第9話 決着
◇ ◇ ◇
十分ほど待っていると、空気の壁が無くなった。
「行こう」
ソラキが全員にそう声を掛け、境界線を越えた。
境界線を越えても、誰も死ななかった。ヨツバが呪いを解いたということだった。
森を抜けると、そこには全く人気のない古びた街並みが広がっていた。すると、風がメイの周りを通り、一気に道を通り抜けた。
ヨツバが言ってた、案内のことなのだろう。
メイはそう信じ、その風を追って行った。
風を追っていくと、大きな門が見えた。でも、今にも壊れそうなほど、脆そうに見えた。
そしてその奥に、十人ほどの人間が銃を向けて立っていた。
メイは危険をなんとなく察知していた。でも、手の打ちようがないように思えた。
ここまで案内してきた風は、一気にその人間たちの奥まで進んでいき、消え去って行った。もう誰も助けてはくれない。
「残念だったな、竜雲の子」
「りゅううんの……こ……?」
「能力者のことだ」
リーダーらしき男とメイはそう言葉を交わした。
「まあ、君たちはここから逃げることができない」
「まだ決まったわけじゃない」
「決まってるさ」
リーダーらしき男は、やけに余裕そうだった。
そしてその男が手を上げると、他の男たちが射撃を行った。
銃弾は誰にも当たらなかったものの、相当な恐怖を感じた。
「……」
メイも、もう声が出なくなっていた。
「ほらな?」
リーダーらしき男は笑顔を浮かべてそう言った。
「……一つだけ選ばせてあげよう。ここで死ぬか、おとなしく帰るか。当然、後者をおすすめするがな」
その男はメイたちにその選択肢を出した。
でも、メイたちにその選択はできなかった。
ヨツバが命を失ってまで逃がしてくれたのに、戻るわけには行かない。
かと言って、ここを突破はできそうにない。
能力を持っているらしいが、何かもわからないのに使えるわけもない。
どうしようもない状況だった。
「メイ……」
ソラキがそう呟いた。メイが決めかねているのに、ソラキが決められるはずもなかった。
「無理……決められない」
メイはそう呟いた。
ソラキは、メイの思うことを理解した。でも、何もすることはできなかった。
その時、何かが飛んできて、銃を持った男の一人が弾け飛んだ。
「えっ……」
メイがその飛んできた方向を見ると、そこにはヨツバがいた。ゆっくりと、こっちに向かってきていた。
「ヨツバ……」
「待たせたな。間に合ってよかったよ」
ヨツバはそう言い、子供たちの上をジャンプして越え、男たちの前に立った。
「お前は……いや、お前も竜雲の子か」
身長を見てなのか、リーダーらしき男はヨツバにそう言った。
「確かに竜雲の子だった。でも今は違う」
「と、言うと……?」
「廃墟の守り神……それが今の俺だ」
「融合したのか」
「まあ、そういうことにしておこう」
メイには、ヨツバたちの会話がまるでよくわからなかった。
「ヨツバ、どういうこと……?」
「理解しなくていい」
ヨツバはメイの質問にそう答え、かがみながら地面に手を当てた。すると、他の男が数人一気に太い根に包まれた。その根の間からは血がにじみ出てきていた。
「ヨツバ……」
「黙ってろ……!! うるさい」
ヨツバはメイを突き放すような発言をした。
その瞬間に、複数の銃弾が、子供たちを狙って飛んできた。ヨツバは手で合図をし、根を操ってそれを防いだ。
「くそっ……」
男たちの中から、そんな声が聞こえた。
「全て、食らいつくす。この自然が」
ヨツバはそう言い、同じように手で合図をした。すると、他の男たちも、根に包まれた。
「チェックメイト」
ヨツバがそう言うと、根はその男たちを絞り尽くした。
根が無くなった時、そこには引き裂かれた肉だけが残っていた。人間の面影など、存在していなかった。
「ヨツバ……」
メイはそう呟いた。驚きがすごかった。
目の前で、知ってる人が、人を殺した。それは、すごく衝撃的な出来事だった。
「ごめん、メイ」
「大丈夫」
メイはそう言い、ヨツバに後ろから抱き着いた。抱きしめたような感じが強かったが。
「これで、邪魔するものは何もない。あとは、頑張って……ね」
ヨツバはそう言った。その声は、決して力強くはなかった。
「ヨツバは来ないの……?」
メイはそう聞いた。
「俺は
「……そっか」
ヨツバの説明に、メイは無理やり納得した。
「それに、俺の意識はもうすぐ奪われる」
「えっ……?」
どういうことか、メイにはわからなかった。
「この身体は、俺のものじゃないから。こうしないと、呪いなんて解けなかったから。しょうがないことだから……」
ヨツバは一生懸命にそう伝えた。何かに耐えているようでもあった。
「ありがとう……ヨツバ」
メイは、もう時間は長くないことを察したのか、そう言った。
「いつか、生まれ変わって、また出会えたら、その時は……幸せにするから。外の景色を一緒に見て、幸せに暮らす」
ヨツバは振り返り、メイの手を離し、メイたちの後ろに下がった。
「今度こそ、じゃあね、メイ」
ヨツバはそう言って、街の奥に消えていった。急に霧が発生し、その姿は見えなくなった。
「行こう、メイ」
ソラキがそう声を掛け、子供たちはその街を出た。
メイの目には、少しの涙があったが、メイはそれをなんとかこらえた。
――じゃあね、ヨツバ
廃墟の守り神 月影澪央 @reo_neko
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