第7話 明日って、来るんだよね……? ちゃんと

  ◇ ◇ ◇


 ――現在


「なるほど……」


 メイはヨツバがこのことを知るきっかけを知って、そう呟いた。


「それで、ヨシトとシキが死んだとき、それが事実になった。クンに頼んで、俺とメイだけは記憶が残るようにしてもらった。本当は、ソラキにも覚えてて欲しかったけど、二人が限界だって言われちゃってね……」


 ヨツバはそう続けた。



「……明日って、来るんだよね……? ちゃんと」


 メイは心配になったのか、ヨツバに心配そうに、そう聞いた。


「わからない。いずれ死ぬのが人間だ」


 ヨツバは冷静にそう答える。


「人間……なのかな……私たち」

「えっ?」

「違うかもしれないよ」


 メイはヨツバにそう言った。確かに、人間じゃない可能性はある。


「まあ、それでもいい。でも、ヨシトとシキが死んだのは事実だ」

「悲しくないの? 仲間が死んだっていうのに」


 メイはヨツバが冷静すぎることを疑っていた。


「悲しくない……って言ったら噓になる。でも、悲しんでる暇はないから」

「えっ?」

「永遠なんかはない。時間無いんだ」

「そう……だけど……」


 ヨツバは真剣だった。


「俺が何でこのこと話したと思ってんだ」

「え?」


 メイは何も答えられなかった。


「ここから逃げる」

「は?」


 確かに話には出てきた。でも、呪いの説明からすると、逃げるなんて不可能に思える。


「あ、俺じゃない。他のみんなだ」

「え?」


 もっと意味がわからない。呪いを知っているのはヨツバだけだし。


「俺はまともに走れない。足を引っ張るだけ。俺はここの呪いを抑えるための、生贄になる」


 ヨツバは、そんなことを言い出した。


「そんなの……」


 確かにヨツバは走れないから逃げるのは不可能かもしれない。でも、メイはヨツバがいないなんて考えられなかった。


「今までありがとう。俺の、生きる理由になってくれて」

「ヨツバ……」


 ヨツバは死ぬ間際かのような話をし始めた。


「毎日、苦しくて、辛くて、思い通りになんてならない」

「ヨツバ……」


 これが本心だということが、メイにはわかっていた。


「でも、必ず夜明けは来る。明けない夜はない。生きてるかは……別として」

「ヨツバ……!」


 ここでさっきの質問に、ヨツバにとっては前向きな答えを返した。


「いつか、生まれ変わって、また出会えたら、その時は……」

「やめて。やめてよ」

「メイ……」


 メイはこれ以上聞きたくなかった。死ぬ前提で話しているのが、嫌だった。


「まだ生きてるし、明日死ぬわけでもない。変なこと、言わないでよ」


 ヨツバはまだ、明日やるとは言っていない。なのに、何でこんなこと言うのか。メイはヨツバの考えがわからなかった。


「行動を起こさなければ、全員死ぬぞ。十三人の死か、十二人の生か。十二人の生を選ぶのは当然だろ」

「でも……」


 ヨツバの言う事は、確かに合理的かもしれない。でも、メイはヨツバだけが死ぬことに納得できなかった。


「とりあえず、作戦だけ言う」


 ヨツバはそう言い、メイの耳元で、ヨツバが考えている作戦を伝えた。


「……わっ……かった……」


 メイはヨツバが本気だということを悟った。


「俺がクンに託された理由は、俺が物理的に逃げられないから」

「託されたって? 呪いとかの情報なら、そこまで重く受け止めなくても……」

「あ、その……」



  ◇ ◇ ◇



 ――約十年前


「そして、あなたには、ここの子たちを開放してほしいの。私がリョウをどうにかする。だから、協力してほしい」


 クンはヨツバにそう言った。


「どういうふうに……?」

「脱出してくれれば、それでいい」


 クンはそうヨツバにそう言った。


「二十歳になると、全員死んでしまう。だから、すぐではないにせよ、時間は多くあるわけじゃない」


 クンは少し俯きながらそう言う。


