第36話 1月30日③

「よーし! 今日こそはUFOキャッチャーで景品一個はゲットするぞー!」


 そう言って澪さんは一万円札を百円玉に両替していた。


「それだけ使えばさすがに一つは取れると思うんですけど?」

「じゃあ、五個に変更する!」


 五個か。

 ぬいぐるみとかを狙うなら、一万円で五個は澪さんのレベルだと打倒といったところか。

 もちろん運良く数回で取れることあるかもしれないし、お菓子類ならもっとたくさん取れるだろう。


「それから私一人の力で取りたいから正彦君は傍で見守ってるだけにしてね!」

「了解です」

「それじゃあ、何から取ろうかな~」


 大量の百円玉をカップに入れた澪さんはどの景品を取ろうかといろんな台を見て回る。


「よし、まずはこの可愛いぬいぐるみにする!」

「澪さんぬいぐるみ好きですよね」

「ぬいぐるみが好きっていうよりかは可愛いものが好きかな。前回正彦君がとってくれたぬいぐるみなんかは毎日抱き枕にしてるよ!」

「え、そうなんですか?」


 その証拠にと澪さんはベッドの上にちょこんと座っていた俺が取ったくまのぬいぐるみの写真を見せてくれた。


「この子を正彦君だと思って毎日抱っこして寝てるんだ~」

「恥ずかしいのでやめてください」

「うん。四月になったらやめるよ」

「その前にやめてください」

「え~。それは無理! じゃあ、やろ~っと!」


 最後は聞こえないふりをして澪さんはUFOキャッチャーを始めた。

 澪さんが選んだのは大きめのにぬいぐるみだったのでかなり苦戦しているようだった。

 転がして隙間に落とすタイプのやつなので、これを取るには根気が必要だ。

 なかなか取れない澪さんの姿を見て俺はアドバイスを出したくなったがぐっとこらえた。


「やっぱり難しい~!」

「この手は根気ゲーですから諦めずに頑張ってください」

「うん! 頑張る!」

 

 それから澪さんは根気よく続けて二千円くらい使ったところでようやくそのぬいぐるみをゲットすることができた。


「や、や、やったー!!!」

「おめでとうございます」

「ありがとう! 本当に嬉しいんだけど!」


 澪さんはその嬉しさを表現するようにぬいぐるみと共に俺に抱き着いてきた。


「よ~しこの調子で次も取るぞ~!」

「残り四個ですね」


 そのあとはコツを掴んだのか、澪さんは二個目、三個目と順調に景品をゲットしいった。

 さすがはゲーマーだな。

 そんな調子で澪さんと一緒に次の景品を選んでいるとある二人組と遭遇した。


「悟じゃないか」

「あ、正彦先輩。こんにちは」

「こんなとこで会うなんて奇遇だな。一人か?」

「あ、いえ……」

「悟~! 見て~取れた~!」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきて振り返ると、桃空がお菓子の箱を持ってこちらに向かってきていた。


「あれ、川崎先輩と、この前助けてくれたカッコいいお姉さんだ!」

「桃空もいたのか」

「やっぱりお二人は付き合ってたんですね!」


 桃空は瞳をキラキラと輝かせて俺たちのことを見ていた。

 そういえば、あの時はまだ付き合ってなかったんだよな。


「あーうん。ていっても付き合い始めたのは昨日だけど……」

「そうなんですか! てっきりあの頃から付き合ってるんだと思ってました!」

「そうだよね! ほんとに遅すぎって感じ!」

「遅くてすみませんね」

「まぁ、今こうして気持ちが通じ合ってるからいいんだけどね!」


 澪さんはそう言って俺の背中をバシバシと叩いた。

 

「なんかいいですね。そういうの」

「綺羅ちゃんだっけ?」

「はい」

「綺羅ちゃんにはそういう人はいないの?」

「そうですね……」


 桃空はチラッと悟のことを見たような気がした。


「いるにはいますね。ただ、その人、川崎先輩以上に鈍感そうなので、どうしようって感じです」

「私に相談しなさい! ほら、連絡先教えとくから!」

「え、いいんですか!? よろしくお願いします!」

「いつでも連絡してきてね! 返信は遅いかもしれないけど、それは許して」

「大丈夫です! よろしくお願いします! すみません。せっかくの二人のデートの邪魔をしちゃって」

「大丈夫だよ~! そっちも楽しんでね!」

「はい!」


 嬉しそうに笑った桃空は悟の手を引くとメダルコーナーへと向かって行った。

 

「さ、私たちもUFOキャッチャーに戻ろう~!」


 そう言って澪さんは次に取る景品を探し始めた。 

 あの二人のことが気になるが、今は置いておくか。

 今日は澪さんとのデートだしな。

 その後も澪さんはUFOキャッチャーの腕をどんどんと上げていき、五個の景品を見事にゲットしていた。


☆☆☆

 

 

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