カクビアの学校

内海悠希

カクビアの学校

「はぁぁぁぁ……」


カクビア軍学校東棟の第二準備室にいたマユリ・アルファーゼは、悩んでいた。


「どうした、大丈夫か?」


教室のドアを開けながらそう優しく声をかけてくるのは、マユリの幼馴染でありライバルの、エトーーエト・アルマだ。


「大丈夫だったらこんなとこで居残りさせられてるわけないでしょ…」


「確かに。ごめんごめん。…で、何ができなくて居残りだっだっけ?」


エトはそう言いつつ、マユリが座っている席の近くまで来る。


「…魔法。基礎魔法の魔法陣すら書けないから、居残りしろって」


「えっ……?」


そう言って、エトは突然黙る。どうしたのかと思いマユリがエトをよく見ると、エトは微かに肩を震わせていることが分かった。


「どうしたの?」


マユリがそう聞くとエトは、もう堪えきれない、というふうに声を漏らした。


「ふっふ…あ、はははは」


馬鹿にされていると分かり、マユリは自身の頬が紅潮するのが自分でも分かる。


「なっ…。…もう知らないからね! これからはもう一緒にかえってやんないから!」


マユリが怒りながら言うと、エトは想像より酷い状況に驚いたのか、


「あ、ちがう、冗談だってば」


と少し慌てた口調で言った。


「うっそだぁ。内心そうやって思ってたんでしょ」


「いや、まぁちょっとぐらい思ったことはあるけど……。ほら、その分マユリは剣術に秀でてるじゃん。俺にも苦手分野とかあるし、別にいいと思う」


疑いながらエトの顔を覗き込むが、エトの顔から嘘をついている感じはない。


「……」


許してあげるかどうか迷っていると、エトが再び口を開いた。


「それに、一緒に帰ってもらわないと、困るし…」


そう、エトは、極度の方向音痴なのだ。ここの学校に入学してからかれこれ五年は経ったが、エトは未だに一人で家まで帰ることができない。ふざけているとかではなく、本当に、真剣に、帰れないのだ。ここの角を曲がってね、とか言っても、自分がどこからきたのかすら分からなくなるため、特に意味がない。模擬戦の時なんかはあんなに的確な指示を出すのに。普段は気が抜けているせいなのだろうか。


「お願い…!!」


エトは、胸の前で両手を合わせた。


「んまぁ、いいよ。私も夜遅くに一人で帰るの気がひけるし」


マユリがそう答えると、エトはニヤリと笑った。


「もしかして、マユリ。…暗いの怖いの?」


馬鹿にするような口調で聞いてくる。


「は?! そんなわけないでしょ!」


マユリが慌ててそう返した、その時だった。


「こんな所で何してんすか」


入り口から声がした。急いで入り口に視線を向けるとそこには、年齢は一つ下だが同期である、ハクノ・エリアスがいた。


「あっ、いや、特に何をしてたわけじゃ無いんだけど」


「ほんとですかねぇ? 先輩ら二人幼馴染なんでしょ?」


言い方はちょっと鼻につくが、マユリたちのことを先輩、と呼んでるあたり、ハクノの勤勉さが見て取れる。同期だが、一応年上ということで、気遣ってくれているのだ。


「本当に、何もしてないよ。私が居残りだったから、ちょっと手伝ってもらってただけ」


マユリが口を挟むと、マユリの方を向いてきた。


「居残りなのに、人に手伝ってもらってる時点で規則違反なんですけどね」


「あ、あはは」


苦笑する。先程気遣ってくれていると思ったばかりだが、やはりハクノは気遣ってくれてなどいない。きっと上部の人間に見せつけるためにやっているのだ、とマユリは思った。

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カクビアの学校 内海悠希 @utsumi7110

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