いの顔を見た時、僕たちは気付いたから。

 ――こうして、十年後の8月にもう一度会えたことが。


 僕たちは、ただ。

 ――嬉しかったんだ。


「また、会えたね!」

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Rusty Rail 雪村悠佳 @yukimura_haruka

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