第144話:チェンジエンド
「何見てるの?」
「……卓球」
「あら、また珍しいものを」
「……」
じっと、テレビの向こう側を食い入るように見つめる少年の眼はキラキラと瞬く。とても速くて、とても強そうで、格闘技の殴り合いみたいな激しさもある。
「……これって、卓球なの?」
声をかけた母親もそのまま画面を見つめていた。自分の思っていた卓球とはあまりにも違う攻防であったから。
卓球に関わるもの以外、プロレベルの試合を目にする機会はそう多くない。中高の体育やゲームセンターでのレクリエーションぐらいで、部活レベルですら大半の人は目にすることなく、こんな世界があることも知らずに生きていく。
露出があるのは五輪の時期ぐらいだが、あの時期は色んな競技に目移りするため、卓球だけに注力して観戦する者はやはり多くない。
よくてメダルがかかった試合ぐらいだろう。
それも大半の者は試合結果のニュースで切り抜きを見るぐらい。それだって覇国中国や、欧州の強豪国などを乗り越えて、メダルを手にして初めて露出する機会を得られる。ゆえにその機会をもたらした者は卓球界での英雄となる。
が、一般層の知名度は高くならない。
所詮、ひと時の輝きでしかないから。
そのひと時の輝きでも喉から手が出るほど欲しい。それがマイナースポーツの厳しいところであり、苦しいところ。どの競技も日々悩んでいる。
結果がいる。
それを出す前提で、華のある選手がいる。
でも、その一人じゃ所詮は一過性。
たくさんいるのだ。界隈の盛り上がりが頂点に達し、初めて一般層にも届くようになる。国内プロリーグの盛り上がりも必要である。海外の、頂点の中国や伝統ある欧州で暴れ回る選手がいてもいい。
邪道を征く者、ちょっとしたヒールがいる方が盛り上がる。
百花繚乱、其処まで辿り着けるかどうか、それはわからない。スポーツ観戦に興味を持つ者、そのパイは今の時代それほど多くない。娯楽の多様化がその減少に拍車をかけているのが実情。メジャースポーツでさえその機運はある。
そんな時代に光を届けられるか。
明日へ繋げられるか。
その試金石が、今画面の向こうで繰り広げられている。
○
(あの時よりずっと、卓球が上手くなった。少しの揺さぶりじゃ全く揺らがない。もう、とっくに巧者の部類。しかも――)
激しい打ち合いであった。
(これだけ振り回してもついてくるっすか。太ももが一回り太くなってるの見ても、相当鍛え込んでいる。……やっぱ、卓球の花ってこういうのっすよね!)
後陣での打ち合い、ドライブ合戦、強打による超高速ラリー。
球の材質、大きさ、ネットの高さ、様々なルール変更の末に辿り着いた観客のための現代卓球。それにより多くの戦型が葬られてきた。
未だにプラ球はクソ、セルの方がよかった、などの意見は少なくない。ただ、それを言っているのは卓球界隈のみ。一般人は球の色が変わった程度しか知らないし、それとてもう風化するほどの時が経った。
前陣でのやり取りが面白くないとは言わない。
玄人受けするプレーはやはり前捌きにある。が、前でちまちまやるだけの競技を、果たして大衆は求めるだろうか。卓球に興味のない者が見て面白いだろうか。その自問自答の末、卓球は此処まで辿り着いた。
見る者を圧倒する迫力。
他の競技と比較しても、遜色がないほどの運動量。
それを狭い台を挟み行うのだ。
((強いッ!))
