第6話 あれは、十年前

  ◇ ◇ ◇


 ――約十年前


 ほぼ全ての子供たちが外で遊んでいる中、一人だけ、屋敷の中にいる少年がいた。少年と言うには幼すぎるくらいで、恐ろしくひどい顔色をしていた。


 この少年がヨツバで、この時から変わらず虚弱体質だった。


 彼は誰もいない屋敷の廊下を一人で歩いていた。ヨツバはいつもこんな感じだった。


 ヨツバはいつの間にか屋敷のすごく奥まで来ていた。ここまで来るのは初めてだった。


 曲がり角があり、そこを曲がると、少し豪華な扉があった。ヨツバは曲がり角から少し顔をを出してその扉を見つめた。


 少しそこで見ていると、急に扉が開いて中から銀髪で白いワンピースを着た、ヨツバよりもかなり身長の高い少女が飛び出してきた。


 開いている扉の少し外で止まり、中を睨んだ。


 そしてその部屋の中から、出てきた少女とほぼ真逆の、黒髪で黒いワンピースを着た少女がゆっくりと出てきた。


 ヨツバは思わず息を呑んだ。


 黒の少女は白の少女を睨んだ後、ヨツバにも目を向けた。


「誰だ。そこのチビ」


 黒の少女はそう言い放った。


 ヨツバは、この少女たちに見覚えはなかった。だから、ここに住む子供たちではないことはなんとなくわかっていた。危険だということも。でも、場所の雰囲気に呑まれて、足が竦み、逃げることはできなかった。


「あ……え……」


 ヨツバは、まともに声が出せなかった。


 その様子を見た黒の少女は、白の少女を再度睨んだ。


 その瞬間、ヨツバの周りを黒い膜や煙のようなものが包んだ。


 そして、一時的に意識を失った。



 目を覚ますと、よく見た天井があった。でも、明かりは点いていなくて、炎のようなものが揺らめいていた。


 起き上がると、目の前には向こうを向いている白の少女がいた。その奥には、黒の少女もいた。


「起きた……のね」

「は……はい」


 ヨツバは白の少女に話しかけられて、動揺していた。


 白の少女は立ち上がり、黒の少女を睨んだ。


「関係ない子まで巻き込まないで!」

「関係ないわけじゃないだろ? 一応、竜雲りゅううんの子なのだから」

「でも……!」

「それに、見られてしまっては困るからね」

「っ……」


 黒の少女は冷静だった。


「君、名前は?」


 黒の少女はヨツバにそう聞いた。


「ぼくは……ヨツバ……です」


 ヨツバはゆっくりとそう答えた。


「私はリョウ。そっちの白いのがクンだ」


 黒の少女はそう名乗った。ついでに白の少女の名前もわかった。


「ヨツバくんを、どうするつもりなの? リョウ」

「記憶を消させてもらう。ついでに、虚偽の記憶も植え付ける」


 クンの質問に、リョウが冷静に答える。


「またそうやって……」

「いつもやっているだろ?」


 リョウはクンの言う事に、冷静に対応していく。


「普段はしょうがない。だって、バレちゃいけないから。。でも今回は違う。相手は私たちのことを知ってる。そんな相手に……」

「同じことだ」

「でも……!」


 クンは、リョウのやり方に賛成できないようだった。そのおかげで、喧嘩しているということみたいだった。


「結局は、やりたくないだけだろ? でも、それじゃ意味がない」


 リョウはクンにそう言い聞かせた。


「私があなたを止める。ここで、何も知らないまま死んでいくなんて、おかしい」

「どう止める? 君は」


 クンの宣言に、リョウは少し煽るような感じで返した。



「ヨツバくん、ここにいる子たちはみんな、異能力っていうのを使える」


 クンはヨツバにそう話し始めた。


「いのうりょく……?」

「私みたいに炎を使えたり、」


 クンは、立ててあった、炎が消えたろうそくに、触れずに火をつけた。


「さっきのリョウみたいに、風を操ったりする」


 さっきの煙のようなものは、リョウの能力のようだった。

 その能力が風を操るのなら、さっきそれが黒かったのは、このろうそくの煙か、部屋に積もった埃かだろう。


「あなたたちはここに呪いで閉じ込められてる」

「のろい……?」


 ヨツバは、なんとなくは理解できていた。


「とある境界線を越えると、呪いで殺される」

「ころ……される……!?」


 ヨツバはとても驚いていた。


「そして、みんなの記憶から消える」

「きえる……」


 ここまでのことで驚いていることから、これはまだ理解できた。


「そう。あなたの記憶も、書き換えられた記憶。この前までは、ヨモヤという少年がいたけど、あなたは覚えていないでしょ?」

「ヨモヤ……だれ……?」


 ヨツバは本当に覚えていなかった。

 このことからも、本当に記憶は書き換えれれていたようだった。


「何を勝手なことを……」


 リョウが話を遮るようにそう言った。


「その気なら、記憶を消すよりも、ここで殺す」

「させないよ」


 そして、リョウはヨツバの答えを待たずに、さっきと同じような黒い煙のようなものを発生させた。


 その煙はクンを包み、クンを吸収していった。


「あとは……頼んだよ、ヨツバくん」


 ヨツバには、クンが消えかけながら言ったそんな言葉が聞こえた気がした。


 そしてその煙はリョウに吸収された。


 つまり、クンはリョウに吸収されたことになる。


 リョウはクンを吸収し切った後、ヨツバを睨んだ。


 リョウはヨツバを殺そうとしているのか、真っ直ぐ向かってきた。


 ヨツバは普段走らないのにも関わらず、走ってその部屋を出ようとした。


 すると、途中からリョウが消えかけたせいか、追いつかれずに部屋を出ることができた。


 そして扉を勢いよく閉め、背中でブロックするように扉にもたれかかった。


 その瞬間に、扉に太い根が生え、扉は見えなくなった。


「な、なに……」


 ヨツバは、扉からすぐに離れ、床に座り込み、そう呟いた。

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