カクヨム作家さんが学校に来なすった! 杜松の実ver.

杜松の実

第1話


 俺は俺がこの手のノリに向いていないことを重々承知している。それでも参加してみたい。だから扉に手をかけた。


ガラガラガラ……


 教室だ。今回は教室セットなのか。席に収まる四十名ほどの学生服を来た人間は、顔が十字のアタリ付けだけの、つらりとしたのっぺらぼう。こいつらはモブだ。

 そんなモブに見とれていると、


崇期:おはようございます。あれ? 遅刻? 見たことないお顔だけど。転校生かな? お名前を伺ってもいいですかね?


 教壇に立つ女性に話しかけられた。であれば、この人が崇期さんか。

 はっとして自分の顔に手を当てる。目鼻に触れた。俺はモブじゃない。指先を滑らし下ろすと口に当たった。


杜松の実:崇期さんですよね。こうして顔を合わせるのは初めてですね。僕、杜松ねずの実です。<崇期さんは柔らかな表情をして画面の向こうへさりげなく顔を向け、読者の存在を思い出させてくれる>あっ。ああ。えっと。はい。杜松の実って言います。初めまして、すみません。転校生です。


崇期:では、今日は特別にこの教室で授業受けていただいていいですよ。空いた席に座って。私の授業はちとハードですよ。ついてこられるかな〜? 前の学校では成績どうだったの?



杜松の実:成績ですか……。そうですね。結構いい方でした。とくに数学と物理、化学、現代文は。ああ! でも、英語はほんとからっきしでした。はい。えっと……。あの全然だめなんですよ。恥ずかしいくらいに。それで、成績は、英語はほんと下の方で。

<面白いことってどう書けばいいんだよ。チャンスが減っていく>



崇期:そうなの。ガハハハ。大丈夫大丈夫。半分怯えて、半分楽しむくらいでやってね。あ、このクラスでやっていくんだったら、係を決めなきゃね。役割分担だよ。そういう決まりだから。


 百葉箱撤去反対運動係 

 小さい石鹸重ね係

 白線の外のピラニアの世話係


とか、いろいろあるんだよ。え? 白線の外にいるのはワニでもサメでもなくピラニアなんだよ。うちの学校ではそうなの。とにかく、やってみたい係を言ってみて。



杜松の実:百葉箱撤去反対運動係って! 百葉箱撤去推進運動派でもいるんですか!? その人たちの目的、何!? 学校の気温知られて困るん? いや、何で? 意味、分からん。<大喜利の形になった。ここで何か書けっ、俺っ!>何でだろう。えーと、先生が、その日の気温で生徒を指すから、大体出席番号15番とか17番とかその辺の人ばかりが集中して当てられちゃって、それを不公平に感じた生徒が撤去運動でもしてんのかっ!? なんだ、それ! いっそ推進派に興味湧きました! 反対運動係にしますよ!

<駄目だ、長ったらしいだけでつまんない>


崇期:じゃあ、よろしくねー。では、さっそく朝の会だよ。今日さ、学校に来賓として〈マグマ共和国〉の方が来られるからね。いい? 廊下で会ったら必ずご挨拶だよ。なにかしてみたい質問とかある? 文化交流は大事だものねぇ。


<マグマ大使じゃん。いや、関係ないか。ここで溶岩としてのマグマいじりしてもウケないだろうな。共和国ってなんかアフリカのイメージあるな。アフリカあるある的な、アフリカいじりにしてみようか。あれ? でも、もしかしてそれって人種差別的な感じで、コンプラ的にアウト? わかんない。怖いからやめておこう。共和国……、きょうわこく、今日わこく。「今日、わんこ食う?」 駄目、こんなダジャレ絶対すべるなあ。どうしよう。いっそバカキャラに振ってみるか。「らいひんって何ですかあぁ?」ああ、さっき現代文得意って書いちゃった。あ、でもそれならこうすれば、いけるかも>


杜松の実:あの、すみません。らいひん、って何です?


ツッコミ君:いや、お前さっき現代文得意って言ってたやろ!! あれ、嘘か!? カッコつけにしても勉強できますアピールは引くで。


 モブの一人が立ち上がり声を上げた。そのモブの顔に表情が書き入れられていく。他のモブらが無い口を動かし笑う。ツッコミ君はこのクラスのひょうきん者のムードメーカーだ。


崇期:そういう質問しちゃダメでしょ! 教育委員会さんがザワザワするよ! 私も胸がザワついちゃったよー。


あ、もう授業はじまってる! 今日、チャイム鳴らないからね。マグマ共和国の方、犬の聴覚の3倍らしいから。……笑っちゃだめだよ。


あなたの知り合いにもすごい能力を持った人とかいるんじゃないの?