「頼めるかな……? それなら、あなたの記憶と命を守る努力をする。呪いには対抗できないけど、境界線の位置も教える。だから……」


 クンは一生懸命、ヨツバに頼み込んだ。


「何を勝手なことを……」


 リョウは話を遮るようにそう言った。


「見てわかる通り、リョウはこんな奴。私が消えれば、絶対に暴走する。だから……!」

「黙れ!」

「暴走を止めて、ヨツバくん……」


 そして、クンはリョウに吸収された。



 異能力が実在することは、二人の能力を見てわかった。でも、呪いのことはわからない。仮に呪いが本当ならば、記憶を消したり、虚偽の記憶を植え付けたしされていることも真実となる。


 そして、この三つが真実の場合、二十歳になれば死ぬというのも真実と考えるべきとなる。


 年齢のことだというのはわかるが、今の年齢は全く分からない。あと何年あるのか、それは全く予想もできないことだった。


 仮にここまでのことが真実なら、脱走を考えなきゃいけない。生きるために必要なことだから。託されたのもあるし、できるだけのことを、やってみてもいいかもしれない。


 しばらく考えて、事実だと確認できればという話だが。



 それから、ヨツバはそのことをずっと考えていた。



  ◇ ◇ ◇



 ――現在


「なるほど……」


 メイはなんとなく理解した。


「だから俺は、ここで死ぬ」


 ヨツバはそう言い、部屋を出ていこうとした。


 メイは、そのヨツバの手を掴んで止めた。


「今、本当に暴走してるの?」

「暴走も何も、殺されるなら生き延びる努力をってだけだ。元々おかしいんだから」


 メイの質問に、ヨツバは顔を見せないままそう答える。


「それにしても、何で異能力者なんているのかな? 何で、生まれたの? 誰から? どうやって?」

「生まれた意味なんて知るかよ。知ったところで、何も変わらない」


 そしてヨツバはメイの手を振り払い、部屋を出ていった。



  ◇ ◇ ◇



 ――翌日


 メイはヨツバの部屋の前に来ていた。


 昨日のこともあり、メイはヨツバに話しかけられずにいた。


 その時、急に扉が開き、ヨツバが顔を出した。


「何? 入るなら勝手に入ってくればいい」


 ヨツバはメイにそう言い放った。


 メイは言われるがままにヨツバの部屋の中に入った。


「反対でもしに来たのか? 俺は作戦を変えるつもりはない」


 ヨツバは、メイが何も言っていないのにそう言いだした。メイが言いたいことは完全に読まれていたようだった。


「……死んでいい人なんて、いないと思う」


 メイはそう呟いた。


「だから、死んでほしくない、ヨツバには」


 これが、メイの本心だった。


「心配してもらう必要はない。まあ……死なない可能性もなくはないけど」

「ほんとに!?」

「でも、逃げれないことに変わりはない」

「えっ?」

「まあ、当日次第だから」


 ヨツバはそう言い、昨日と同じようにベッドに腰掛けた。


「メイは自分の命を優先しろ。俺が生きるか死ぬかより前に」


 ヨツバはそう続けた。


「……私がそこまで心配するのは、ヨツバのこと好きだからだよ」


 メイは唐突にそう言った。


「えっ?」


 ヨツバは驚きを隠せない様子だった。


「愛……だよ」


 メイは少し照れながらも、ヨツバにそう言った。


「……愛って、なんなの? 愛とか、好きとか、俺たちは、知らないわけだし、」


 ヨツバはそこで話を続けるのを止めた。


 ヨツバでも、メイは傷つけたくなかったからだ。


 だが、なんて答えたらいいのかはわからなかった。



  ◇ ◇ ◇



 それから、メイはヨツバの作戦に協力することを決めた。ヨツバから、自分の命を優先しろと言われたことが大きく影響していた。


 そして、他の子供たちにこのことを広め、周知を図った。


 どの子供たちも、メイが言うならと、賛同してくれた。


 ヨツバなら、こう簡単には行かなかっただろう。

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