きるみーてんだー
サンカラメリべ
きるみーてんだー
「おはよ!」
俺を見下す可憐な少女の笑顔が一つ。あの顔は…同じクラスの
「えっと、おはよう! で、いいのか? ここはどこだ? 学校か? なんでお前は拳銃を持ってるんだ?」
「ここはねー、夢の中!」
「夢?」
「そ、それでこの拳銃は…」
そこまで言いかけて、その銃口を俺に向ける。
「君を殺すためのもの!」
ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!!!
続けざまに放たれた三発の銃弾が俺の頭と胸と腹を貫いていく。痛みは無かった。しかし、代わりに全身が燃え上がるかのような熱を感じると、疑問を口にすることもできないまま意識が混濁していき、やがてプツンと電源が切られたTVのように世界が閉じた。
「はっ」
何だ何だ何だ何だ何だ。全身に汗が噴き出る。生きている。動悸が酷い。夢か。夢だ。夢で、それで、それで何でお前はそこにいる?
「おはよ!」
笑顔でそう宣う恋歌。先ほどと変わらず俺を見下す彼女が右手に構える拳銃の銃口からは硝煙が昇っていた。
呆然としていた。何が起きたのかわからなかった。立ち尽くしていた。すると、再び銃声が聞こえて、また意識が途絶えて、また彼女に見下されている。それが繰り返されている。何度も、何度も、何度も、何度も、なん…。
「へぁっ!」
「あれ、初めて避けられちゃった」
避けた。避けれた。何度だ。何度殺された。五回は殺されている。
「でも残念、隙だらけ」
違った。これで七回目だ…。
先ほどから、俺はずっと無抵抗に殺され続けていた。死んで覚めるタイプの夢ではないらしい。俺が血を撒き散らして死んでも、意識が戻るたびに状況はリセットされ、ただ俺の意識と彼女自身だけはリセットされずに地続きだ。窓の外をちらっと見たが、太陽も雲も無く舞台背景の如く作り物じみた空が広がっていた。俺が復活するたび、彼女は笑顔で銃をぶっ放す。よく飽きないものだ。死に戻りが50回を越えた辺りからもう数えるのも億劫になってしまってやめた。だがしかし、何もせずに死んでいる訳じゃない。必死に対策は考えていた。彼女は一撃で仕留めたいのか俺の頭と胸を狙う。殺されるのが七回目の時に一度は銃弾を躱せたのは、そういう訳だ。
「まだ諦めないみたいだ。目がそう言ってる」
ここで、どういう訳か彼女はいったん銃の引き金を引く手を止めた。目でそんなことがわかるのか。そういう彼女の目は滑らかな黒真珠みたいに美しく夕陽の光を反射していながら、覗いている相手の視線を絡めとってしまうような濁りがあった。
「俺をどうしたいんだ」
「ずっとここにいて欲しい」
「どうしてだ」
「好きだから」
「好き…? 俺がか?」
「うん」
「えぁ、ん、そ、それこそ、なんで俺なんかを…?」
「顔が好み」
「なるほどね」
ドンッ!!! ブレイクタイムは終わりとばかりに容赦なく殺してくる。
「その好みの顔を傷つけていいのか?」
「わたしだけのものだから」
「俺の顔なんだけど」
「もうわたしのもの」
ドンッ!!!
「なんで俺を殺してる?」
「そういうおまじないなの」
ドンッ!!!
「どういう」
「ずっと好きな人を自分の夢の中に閉じ込めておくおまじない」
「黒魔術みたいだな」
「正解! れっきとした悪魔の魔術。わたしね、サモナーなの」
「現代でサモナー名乗るのはキツイな、と以前の俺なら思うが、今なら信じられる」
「ありがと」
ドンッ!!!
「俺を殺してる理由を教えてくれ」
「秘密」
「時間制限か? 自分の手で殺して閉じ込めておかなくちゃいけないとか」
「…」
「まじか。何点くれる?」
「88点」
ドンッ!!! ・・・?
