夏の箱庭
破滅
第1話
この人はわたしといる時だけ、優しくて寂しげな顔をする。わたしのなんでもない言葉で時々、悲しそうな…傷ついたような顔をする。そういうのは全部隠しているつもりなんだろうけど、わたしはいい子だし、他のみんなより賢いから。わかるの。
「
この人はよくそんな事を言う。ちょっと小っ恥ずかしいんだけど、その言葉を紡ぐ声が、わたしを見つめる瞳が、あまりにも愛おしげだからなにも言えなくなる。
ねえ、なんでそんな、ひどく懐かしむような顔で笑うの。
でもなぜかこれでいいやって思う。さみしいあなたはとっても綺麗だから。
わたしの家の近くには、
流涙ちゃんはいつも学ランみたいなそうじゃないような服を着てる。けど、これは制服じゃなくて私服らしい。わたしは流涙ちゃんが学校に行くところを見たことがないから、学年とか年齢とかもわかんない。教えてくれないし。
あと、流涙ちゃんはすっごく綺麗な見た目をしてる。肌は陶器みたいに真っ白だし、水色の目は砕いたビー玉みたいにキラキラ光る。目がでかくてまつ毛が長いから、真顔になると目力が強すぎてちょっとビビる。
紺色で毛先がだいぶ軽いボブは女子のわたしよりつやつやしてるし、なんか大人っぽい香りがするから逆に怖い。見る度にどこかの国の王子様みたいだなって思う。
でも、わたしは流涙ちゃんといつごろ出会ったのか覚えてない。覚えてられないくらい昔ではなかった気がするんだけど。というか、流涙ちゃんがいつからここにいるのか、どういう出会い方をしたのかとか、そういうことも一切覚えてないから不思議だ。不思議だけど、わたしの中では割とどうでもいい事だからそんなに気にならなかった。それ以上に、いつも優しくて大人っぽい流涙ちゃんが、時々すごく寂しそうな顔をする流涙ちゃんが大好きだった。
夏の箱庭 破滅 @yoru4893
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