室内で、他の競技よりも狭い場所で出来る。それは欠点ではなく、アスリート化した選手をより大きく見せることにも繋がる。
大きく、強く、激しく――
左右に振る。揺さぶるために上下にも動かす。時折カットも混ぜる。目まぐるしい変化が二人の選手の間で行われていた。
「菊池はもうキャメラに夢中だな」
「……小生もメモを取っている」
「なんでだよ」
「小説のネタ、次はスポコンかな、と」
「はえ~」
「取れ高しかねええええ! うっひょおおおお、男も行ける気がして来たぜェ!」
「「……」」
力強いやり取りに、大勢の目が奪われていた。大味なだけでは飽きが来るも、卓球は元々小技の世界。
隙あらば――
「ここ」
観戦する天津風貴翔が溢したのと同時に、不知火湊が一気に台一つ分に近い距離を詰める。黒崎豹馬は自らの悪手に気づき、顔を歪めた。
ほんの少し落点が、浅い。
つまり、
「疾ィ!」
前の方で、角度を付けた打球を相手へ叩き込む好機。
雷鳴の如し一打が、豹馬の逆を突き迸る。
決まった、誰もがそう思った。
不知火湊も、観客に混じる猛者たちも、誰もが――
「それです」
だが、青森田中総監督の田中は笑みを深める。
相手の必殺、それを――
「ラァ!」
打ち砕いてこその才能。どの競技でも通用するであろう、その身体能力が卓球の世界を選んでくれた幸運。
それが魅せた。
「……今のが、カウンターになるのかよ」
「イッケメーン打法っす」
「にゃろ~」
普通なら抜ける。反応の速い貴翔でも同じ構図なら拾うのが限界だろう。それを豹馬は見事なフットワークと常軌を逸したフィジカルで何とか追いつき、ほぼ腕を伸ばし切った状態から振り抜いて見せた。
「日本人であれが出来るの、豹馬君だけですよね」
「他の国でもたぶん、王虎ぐらいしか無理だろ。つくづく、何で卓球なんだって才能だ。あの卓球歴でもう、此処まで駆け上がってきた」
目の肥えた卓球界隈のメディア連中も脱帽するしかない。
至高の才能を、あの魔女が磨き上げた。厳しい練習で有名な青森田中産、最高傑作と名高い男がとうとう日の目を見る。
見ろ、此処にスターがいるぞ、と。
(テンションマジ上がるっす。みんなの視線を感じる。白けた空気は一切ない。こういうのっしょ、こういうの魅せなきゃ、つまんねーっすよ!)
黒崎豹馬は最強の敵を前に嬉しそうに笑みをこぼす。自分が見惚れた、惚れ込んだ卓球はこういうのだったから。憧れの火山選手が外国人相手にバチバチやり合って、激しくて、速くて、そう言うのがやりたかった。
その感動を伝えたかった。
「……ふぅー」
対する不知火湊に笑顔はない。今のは完全に上回られた。
真剣な、昔のような殺気を相手へ向ける。
「あれ、もう遊びは終わりっすか?」
「……」
本気の本気。
喰らえ。
「は?」
豹馬、そして観戦している者たちが一斉に、呆気にとられた。
湊のサーブ、それは天高く、高く、高過ぎるほどにぶん投げた、投げ上げサーブであったのだ。え、ここでやるの、リスキー過ぎるだろ。
全員が混乱していた。
そんな中で、
「引っかかったな、間抜けめ!」
仕掛け人だけは悪戯っぽい笑みで舌すら出す。
勝負どころの良くない空気の入れ替え、プレーに緩急をつける、あとは驚かせる意味合いも兼ねた、良い会場限定、全力ぶん投げサーブである。
投げ上げサーブはその落下速度も回転に加えられるため、上手く打てれば凄まじい回転をかけることができる。ただ、当然トスの長さが長ければ長いほど、真っすぐ投げ上げる難易度は跳ね上がり、サーブの難度も爆上がり。
投げ上げ自体滅多に見ないが、この高さはもっと見ない。
ただの博打。
しかし、
「こーいうの、湊は絶対に決める」
湊を良く知るお隣さんは昔の自分すらネタにし始めた幼馴染の図太さに、帰ってきた悪戯小僧に、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「楽しんでいる湊は、最強だから」