「残念だったな!」
「また避けたね!」
咄嗟に近くの机で頭と胸を守る、が、銃弾は普通に貫通した。まるで紙装甲だと言わんばかりに勢いがちっとも死んでいなかった。それで俺は死んだ。だが、こんなんで諦める訳にはいかない。
「もう見切ったんだよ!」
ドンッ!!!
三度目の正直だ。今度は銃弾を避けた後、机を投げつけて相手の視界を奪う。俺は一目散に教室から逃げ出した。
走って逃げ回っているうちにわかった。ここは学校のようで学校じゃない。室名を示すプレートが教室のドア上に無く、廊下はどこまでも続いている。教室は六つで1セットらしく、六つごとに間に階段が挟まる。その階段もいつまで下っても一階に辿り着くことは無い。とはいえ、これは好都合だ。このまま階段を下り続けていれば追いつかれることは無いだろう。
「そんな甘くないよ」
「だよな」
ドンッ!!! 振り出しに戻る。
「流石にわたしだけがルール知ってるのはずるいよね。教えないけど」
「…わかったことはいくつかある。リスポーンキルで俺に何もさせないこともできるはずなのに俺が銃弾を避けるほどの猶予があるのは、お前にそうさせるルールがあるからだ」
「うん。そうだね」
「それと、お前には俺がどこにいるかわかるんだろ? ワープもできるのか?」
「答えてあげないよ」
「現実の世界で俺を彼氏にすることもできたんじゃないか? 自分で言うのも何だが、俺はちょろい。女子に告白されれば二つ返事でOKするぞ」
「現実だと、いつかわたしから離れて行っちゃうでしょ」
「確かに。死んだらそれでお別れだ」
「死ぬまで一緒になんていてくれる訳ないのに」
「俺たちは若いからな。爺だったならもっと説得力があっただろうに」
「ふふふ」
「ははは」
「…愛って何だと思う?」
「愛ね。それは物語に加えるエッセンスだ。香りづけだ。ほら、かき氷のシロップは全部同じ味だけど、匂いで違う味のように見せかけてるって言うだろ? 愛の香りがあれば、どんな言葉も甘く感じるのさ」
「ずいぶん詩的」
「殺されまくってテンションが変なんだよ。深夜テンションみたいに」
「そうなんだ。わたしもね、変になっちゃった。
「…ふぅん」
「いつまでもこうしてたいな…」
「それは困る」
「どうして?」
「殺されたくない」
「もう慣れたんじゃない?」
「俺は勇者じゃないんだ。復活の呪文を何度も唱えていれば、そのうち気が狂うだろうさ。窓を見ろ。時刻は夕方、生徒は家に帰る頃合いだ」
「夜は来ないよ。この世界じゃ」
「そうだ。お前にとっての愛は何だ? 俺が答えたんだ。次はお前の番だろ?」
「そうだね。わたしにとっての愛。それはね、魔法かな。だれもが自分自身にかけられる魔法」
「相手に、じゃなくてか?」
「うん。愛したいって思った時に、自分自身に魔法をかけるんだ。すると、その人が一番大切だって思える。そして、魔法の効力が切れる前にまたかける。放っておくと消えちゃうんだよ、愛って魔法は。だから、火に薪をくべるみたいにかけ直すんだ」
「で、今の場合の薪がその銃弾ってことなのか」
「当たり!」
ドンッ!!!
ドンッ!!!
