第8話 実行

  ◇ ◇ ◇


 そして、とある晴れた日、作戦の実行日が来た。


 幸い、こうやって広まっていることは呪いの主である守り神には知られていないようだった。


「ヨツバ……」


 全員が屋敷の出入り口前に集まっていた。ヨツバ以外は、もう外に出ていた。


 メイ以外の人からすれば、ヨツバに会うのは久しぶりのことだった。

 でも、ヨツバにもう会うことはできない。それが現実だった。


「じゃあ、そこを真っ直ぐ抜ければ屋敷の外に出れる。そしたら、風が導いてくれるはずだよ。外の世界に。外の世界には、きっと助けてくれる人がいる……」


 ヨツバはメイの目の前に立って、そう言った。


「ヨツバ……!」

「生きて、メイ」


 ヨツバはそう言い残し、扉を勢いよく閉めた。

 すると、その扉の隙間から太い根が生えてきて、扉を固く閉ざした。


「ヨツバ!!」


 メイはそう叫んだが、ヨツバにその声は届かなかった。


「行こう、メイ」


 ソラキがそうメイに声を掛けた。


 メイはソラキたちに連れられ、森の中に向かった。


 そして、あのリボンがあるところまで来た。

 ちょうどそこには、空気の壁のようなものができていた。


 メイは、それがヨツバの能力だと気付いた。呪いが解けるまで、待っててほしいという意味だということも。


 でも、メイはどうやってヨツバが呪いを解くかは知らない。

 おそらく、言えばメイが止めるから、ヨツバは言わなかったのだろう。


 メイたちはただ、待つしかなかった。



  ◇ ◇ ◇



 ヨツバは扉を閉じた後、真っ直ぐあの部屋に向かった。


 ヨツバがその部屋に近づくと、扉に絡まっていた根が一気に引いて行った。


「ふぅ……」


 ヨツバは、大きく息を吐いた後、その扉のドアノブに手を掛けた。


 そして、一気に扉を開けた。


 中は真っ暗だった。クンがいなくなったから、明かりなど点くはずもなかった。


 そして正面の奥の床に、リョウが王のように座っていた。


「ついに来たのか……ヨツバ」


 リョウは長い髪をかき上げながら立ち上がり、そう言った。


「リョウ、二人は確実に殺したよな? 呪いで」

「……そうだな。二人だな」


 どちらも冷静だった。だからこそ、かなりの緊張感があった。


「リョウ、お前は何者なんだ」

「ふっ……」


 リョウはヨツバの質問に少し笑った。


 ヨツバの力では、そこまで調べることはできなかった。

 そんなヨツバをあざ笑っているかのようだった。


「私は君たちと同じような、ここの住民


 リョウはそう言った。説明するつもりはあるみたいだった。


「今は、廃墟ここの守り神。まあ、融合しただけなんだけど」


 リョウはヨツバにそう説明した。


「そして君は、止めに来たってことだよね? その様子だと」

「ああ」

「よく十年も閉じ込めてくれたものだ。その分、力のチャージは十分だよ」


 リョウはヨツバにゆっくりと近づいて行った。


「戦おう。全ての力を使い果たすまで」


 リョウがそう言うと、周りに、当たったら肉が切られてしまいそうな勢いの、鋭い風が吹き始めた。


 リョウの能力とヨツバの能力は似ていた。苦戦することは目に見えていた。


 ヨツバはしゃがんで床に右手をかざした。

 すると、周りから太い根が生えてきて、風を打ち消した。


「やるね。伊達に乗り込んできたわけじゃないと……」


 リョウは余裕そうにそう言った。


「そうだな。そんな考えもなく乗り込むなんて無謀なことしないさ。命は一つなんでね」


 ヨツバも余裕そうにそう返す。


 そして二人は同時に、刃物のような鋭い風を放った。


 その二つはギリギリのところで入れ違い、お互いに向かって行った。


 リョウは横に移動してかわした。

 ヨツバも同じようにかわしたが、左頬に切り傷を負った。でも、痛みを感じていないようだった。


「当たったのに、痛くないのか?」

「痛みには慣れてるんでね」


 ヨツバは強がってるわけではなく、本当に痛みを感じていなかった。

 ヨツバの感覚はすでに麻痺していた。


 そしてそのあと、二人は同じような撃ち合いを繰り返した。


 リョウは全ての攻撃をかわしていた。一方ヨツバも、根の力も借りながら全て防ぎきっていた。


 その時、リョウはさっきまでのピンポイントな攻撃とは裏腹に、広範囲の攻撃を仕掛けた。

 それによって、ヨツバは吹き飛ばされ、壁に激突した。


「っ……」


 虚弱体質のヨツバに、戦闘は不向きみたいだった。

 圧倒的な能力差があった。

 まず、ヨツバは能力を使ったこともあまりない。

 勝てるはずもない。


 もちろん、ヨツバはそんなことわかっているが。


「そんなものなのか? 乗り込んで来ておいて」


 リョウはそう言いながら、ヨツバに近寄っていく。


 ヨツバはぐったりとしていて、何も答えない。


「ここはしょうがなく、君を吸収して、全員殺そうか」


 リョウはヨツバを掴み上げ、そう言った。


 そして、クンを吸収した時と同じように、ヨツバを黒い煙が包んだ。


 ヨツバは吸収直前に、ニヤッと笑った。


 これは、ヨツバの狙いでもあった。犠牲になることで、できることがあったからだ。


 そしてヨツバは、クンと同じように、リョウに吸収されていった。


 その瞬間、リョウの見た目が、ヨツバになった。


 ヨツバの狙いはこれだった。

 クンができなかった、リョウを乗っ取ること。


 乗っ取れれば、呪いの解除も可能だった。

 その代わり、ここから離れることはできない。この身体は、廃墟ここの守り神なのだから。


 少しなら離れられるかもしれないが、メイたちと一緒に外の世界に出ることはできない。

 そういう意味で、「まあ……死なない可能性もなくはない。でも、逃げられないことに変わりはない」と言ったのだった。


 そして、ヨツバは部屋の中央に移動し、最初と同じように、床に手をかざした。


 その瞬間、魔法陣のようなものが床一杯にに出現した。


「……解呪」


 ヨツバがそう呟くと、その魔法陣は砕け散って行った。


「……できた」


 ヨツバは安心したようにそう呟いた。



「お前……何を勝手に……」

「吸収したお前のミスだ」


 ヨツバの身体からヨツバとリョウの二人の声が聞こえてくるという不思議な状況になっていた。


「だが、お前はもう逃げれない」

「俺は逃げる気なんてない」

「な……」


 リョウは、ヨツバが自分を犠牲にしてることを驚いていた。


 普通なら、自分の命を第一優先に考えるものだ。驚くのも当然のことだろう。


「俺は逃げれる身体じゃない。それなら、俺が犠牲になって、十二人の命が助かれば、それでいいと思ってる」

「……いい奴なんだな」

「合理的に考えただけだ」

「なるほど」


 ヨツバは立ち上がりながら、そんな会話をした。


 ヨツバの身体の中には、リョウとヨツバ、二つの意識がいることになる。

 実際にはリョウの身体の中に、となるが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る