そう、不知火湊の卓球はこういうのなのだ。
「あー、くそっ!」
回転方向はわかっていた。だけど、回転量が想定よりも遥かに多くて、回転方向に合わせたドライブすらもぶっちぎり、ぶっ飛んで行った。
激しい打ち合いの中、小細工で流れを変えるのは至難の業。観客受けも悪い。
でも、それが――
「おおおおおおおおおおおおお!」
どでかい小細工なら、全部まとめてぶち上げることができる。
「やっぱ……最高っすよ、不知火君!」
「換気終了。一気に行くぜ!」
「はっは、カモンカモンっす」
こちらも魅せる。
スター二人、二つの綺羅星が魅せる卓球はきっと卓球の界隈を越えて、一般層にも届く。盛り上がる。盛り上げなきゃいけない。
「……大仕事になりますね」
「ああ。女子もタレントぞろい。此処で盛り上げられないメディアなら、そんなもん要らねえよ。俺たちもふんどし締め直さないとな」
眩しい輝きを見つめるは、
「……俺、追いつけますか?」
「愚問だな。追いつく。そのために完成していた卓球を一度崩し、再構築しているんだ。時間はかかる。根気も必要だ。だが、必ず追いつく。追いつかせて見せる」
天津風貴翔とそのコーチである佐伯崇。
「それに、彼らがいるから前を得意とする選手も映える」
「……コーチも映えとか気にするんですね」
「……」
アスリートタイプの選手、大型の選手が猛威を振るう中、小兵が割って入れば更なる盛り上がりとなるだろう。
今、目の前で輝く者たちが、貴翔に限らず様々な選手を照らす。
でも、
「でも、俺、俺が――」
「俺が勝ちたい、輝きたい、か?」
「はい」
「なら、戦うしかないな。自分の持てる武器を鍛えて」
「はい」
自分が輝きたい。負けたくない。
この光景を見て、尚更そう思った。その様子を見て佐伯崇は小さく微笑む。彼なら大丈夫、必ず這い上がる。必ず追いつく。いや、追い抜く。
自分と同じ求道の道を征く者。ありがたいことに、貴翔の世代はメディア受けするスター候補がいる。なら、こういうキャラもありだろう。
自分の時とは違う。
きっと彼も輝きの一つとなる。
「来い、豹馬!」
「一応先輩っすよ? くん付けでよろしくっす!」
輝ける未来はきっと、もうすぐ――
○
僕は幸運だった。
父親の本気を受け止め切れず、全部放り投げて逃げたのに、その先で宝物に出会えたから。彼女たちと出会い、一緒に卓球を一から学ぶ。
自分だけの知識じゃ足りなかったから、教えるために様々な選手の卓球を見た。分析と言うほど高尚じゃないけれど、現役の頃の戦うための、相手の弱点を、綻びを探し出すだけの調べものとは違う。得るための学び。
それはそのまま、自分にとっても血肉となった。
教えながら、教わった。
『むずかしい』
「こう、ラケットは角度を決めて、球はこうやって食い込ませて打つんだ。ちゃんとこれ、翻訳されているかな? 通じてる? オッケー?」
「オッケー」
「英語、ってかオッケーは偉大だな、ほんと」
アマチュアの卓球を見る機会なんてきっと、一から勉強していないとなかった。山と同じ、上へ行けば行くほど植生は単一になっていく。下へ降れば降るほど、植生は豊かに、様々なものが咲き誇る。
良い悪いじゃない。強い弱いも関係ない。
好き嫌い、こだわり、それで楽しむ。そう、楽しい卓球は其処に在ったのだ。仕事などで日々忙しいのに、わざわざ場所代を払い、練習に時間を割いて、お金に余裕があれば教室やパーソナルに通う。そしてこれまた休日を割き、大会に出る。
そんな不思議な熱量、上とは違う、けど決して馬鹿にするようなものじゃない。それを知った。知ることが出来た。これも幸運だった。
「そうそう、良い感じ」
「イーカンジ?」
「スーパーグッド」
『バカみてー』
「おっ、喜んでるなぁ」
楽しいだけじゃ上ではきつい。でも、楽しさから得たものをブラッシュアップしたら戦える、無二の武器になる。あの頃、そんな打算的なことを考えていたわけじゃないけれど、きっと水にあったんだろうなぁ。