次に目覚めると、恋歌は銃を下ろしていた。というか、隣にいた。隣で座っていた。
「顔、見せて」
長い前髪の間から覗く彼女の瞳と目が合う。これまで何度も殺されてきたが、不思議と恨みは無かった。夢の中だから、というのもあるんだろうが、それよりも復活するたびに見下してくる彼女の瞳に魅かれ始めている自分の変態的な情動のせいでもあった。
「好き。わたしね、いつも見てたんだよ。和愛くんの顔。頬の輪郭、眉の形、ちょっとつり気味の目、鼻の位置、唇の色合い。全部好き。もっと近くで、もっと近くで見せて」
彼女の顔が近づいていく。鼻先が触れ合いそうなほどに。俺が少し前に屈めば、キスをしてしまえるまでに。大きな目、整った鼻筋、薔薇のような唇の隙間から漏れた息が、そっと頬を撫でる。俺も彼女の瞳が見たかった。もっともっと距離を縮めて、もっともっと身近で見たかった。彼女の長すぎる前髪を俺の右手で持ち上げると、黒檀のような髪のカーテンの中から吸い込まれそうな蠱惑的な瞳の輝きが現れる。
「キス、したい?」
小悪魔が囁く。脳を蕩かすような声で。彼女の指が頬に。なぞるように、引き寄せるように。胸。胸が当たっている。
「あ…ああ…」
「ふふふ」
そっと彼女は唇を重ねる。柔らかい感触に戸惑っていると、あ、あれ、舌? 舌が…?
ドンッ!!! 側頭部を轟音と灼熱が突き抜けていった。
夢。夢だった。きっと。顔が赤いのも、彼女が少し恥ずかし気に見下しながら拳銃を構えているのも。
「ファーストなんだ。夢の中だけど」
何も聞こえない。考えが纏まらない。頭の中がぼんやりしていて、霧がかかったようだ。
「教えてあげる。わたしから拳銃を奪って殺してしまえば、この夢は終わるんだ。十五分間わたしから逃げ切ってもこの夢は終わるけど、それが無理だってのはもうわかるでしょ?」
「…そう、だな」
ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!!!
咄嗟に左に飛んで一発目は避ける。二発目も避けれたが、三発目は跳ね返ったものが右脇腹を掠った。すぐ傍の机を右手で掴み、彼女に向けて投げつけながら、彼女の背後に回る。彼女はそんなことお構いなしに教壇の上から銃弾を放ってくるが、それが仇となった。俺が思いっきり教壇を蹴り飛ばしたことで教壇の上にいた彼女はバランスを崩し、床に倒れた。その衝撃で手から拳銃が離れる。すかさずそれを奪い取り、起き上がろうともしない彼女の元に駆け寄る。
「チェックメイトだ」
「…負けちゃった。凄いね」
「だてに何十回も殺されてない。いろいろと作戦は考えていたんだ」
「それでわたしを殺せばいいよ。夢を終わらせたいでしょ」
そういう彼女はぐったりと無気力に笑う。殺す? 漫画で、映画で、この夢の中で何度も見てきたように、拳銃の引き金を引いて? 乱れた髪から零れる視線に釘付けになったまま、俺は立ちすくんでいた。
「殺さなかったらどうなるんだ?」
「十五分間わたしと一緒」
「それでいい」
「いいの? 復讐のチャンスだよ」
「ここは夢の中だ。夢の中での出来事に怨みもないし、夢の中に出てきた誰かさんに復讐する必要もない」
「嘘つき」
「嘘?」
「気付いてないと思ったの? 和愛くんさ、わたしに殺されて見下されてたの、喜んでたでしょ」
「…」
「…変態だね」
その一言ともに恋歌は起き上がり、俺の意表を衝いて拳銃を奪い返す。そして…
ドンッ!!!
俺が拳銃を取り返そうと腕を伸ばした瞬間、彼女は自らの側頭部を撃ち抜いた。飛び散る彼女の脳漿に塗れながら、俺が最後に見たのは勝ち誇った彼女のおぞましくも艶やかな勝利の笑みだった。
「嘘だろ。俺はこんな変態だったのか…」
気付けば目が覚めていた。夢、だったのか? 本当に? こんなにも記憶がはっきりしていることなんてあるのか? やばい。まじでやばい。主に股間が。こんな夢見てまともに学校なんて行けねぇ。休むか? どう言い訳する?