杜松の実:あ! 僕のお父さん、朝食5分くらいで食べますよ。早くないですか?


ツッコミ君:それ、まあまあ普通の人や。逆にお前どんだけ遅いねん。


崇期:人間、いろいろだよ。じゃあさっそく、1時限目は「国語」ね。


 大吉のおみくじが僕に牙を剥くよ

 指を切られて 家路につく

 おやつは 天地無用のプリン

 スプーンがないって どういうことだよ


これは今年も教科書に載らないことになった詩だよ。これって、作者はなにが言いたいんだと思う? 感じたことを書きだしてみよう!


ツッコミ君:おい、杜松の実。挽回のチャンスやで。答えてみ。


杜松の実:はい!<と手を挙げた>「指を切られて」とあるので、「牙を剥くよ」は紙で指が切れたことを指しているのだと思います。それから「天地無用」は、上下を返してはいけない、という意味なので、このプリンは蓋がなくてひっくり返すとこぼれてしまうのではないでしょうか。それから「天地無用」は運送用語なので、蓋のないプリンを切れて血が滴る手で慎重に家まで持ち帰ったのかな、とも思いました。そうやって考えると、最後の「スプーンがないって どういうことだよ」が、それだけ苦労して持ち帰ったのにスプーンがない、という嘆きに聞こえて、くすりと笑えます。

 

ツッコミ君:ほんとに得意じゃいかんやろ

 と呟いた。

 

崇期:さすがだね、いいところついてるよ。難しく考える必要ないのよ。だけど、心が思っていることを言葉にするのが難しいの。表現力が身についてなきゃだから。


今、パッと思いついた言葉をいくつか挙げてみて。



 自室を見回す。


杜松の実:本棚、パソコン、お酒、あとたばこ?



崇期:だいたいなに考えてるかわかるわ〜。じゃあ、その言葉に含まれてる感情を引きだすの。そう、心から作るの難しいでしょ? 自分の心もわからないときあるよね。だから、逆に言葉の中に普段の自分を発見できないかやってみるのよ。言葉を自分に寄せるみたいなね。言葉からなにを感じる?



あなた:読みたい、書きたい。会いたい、話がしたい。です。



崇期:すばらしい! ていうか、あなた、言葉慣れしてない? まぁ、いいや。私なんて、趣味で小説書いてるけど、タイトルから作っちゃうからね。タイトル生みだした時点で言いたいこと終わっちゃってるから。そうなのよ。あなたもそんな趣味持っていそうだね。


 出オチの常習犯

 キャッチフレーズ詐欺

 尻すぼみ逃走犯

 コメント・レビュー愉快犯

 

あなたの小説はどういう問題を抱えているかな?



あなた:想像力が足りない。時間が足りない。根気が足りない。文章表現を磨く読書を怠りながら、本を読んでいる。無いものだらけで、ないものねだりで、そのくせ書きたいものが、私をせっつく。最初の村で手に入れたひのきの棒でダンジョンに潜る喜びだけを目指して歩いている。攻略するためには装備を整えて、レベルを上げなけりゃいけないのは分かっているのに。あとは何が足りないですか? 私はあと何を持っていないのでしょうか。崇期さんに足りないものは何ですか?



崇期:これ、誘導尋問なんだよ……やっぱり、あなたカクヨム作家なんでしょ!? 学生のふりしてやってくるなんて……おちゃめ!


実はね、私も教員免許持ってないの。いきなりこんな告白してごめんね。ガッカリした?



杜松の実:えっ? いや、そういうこと聞いているんじゃなくて。コントですから持っていなくてもいいんですよ。それよりも、崇期さんにとって、自分に一番足りないものはなんですかって聞いているんです。



崇期:そうなんだ。せっかくこうして出会えたのに、もうすぐこの教室を追いだされてしまうのかと思うと寂しいよ。いや、あなたもだよ、あなたも私と一緒に放りだされるよ。まだカクヨムから追いだされていないだけマシと思わなきゃ。


最後にこれを読んでいる奇特なユーザーさんに一言ご挨拶して。




杜松の実:そうなんだって。まあ、いいか。えーと、はい。読者の皆さま、いかがだったでしょうか。すみません。あまり面白いことは書けませんでした。難しいですね。話を書きたくなったので、僕はお先に失礼します。さようなら。またお会いしましょう。




崇期:どうもありがとう。ではまた、どこかの企画で会いましょう。あなたの答え、とても気に入ったよ。成績として、胸に刻んでおくからねー。じゃあ、さようなら。

 



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