私達の世界





 


「中学のアルバムを取ってくれないか?」


 ぱたんと、小学校の重い卒業アルバムを閉じたレジーナが、今度は中学校の時のアルバムを要求する。


「……どっちのアルバム?」


 中学時代のアルバムは二種類ある。

 レジーナ達を含んだ身内だけが写った写真を収めたアルバムと、中学校の卒業アルバム。


「どちらも」


 ベッドの傍の棚。それの一番下の棚を開いた瑠美奈は、中から重たいアルバムを二冊取り出した。


「いよいよアルバムを開く意味も無くなった。まだ卒業してから半年も経ってない」


「私は一年以上経つ」


「なんで今同級生なんすかねえ」


 瑠美奈の悪態にも、レジーナは小さく笑うだけだった。

 微笑みながら、アルバムを開く。


「中学生までは、私の方が背が高かったのにな」


「女子は成長早いから」


「今では君の方が高くなってしまった」


「そうはいっても同じ位だろ」


 レジーナの身長は175センチメートル。

 対して瑠美奈の身長は178。

 そこまで大きく差はない。


 レジーナは有象無象のページを飛ばし、中学生二年の時の写真でページを捲る手を止めた。

 学校指定のジャージ姿の瑠美奈、レジーナ、世駆兎、明日美が身を寄せて、肩をくっつけて笑い合ってる写真だ。

 体育祭の時の写真で、撮られたシーンは競技が終わった直後のものでもなんでもなく、ただ暇な時間の時に談笑しながら歩いていた時のもの。


「この頃だったかな。私が君に初めてを捧げたのは」


 なんでその話題?と思いながら、瑠美奈は沈黙を貫いた。


「今でも鮮明に覚えてるよ。君と過ごした夜を」


 それから、レジーナは数点ある瑠美奈の写った写真を見た後、アルバムを閉じた。


「キスから先に進めて、とても喜んだことを覚えている」


「そう……」


 瑠美奈の膝の上で姿勢を変え、レジーナは彼の頬に唇をくっつける。

 耳たぶを甘く噛んだり、頬から唇まで、なぞるように軽くキスをしたりして、楽しそうに愛情を示す。


「身体を重ねる度に、君は少しずつ乱暴になっていって……困ったことに私は……」


 彼女が続きを言う前に、一度キスをした。レジーナはその美しい顔を、幸せそうに綻ばせる。


「どんどん君に惹かれて行った。もう後戻りできないくらいに」


 レジーナは瑠美奈の両手を取り、自身の首元まで持っていく。

 そのまま首に、瑠美奈の手を掛けて、その上から抑え込む。瑠美奈に自身の首を締めさせるような形になった。


「最近の君は、少しおとなしいね……あの時のようにしてごらんよ……」


「壊れたか?」


 ほんの少しだけ、瑠美奈は彼女の首に掛けた手に力を加えた。


「あ……ぐっ……」


 レジーナが苦痛で表情を歪めたのを見て、瑠美奈はぱっと手を放す。


「私はもう家に縛られない。君だけのモノになれる」


 体当たりをする勢いで、瑠美奈に抱き着いた。


「自由になった私を、好きなだけ縛り付ければいい」


 耳元で囁き、瑠美奈の情欲を煽る。


 瑠美奈の理性は、あっという間に焼き切れた。


 背の高いレジーナであっても、軽々お姫様抱っこで持ち上げて、傍のベッドに放り投げる。


「あはは。私の王子様は乱暴だな」


 レジーナは恍惚の表情で、部屋の明かりで陰になっている瑠美奈の顔を眺めた。


 


 ★




 誰もがレジーナを大切にする。

 割れ物を扱うように、大事に、大事に。


「はっ、はっ、はっ、はっ」


 瑠美奈の手が、レジーナの首を絞めた。


「本当だ。よく締まる」


 瑠美奈は狂気に染まった笑みをレジーナに見せた。


「ぐっ……あっ……」


 【くるしい】の一言さえも発することができない。

 だというのに、不安や絶望が片っ端から快楽と幸福に塗り替わっていく。


 レジーナが死に瀕する前に、先に瑠美奈が中で果てた。

 締められていた気道が解放され、レジーナは大きく口を開けて必死に酸素を取り込む。


「らんぼうだな……きみは……」


 ぜえぜえと息をしながら、青褪めた表情で瑠美奈を上目遣いに見つめる。


「うるさい」


 瑠美奈はレジーナを転がしてうつ伏せにし、頭を掴んで枕に顔を押し付けた。

 枕に染み付いた瑠美奈の匂いを、肺一杯に取り込んでしまったせいで、体中に快楽物質が巡る。


「ん~~~~?!」


 そのまま強引に捻じ込まれ、休む暇もなく二回目が始まる。


 恐怖を感じなければならない。

 生理的嫌悪感を抱かなければならない。

 死を遠ざけなければならない。


 人として当たり前の防衛反応が機能しない所か、レジーナは瑠美奈の凶暴な愛情を受けて、脳が焼き切れるほどの快楽を得てしまった。


 皆が褒める艶やかな銀髪も乱暴に掻き分けられ、染み一つない真っ白な肌には、鬱血痕と歯形が残される。


「明日はモデルの仕事があるから、痕はつけないで――」


 涙を零しながら懇願しても、瑠美奈は「指図するな」と聞き入れなかった。


 その日は朝まで、寝かせて貰えなかった。


 気を失うように眠りこけて、昼頃に目が覚めた。


 まだ眠っている瑠美奈を横目に、レジーナは出支度を始める。


 化粧鏡に写ったレジーナの首には、痛々しい締め痕が残されていた。


 その痕を見て、指でなぞって――レジーナはうっとりと微笑んだ。


 



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魔王と女神と妖精ばかり構ってたら、いつの間にか聖女と天使と女王が病み落ちしてた Zoisite @AnGell2

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