正直、アマチュアの人に指導しに行く時が一番楽しいし。
「グッドグッド」
「あはははは!」
「いい笑顔だ。そして笑い声は万国共通、笑顔も万国共通。沁みるなあ」
もちろん幅の広さが全てじゃない。全部を使いこなせれば最強かもしれないけれど、現実では練習時間は限られているし、選手寿命だって卓球は長い方じゃない。
選ぶ必要がある。
向き不向きもある。
ただ一つを磨き抜き、ただ一つを貫き通すのも道だ。
多くを知って、僕はかつて自分が否定した道も、自分に合わなかっただけと知った。世の中には父や小春、後から知ったけど貴翔とかも吐いてからが本番、そういう練習じゃないとやった気がしない、と言っていた。
生粋の狂人、ドM、よく言えば求道者か。
そのことを受け入れるのは少し時間がかかったけれど、受け入れるきっかけを作ってくれたのも彼女たちで、その幸運を、その恩を少しでも返したいと思っているんだけど、あっちはあっちで何故か恩人扱いしてくるから困る。
僕は与えられてばかりだったと思うんだけどなぁ。
「まーた湊くん、欧州行ったら絶対卓球台のある公園にいるんすもん」
「俺もやりたい」
「貴翔くんは駄目っス。加減知らねーっしょ」
「本気の良さを教える」
「ちびっこ泣くだけっすよ」
正解はない。だから難しい。日々勉強、そう思ったらより卓球が楽しくなった。今も楽しめている。勝ち負けで頭がポッカポカになる時もあるけどさ。
そりゃあ負けたくないし。一応、負けず嫌いだし。
「そろそろ時間っすよ」
「え、もうそんな時間!?」
「そういう時間」
「やっべえ。さすがに五輪ドタキャンはまずいか」
「不味いってか二度と日本の敷居跨げないっすよ。ただでさえ湊くん、女性関係ごたごたしてるんすから」
「やめてよ。僕も悩んでいるんだ。スーパーリーグに参戦する時、会う時間が取れないから別れようってメッセージ送ったら、無言で屋上の写真が送られてきたんだよ? 豹馬ならどうする? どうしたらいい?」
「美姫ちゃんと結婚する一択っすね」
「……え、でもぉ、その、ねえ」
「その態度が元凶」
「優柔不断な男は最悪っすね。なんでこれが卓球女子ウケ抜群なのかわからんす」
「それ」
「ぐっ、そっちだって浮名を流しているじゃないか」
「あれはあっちが売名で週刊誌にそういう風に見える写真流しているだけで、自分は潔白っすもん。アイドルは例外を作らない。自分の信条っス」
「俺、卓球の練習で忙しい」
「かっけーや、こいつら」
負けたら悔しい。負けたくない相手がいる。そういう相手に勝ったら、とても嬉しい。そんな相手がいなくなったらきっと寂しい。
『もう終わり?』
「ごめんね」
『……』
「あとでお兄ちゃんテレビに映るかもしれないから、それ見てくれると嬉しいなぁ。きっと楽しませてみせるよ。約束する」
『本当にうつるの?』
「たぶん。団体のメダルがかかった一戦だし」
『おー』
「相手は中国だけどね」
『あ』
「察したなぁ。でも、勝つよ。だから、見ててよ」
「オッケー」
「はは、サンキュー」
頂点の景色はたぶん、想像よりもずっと冷たくて、大変なものなんだと思う。あの人と戦う度に、そういうのが伝わるから。
でも、さすがにそろそろ誰かが引き摺り下ろしてあげなきゃ可哀そうだ。
「急げ。タクシー拾っておいたぞ」
「お、出来るバックアップ徹宵くんじゃないすか」
「この三人は、呑気が過ぎる」
「俺は焦ってる」
「なら走ってタクシーに乗り込め。とろとろ歩くな」
「試合前に走りたくない」
「ぐ、ぬ」
今回はシングルスも、団体も取る。あの人みたいに頂点を守り続ける自信はないけれど、頂点に立った経験はきっと指導に生かせる。
だから、喉から手が出るほど欲しい。
今年は全部毟り取る。
今なお君臨する王様から、五輪も、リーグ戦も、全部まとめて。
「気力は充分か、湊」
「今充電してきた」
「……そのようだな」
