第58話エピローグ2
2年生の夏休みは骨折のおかげで棒にふってしまったけど、時は流れ、3年生になり、卒業式を迎えていた。
僕と真白は3年生も同じクラスだった。そして、空音はいない。
2年生の夏休みに転校して行った。
隣の家は今も空き家だ。
僕が拒絶した結果だとはいえ、本当に二度と会えなくなっていた。
そういえば、大和と海老名は僕とは違うクラスになったけど、二人はくっついた様だ。
噂で海老名が大和の年上女房として君臨しているのを聞いた。大和、良かったな。
それと僕の命セーフ♪
陽葵ちゃんはその後、学力がメキメキと上がり、1年生の終わり頃にはトップクラスの成績になった。
だから、残念令嬢じゃないから僕の嫁になるという野望を捨てたかと言うと何故か捨ててくれなかった。
だから、僕は真白と婚約している事を陽葵ちゃんと莉子ちゃんに伝えた。
二人は二人で抱き合って泣いてしまったけど…僕、悪くないよね?
卒業式を迎え、送辞の贈る言葉は在校生代表は陽葵ちゃんだった。
そして、卒業式を終えて、みんなと最後のカラオケや喫茶店でのおしゃべりを一通り堪能した。
……
卒業式の後、自宅に帰って、僕は空音のことを思い出していた。
もう二度と空音に会えないのだろうか?
いや、会ってはダメだろう、僕は空音を甘やかさない自信がない。
もう、振られたことは恨んでいない。
時間って不思議だ。振られた時、あんな空音を恨んだくせに…死にたいと思った位落ち込んだのに…
今は真白に癒されてすっかり元気だ。
でも、時々空き家の空音の家を見ると、空音のことを思い出してしまう。
僕は以前、真白に聞いた。もし、僕が空音の反省を聞いて、許して復縁すると言ったらどうしたの?
って…真白は僕の二度と空音に会わないという宣言には反対していた。
でも、真白は…
『空音が反省して、更生して、悠馬と付き合うなら…その時は二人を祝福するわ…』
真白はどこまでも真白だった。好きな人の幸せを最優先する。
そのために自分が傷ついたとしても…
そういえば、恋敵の海老名にも僕に近づくことを許していた。
その結果、僕が海老名を選んでも、その時はその時だと…
真白はどこまでも好きな人の幸せを願う子だった。
だから、自分が悲しい思いをすることになっても、好きな人の幸せのためなら、自分は我慢する子だ。
僕はそんな真白に惹かれた。
僕の初恋って、真白なんだろうか? それとも空音?
始めて異性として好きになったのは空音だった。
でも、初めて愛したのは真白だった。
僕は空音のことを好きだったけど、空音のことなんて全然考えていなかった。
空音は多分、僕に優しくされたり、色々世話を焼かれるのが当たり前だと思っていたんだと思う。
僕のことを自分の一部だと思ってたんだろう。
だから、僕を振ったくせに、僕がいつまでも空音を待っていると思ってしまった。
でも、空音は変わったんだと思う。いつか、誕生日プレゼントに真白と空音、それに海老名からも同じプレゼントをもらった。
三人は僕のことを想っていてくれたんだろう。だから、僕の欲しいものがわかったんだ。
空音も僕のことを考えてくれるようになっていた。
でも、僕は空音を拒絶した。そして二度と会わないと宣言した。
だって、僕がそばにいたら、空音はまた僕に甘やかされておかしくなるかもしれない。
それに、その頃の僕の中には真白への愛情が深まっていった。
真白がずっと僕を見ていてくれたこと、僕のことを考え続けてくれたことに。
僕は真白と仮初の彼氏彼女になって、初めて愛というものを知った。気が付かされた。
真白を傷つけたくない。もう、あのころの僕の中には真白でいっぱいだったんだ。
真白の目の前で空音に優しくしたら、きっと真白は傷つく。
今の僕は真白のことを一番に想うようになっていた。
だから、僕は空音には会わない。
空音も会わないと言うだろう。空音は変わってきた。