「かずちかー! 朝ご飯できてるわよー!」
無理だ。今日は母さんは仕事が休みで一日中家にいるんだった。仕方ない。学校、行くか。
「あー。今行く!」
登校すると、タイミングの悪いことに偶然にも玄関で恋歌と鉢合わせてしまった。靴を脱ぐのも忘れて、ついつい彼女のことを見つめてしまう。近くに居られると嫌でも目に入ってしまう体のライン。包容力を強調するような胸の膨らみ。締め切った部屋の窓のように誰の視線も拒む前髪。
「和愛くん、おはよ!」
「ああ、恋歌さん。おはよう」
夢の中でも聴いた挨拶。しかし、俺の記憶が正しければ現実の世界では今日初めて彼女と挨拶したはずなのだ。だから、親しくも何ともないのだ。彼女はさっさと靴を脱ぎ替えて、教室の方へ行ってしまった。やはり夢でしかなかったのか? そんな風に俺が考えていると、ふと彼女は足を止めて振り返る。そしてあの長い前髪のカーテンをほんの少しだけ開いて見せた。ゾクゾクしてしまうような、見下す目をした微笑とともに。
最悪だ。あんな夢を見たことなど誰にも明かすことはできないが、ちょっとでも隙があると途端に恋歌の顔ばかりが頭の中に思い浮かんでしまう。まともに授業が受けられたもんじゃない。極めつけは体育の時間だ。もはや暴力と言ってもいい彼女の肉体が躍動する様に俺の目は吸い寄せられ、友人にからかわれる程にはあからさまに彼女に”熱い”視線を送っていたのだ。いや、男子どもにからかわれるのはいい。問題なのは、女子たちにもそれが勘付かれていたことだ。恋愛に脳を支配された思春期女子たちが今頃俺に関してどんなトークを交わしているのかと考えると、心臓が痛い。それともこれはただ自意識過剰なだけで、実際には俺が話題に出ることなんて無いのかもしれない。そう願おう。うん。
恥ずかしさのあまり一刻も早く家に帰ろうと焦ったせいだろう。普段なら行うはずの無い馬鹿げたことをしでかしてしまった。学校にスマホを置き忘れてしまったようだ。ポケットにもバックにも見当たらない。幸い、学校は走って20分程度の場所にある。帰ってきて直ぐに気が付けて良かった。まだ部活動時間が始まったばかりだから、学校に入れる。
「待ってた」
そう思っていた。罠だった。放課後の、吹奏楽部の練習の音が聞こえる、夕陽が差し込むガラリとした教室で、彼女は俺の席の机の上に腰かけて俺を待っていた。
「”窓を見ろ。時刻は夕方、生徒は家に帰る頃合いだ”」
それは俺が夢の中で彼女に向けていったセリフ。一言一句違えることなく彼女は覚えていた。言葉の調子までも完璧に。まるで拳銃を握るような形で俺のスマホを右手に携えて。
「殺される準備はいい?」
彼女は笑う。残酷に、凶器のように、透明に、鋭く、つららのように、ゾッとするぐらい冷たくて、なのに水晶のように扇情的で、俺の心を燃え上がらせる。
「ドンッ!!!」
弾は無い。でも避けねばならないと本能が叫び、咄嗟に廊下に身を投げた。二発目が発射されることは無かった。教室には彼女の笑い声が響く。
「アハハ! ここは夢の中じゃないんだよ? 和愛くん」
白々しく、嘲笑する。その声が心地好く感じる。
「何度お前に殺されたと思ってるんだ?」
「830回」
「え?」
「830回だよ」
830回も? そんなに殺されたのか、俺は。
「そんなに殺されたのかって驚いた? 記憶に残ってないだけだよ。どうしてリスキルしないのか気になってたよね? あのおまじないには相手を殺せる回数に制限があるんだ。だから、最後の方は和愛くんと遊びたかった。ホントはリスキルしてたんだよ。意識が覚醒する前に」
そうだったのか。俺は遊ばれていたのか。俺の足搔きをきっとこいつは微笑ましく思っていたんだろう。始めから俺が勝つことは無いと決まっていたのだから。
「最後のアレは」
「どうだった? 和愛くんの驚いた顔、とっても可愛いかったよ?」
「アレの意味は?」
「831回目は必ず自分を殺さないといけないんだ。じゃないと、わたしだけあの世界に取り残される」
「回数にも意味があるんだな?」
「そうだけど、それは自分で調べてみてね」
「そうしよう。だからスマホを返してくれ」
「ここまでおいでよ」
ひらひらと手のひらで誘う仕草をする恋歌。明らかに何かを企んでいる。しかし、誘いに乗るしかない。小動物のようにそろそろと、警戒しながら彼女の元に向かう。
「おいでわたしの”勇者”さん」
勇者。それも俺が夢の中で口にした単語だ。ならば彼女はさしずめ魔王になるのだろうか。魔王は勇者を好きになるのだろうか。好きになった者を勇者にするのだろうか。
「ドンッ!!!」
予想はしていた。彼女は再び拳銃で撃つ真似をしてみせた。はったりだったのかもしれないが、俺は確かに二度目も避けた。
「ドッ⁉」
三度目はさせなかった。『ドンッ』と口にすることが引き金になっていると判断し、急いで彼女の口を塞ごうと走りこむと、勢い余って彼女の胸元に飛び込むような形になった。
「あっ⁉」
ガッシャ――――――――ン!!!!!!