求道者にはなれない。向いてない。僕にとって卓球は楽しいもので、誰かと繋がれる、そういうものだから。
「ちな貴翔くん怪我してないすか?」
「してない。なぜ?」
「シングルスも出たいんすよ、自分」
「こいつ、性格終わってる」
「今のは豹馬がクソだなぁ」
「ああ」
何度も言う。
僕は本当に幸運だった。逃げた先に、答えがあったから。その幸運を、今充実できている幸せを、誰かに伝えたい、渡したい。
彼女たちが受け取ってくれないからさ。
だから、
「勝とう」
「当然」
「目立ってナンボっす」
「はは、頼もしい奴らだ。あとは緩いところさえなければな」
他の誰かに、今頑張っている人に、明日頑張ってくれるかもしれない人に、楽しんでくれている人に、親しんでくれている人に、伝えたい。
それが僕の大きな野望だ。
「金獲ったら、Tリーグももっと盛り上がるっすね。ってか、湊くんそろそろ帰ってくるんすよね? だって今年の成績なら、もうやることないっしょ?」
「うん、あの人倒し切って、MVP取ったら次はブンデスに行こうかなって」
「おいいいいいい!」
「何故にブンデス?」
「欧州の卓球も肌で感じたいじゃん」
「なるほど」
「なるほどじゃねーっすよ。ここでTリーグを全力で盛り上げないでどうするんすか! 金獲って、その立役者が舞い戻って、巨人大鵬卵焼き、に続かないと!」
「「「古い」」」
そのために今は上の景色を学ぶ。これは今しか学べないから。あと何年、トップフォームを維持できるかはわからない。さすがにあの人みたいに、十年単位で玉座を死守できる器量があるとも思わないし、長期政権に魅力も感じない。
楽しめないから、多分無理。
あとは上から下へ降って、その過程で色んな景色を見ながらまた学ぶ。
その全部を、ありったけを、
「よし、間に合ったな」
「会場前、何か騒がしそうっすね」
「嫌な予感が」
「俺は見た。姫路選手と趙選手がバチバチに睨み合っているところを。星宮選手も離れた場所でシャドーボクシングしていた。香月選手と王選手はひっかき合いしてた」
「……僕、別の入り口から会場入りすりゅ」
「時間がない。そして己が蒔いた種だ」
「いいよな、徹宵は。聖一筋だもん」
「……俺も気づけば詰まされたクチだ。あと、お前だけには、言われたくない」
「なんでだよ」
「なんででも、だ。何故、どうしてこうなったのか、俺にもわからん」
「人間、色々あるんだなぁ」
「お前はさすがにそろそろ整理しろ」
「……いやね、したくても出来ないのよ。夜中の屋上の写真、見る?」
「……なら姫路でいいだろ」
「それは、その、ひめちゃんが好みなのはね、事実なんだけどさ。その」
「その?」
「この前インタビューしてくれたアイドルがめっちゃ可愛くて、推しになっちゃったの。その子と結婚したい」
「「「死ねカス」」」
「てへ」
全力で伝えようと思う。そのために今日、一つ目の頂点を掴む。
「まあ、でも今はそういうのやる余裕も、時間もない。現役である時間が限られている内は、其処で全力を尽くしたいんだ」
「格好つけているとこ恐縮なんすけど」
「なに?」
「彼女たちに見つかったみたいっすよ。タクシー横転させる勢いで突っ込んできたっす。あ、貴翔くんはそのままで」
「何故に?」
「シングルス」
「三着のバーカ」
「ぐ、シンプル罵倒。何故、自分はあの試合、負けてしまったのか」
「に、逃げよう! ね、ね。今から大事な試合だし!」
「もう遅い」
僕は幸運だった。逃げたけど、きっとそれが最善の道だったんだと思う。僕は変わることが出来た。環境を変えることで、其処で出会うことで。
だから、いつか皆に返したい。
僕、不知火湊の、心の底からの感謝を。
ありがとう、を伝える。
それが僕の見つけた、胸を張って歩める――僕の道だから。
チェンジエンド 富士田けやき @Fujita_Keyaki
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