僕と会ったら、自分が裏切ったことを僕が思い出してしまうからだと手紙に書いてあった。
それは事実だ。空音が僕のことを考えてくれる限り、僕と会おうとは思わないだろう。
……だから、二人は永遠に会えない。
十七年の歴史は終わりを告げていた。
……
2週間後、僕と真白は二人で、東京に向かう電車の中にいた。
二人は東京の同じ私大に合格していて、今日、上京する。僕と真白の家族に見送られて、もうじき、電車は出発しそうだ。
「あれ!? 海老名さんと大和君よ!」
「ホントだ! 二人共見送りに来てくれたんだ!」
「海老名さん、大和君と恋人同士になったんだね」
「ああ、そうみたいだね。二人で手を繋いでる。海老名相手だと大和そうとう苦労してそうだな」
二人は大きく手を振った。僕達が見えたんだろう。そうこうしていると、大船駅の発車のメロディ『Gota del Vient』がなった。これから横浜を離れて僕達は東京に向かい、東京で暮らす。多分、就職も東京だろう。
真白とは僕が18になった時に籍を入れていた。
僕と真白の両親の相談で、そうした。
大学を卒業して就職したら結婚式をしようと約束していた。
横浜との別れ、これから偶にしかこれないだろうな。
そんな事を想って、駅のホームを見ていると、
「―――――!!!!」
走り出す電車の中から僕はホームに空音の姿を見つけた。
空音の隣には藤沢がいた。僕は空音と目があった様な気がした。
そして、空音は頭を下げた。僕に謝罪をしているかの様に…
「…一生じゃなくてもいいと思ったの」
真白が話しだした。
「空音、だいぶ変わった様よ。藤沢君から聞いたよ」
「真白が今日の事、教えたの?」
「うん、勝手にごめんね。空音は私の幼馴染でもあるから、少し想う処があって」
「空音、もしかして、藤沢と?」
「うん、そうみたい。藤沢君、空音の事が気になって、2年生の夏休み、空音の事、慰めていたみたい。転校したけど、結構近くで、頻繁に会ううちに恋愛みたいになったみたい」
「そっか」
『誰か僕の代わりに空音をお願いします』
僕の願いは届いたんだ。
空音は顔を上げると笑顔を僕に返した。僕も笑顔で返した。
空音は僕の事を考えてくれるんだ。
空音が涙を流していたら、僕は罪悪感を感じたかもしれない。
でも、空音は僕の気持ちを考えてくれたのだろう。
僕の幼馴染 空音は無事更生したらしい。
高校卒業と同時に、僕は空音との初恋も無事卒業できたようだ。
これで横浜に何も思い残す事はなくなった。
新しい場所、東京に向かって、そして、真白との新しい生活が待っている場所へ向かって。
「わ、私、気持ちの整理はできてるから! 高校生じゃなくてもピチピチで、新鮮よ。17歳よ!」
僕が感慨深くなっていたのに、真白がまたいつものを発症した。
何か独り言を呟いているが、多分、今日、初夜を迎える様な妄想をしているのだろう。
いや、同棲じゃないし、部屋は別々だし…隣の部屋だけど…じきそういう関係になるのかな…真白、ムッツリでエロいし、僕達、もう結婚してるんだった。
でも、こんな時でも真白は真白だった。
僕は真白をしばらく放置していたけど、真白の頭をつついた。
「もうっ!?」
だって、置いてけぼりなんだもん。僕、寂しい。
真白は妄想を邪魔されて怒ったのか、でも、恥ずかしくなった様で、かぶっていた帽子を深く被って顔を隠した。
とても可愛らしかった。
「真白、好きです。僕と末永く一緒にいてください」
僕は突然真白に言ってしまった。
発作的に言ってしまった。真白の病、伝ったかな?
真白は動揺せず、頬を染めて、恥ずかしそうにして、
「こちらこそ、よろしくお願いします。私も悠馬の事、大好きだよ♪」
終わり
幼馴染にフラれたらサッカー部を追放されたので、もう一人の幼馴染と陰キャになる事にした。 島風 @lafite
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