か「残念!」
すんでのところで彼女は体をひねってそれを避けたが、教室はめちゃくちゃになり、彼女は避けた先にあった机に頭をぶつけてしまった。
「うっ。いった。あれ、おい! 大丈夫か⁉」
打ち所が悪かったのか⁉ 恋歌はぐったりとして動かない。自業自得ではある。それがどうした。俺は別に彼女に報いを受けて欲しかったわけじゃない。脳震盪か? 生きてるよな?
「おい! お…」
それは卑怯で計算尽くの騙し討ち。気付けば眼前には恋歌の瞳。唇に柔らかい感触。胸に押し付けられる母性の塊。俺は倒れこんだ恋歌に抱きしめられていた。口内をかき乱す滑らかな感触が理性を揺らがせる。
「ん…ん…」
動けない。動きたくない。二人は抱き合っていた。強く抱きしめ合っていた。
「ぷはっ!」
「まだ離さないよ」
「な! もうやめっ! んん⁉」
息が苦しくなってきた。頭がくらくらする。真っ白い世界が広がる。体中が熱い。ああ、俺を抱きしめる体が愛おしい。今この瞬間はもう何もいらない。体が激しくなる。燃え上がる。果てしなく。銀河の彼方に。何も考えられない。考えなくていい。ああ、このままで、このままで、いつまでもこのままで…。
教室の騒音は吹奏楽部の練習にかき消されて、誰の耳に入ることも無い。二人を見届けた夕陽は満足げに地平線の彼方へと帰っていく。窓から教室を覗いていた一羽のカラスは、興味を無くしたようにカァーと一声上げると、どこか遠くに飛び去った。
「おはよ」
彼女のささやきで目が覚める。日はとっくに暮れていた。吹奏楽部の練習も終わっていた。周囲を見渡すと、散らかっていた机と椅子が片付いていた。どうやら先に起きた彼女が荒れた教室を綺麗に元に戻してくれたようだ。
「帰ろっか」
そう言う彼女は、右手で俺の左手を固く握りしめていた。俺のスマホは学ランのポケットに入れられていた。
帰り道、街灯が照らすアスファルトは白っぽく、どこかうつらうつらした夢遊病患者の顔のようだった。
「殺される準備はいい?」
何の気なしに、彼女は微笑む。
「今度は俺が殺してやるよ」
「なら、殺し合おうよ。明日がある限り、ずっと」
「互いの匂いが離れなくなるぐらい、か?」
「ふふふ。そういうとこ、好き」
並ぶ二人の影は揺らめいて。
「わたしを殺して、いつまでも。わたしもあなたを殺すから」
月が出ている。祝福するような、呪われてしまうような、不気味で神秘的な丸い月が。どっちだっていい。
「じゃあね」
「ああ」
さぁ、今日も夢を見よう。
きるみーてんだー サンカラメリべ @nyankotamukiti
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