8
「結局、シオリって何者だったの?」
僕が訊くと、ユキナはちょっと考えてから答えた。
「私にもよく分からないけど――多分、向こうの世界から私を迎えに来てたんだと思う」
「死神、とか?」
あの日のシオリとの会話を思い出して、僕は言った。
――ちょうどあの電車に乗っていた時、ユキナはちょうど生死の境を漂っていた時だったらしい。
「ううん」
ユキナはかぶりを振った。
「シオリには死をもたらすとか、そんな力はなかったと思う。――多分、見届けて案内するだけ。何一つ出来なかったと思う」
縛られて過ごしていく、というのはそういう事だったんだろうか。
ユキナだけでなく、たくさんの人をただ見届けて、時には案内して来たんだろうか。
「……苦しいよね」
僕が言うと、ユキナは頷いた。
「うん。すごく」
路線バスはスピードを落として、道端にぽつんと立つポールの前に止まった。
「着いたよ」
バスを降りると、熱気と蝉の声が僕たちを包み込む。
「……暑い」
「退院したばかりだから無理しない方が」
「大丈夫だよ-。病気とかならともかく、事故で頭打っただけなんだから」
「その頭打ったせいで生死の境目漂ってたんだろ……」
――弥沢駅は、あの日と同じように、日射しの中で、草に埋もれていた。
「アキくん」
ゆーちゃんが、昔のように僕の名前を呼ぶ。
「ゆーちゃん」
僕も同じように、ゆーちゃんの名前を呼ぶ。
顔を見合わせてから、ふたり同時に笑った。
告白? 確かに子供の頃に「すき」とは言ったけど、あの頃の好きと今の好きなんて違うし。
責任を果たせた? そんな大げさなものじゃない。僕なんて忘れてたんだし。
じゃあ、なんで僕たちは笑ったのかって?
互いの顔を見た時、僕たちは気付いたから。
――こうして、十年後の8月にもう一度会えたことが。
僕たちは、ただ。
――嬉しかったんだ。
「また、会えたね!」
Rusty Rail 雪村悠佳 @yukimura_haruka
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