第5話 真実
◇ ◇ ◇
「ヨツバ、大丈夫?」
メイはヨツバの部屋に入ってきながらそう言った。
「ああ、うん」
ヨツバはベッドに腰掛けながらそう答えた。
「っていうか、ほんと静かだよね、一階って」
「ああ、今日は特にな」
メイはヨツバの隣に腰掛けた。
「似てるだろ? あの日……ヨシトとシキが死んだ日。みんな、忘れてるだろうけど」
ヨツバはそう続けた。
「えっ……? 忘れてるって、どういう……?」
「誰も話さない。それは、言いたくない、思い出したくないっていうわけじゃなくて……忘れてる、覚えてない……だと思う」
「え……?」
メイはヨツバが言っていることがよくわからなかった。
あんな出来事があって、あの時はみんな悲しがってたし、話さないのは、みんなが悲しくなるから。ずっと、そう思ってた。
だからといって、ヨツバを疑うこともできない。ヨツバは冗談なんか言わないし、いつも生死の話をしているとはいえ、死をネタにしたりはしない。
なら、言っていることは真実で、ヨツバは、その理由も知っている……?
でも、何でそんなことを……
メイは一生懸命考え、そんな考えに至った。
ただ、メイの頭ではそこまでしか考えることができなかった。
「メイは、自分が何でここにいるか、疑問に思ったこと……ないか」
「えっ?」
ヨツバは急に変なことを言った。
「俺たちは、この施設に集められた。もしくは、生み出された存在。あの森を抜けた先にいる、人間たちとは違う。その人間たちには使えない能力を使える。俺もよく知らないけど」
ヨツバはメイの反応を無視してそう話し始めた。
「その能力……異能力には、危害をあたえるものとあたえないものがある。どれかは把握できないけど」
「な、何それ……」
メイは完全に動揺していた。
いきなりそんな信じられないようなことを言われて、簡単に信じられるはずない。
「見せた方が早い」
ヨツバはそう言い、積んであった本に手を向けた。
すると、その本は、ふわふわと宙に浮き、ヨツバの方にやって来た。
そしてヨツバの手の上に乗り、動きを止めた。
「え、ちょ、どういう……?」
当然の反応だった。
でも、ヨツバの言っていることが本当の事のように思えてくる行動でもあった。
「こういうのがその能力。心臓の石の感じからして、ヨシトは電気系の何か、シキは炎系の何かだろ。俺は自然を操る……いや、味方につける。そんな能力だ。能力は人によって違うし、他人のを知ることは、今のままではほぼ不可能……これでいいか? 説明は」
ヨツバはすごく冷静だった。
心臓の石とは、あの倒れていた時に上に乗っていた石のことだろう。メイもそれは理解していた。
「まあ……なんとなくは……でも、完全に信じたわけじゃないから……!」
「そうか」
そしてヨツバは立ち上がり、ベッドの向かいにあった木の椅子に座り直した。
「本当はこの時間でこの本を図書室に隠しておこうかとでも思ってたが……メイに話すのが一番早いと思ってさ」
そう言い、ヨツバはメイにその本のあるページを見せた。
そのページには、ヨツバがここまでに話したことが書かれていた。
どうやら、その本はヨツバがメモしている手帳のようなものみたいだった。
「この建物……あえて施設と言うが、この施設には、とある呪いが掛けられている」
「呪い?」
「そうだ」
ヨツバは短くそう答えると、すっとその場に立ち上がった。
「絶対にここから出ることができない……という呪い」
真っ直ぐメイを見つめ、ヨツバはそう言った。
「絶対に……ここから出ることのできない……呪い……?」
「そう。ヨシトもシキも、脱走のつもりはなかっただろうけど、その呪いによって死んだ。呪いなら、血も何もなかったのも、辻褄が合うだろ?」
「そう……だけど……」
「信じないなら信じなくていい」
ヨツバはそう言い、メイから手帳を奪い取った。そして手帳を閉じて積みあがった本たちの上に普通に戻した。
「一つ質問いい?」
「何だ」
メイは信じ切っていないものの、疑問をぶつけてみようとした。
「あの石、心臓の石……? それって、なんなの?」
「その石の本質か?」
「うん」
ヨツバは深い呼吸をして、説明を始めた。
「異能力者の死んだあとには、いや、呪いで殺された異能力者の亡骸には、能力を表した石が残る」
ヨツバはそう言った。
「それに触ったら、死ぬの?」
「え?」
メイの質問は、ヨツバにとっては驚くような質問だった。
「だって、シキは、ヨシトの石に触って……」
「そういう……感じだったのか……」
ヨツバはあの時の状況を理解した。
「多分だけど、これの呪いは、心臓がとあるところを越えると発動する」
「つまり……?」
「ヨシトは、ボールを追いかけて境界線を越えたと思う。シキは、石を触ろうとして越えたんだと思うよ。憶測でしかないけどな」
「……」
メイは何も言うことができなかった。
あまりにもヨツバが冷静だったこと、自分が思っていたことと違っていたこと、色々な要素が相まって、沈黙の時が流れてしまった。
「……でも、」
メイは少しの沈黙の末、話を切り出した。
「何でそんなこと知ってるの?」
「聞いた」
「誰から?」
「ここの守り神から」
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