第2話 結婚するの?

浅木達美あさぎたつみは、高校卒業を一週間後に控えてて、少し鬱気味だった。

大学には合格しているが、大好きな熊谷涼くまだりょうと離れ離れになるからだ。

涼には彼女がいる,つまり、達美の片思いだ。

涼と彼女は隣町の大学へ行くことになっていて、達美の大学は東京だ。

幼馴染のふたりはいつも一緒にいたが、涼に彼女が出来てから、疎遠になってしまった。

達美は彼女を憎んだが、同級生の志田真美に

「そんなことしても涼に嫌われて、どうしようもなくなるよ」

と、諭されていた。

「わかっている、涼に嫌われたらそれこそ立ち直れない」


学校の帰り道,今まで見たことのないほど高い建物が見えた。

「こんなところにこんな建物あったっけ?」

興味が湧いた達美は、建物の入り口を探した。


正面に重厚な木の扉がある。

「自動ドアじゃないんだ・・・」

扉に手をあてた瞬間、扉が開いた。

「えっ!」

ビュンと風が吹いた瞬間中に引き込まれた。

「イタタタ・・・」

気がついて周りを見渡すと小さな赤い鳥居が見えた。

「ビルの中に鳥居?」

近くに行くと「夢の入り口」の看板があった。

その横に

「願い事を言ってから鳥居をくぐると叶います」

と書いてある。


「本当に?」


半信半疑だが、達美の願いは一つだけだ。

「熊谷涼と結婚したい」

鳥居を潜った。


なんの変化も感じられなかった。

「何も変わらないじゃない、帰ろう」

扉を開け外に出るとなんとなく景色が変わって見える。

「気のせいか」

歩き出した達美の後ろで、バタンと大きな音がした。

振り返ると建物が消えていた。

「え〜何?白日夢?」

早歩きでその場を離れようとしたその時、携帯が鳴った。

「ビックリした!誰、このタイミングで」

涼からの電話だった。

「たっちん、どこにいるんだよ」

涼が達美を呼ぶ時の言い方だ。最近は聞いていなかった。

「今、帰り道」

「帰り道ってどこの?式場で待ってるって言ったよね」

「えっ、式場?どこ?」

「大丈夫か?麻布!」

「麻布・・・」

そばの電信柱の住所表示を見ると「麻布」となっている。

「ごめん,すぐ行く」

電話を切って走った。が、訳がわからない。

式場についてガラスに映っている自分の姿を見て驚いた。

「なんで?幾つの設定?」


「たっちん!こっち!」

涼が階段の上から呼んでいる。駆け上がっていくとテーブルが並んでいて、それぞれにカップルが楽しそうに打ち合わせをしている。

涼が達美の手をとって

「ほら、こっち」

と言って一つの椅子に座らせる。

「結婚式の料理なんだけどさ、洋風でいいよね?」

「料理・・・結婚式・・・」

「たっちん、熱あるの?顔赤いよ」

涼が,達美のおでこに手を当てる。

「式が近い花嫁さんは、嬉しさで知恵熱を出される方多いんですよ」

コーディネートの女性が言った。

「そうなんだ、小さい頃から一緒にいたけど、結婚式は違うんだね」

達美は嬉しさと戸惑いで、気絶しそうだった。


打ち合わせが終わり、

「たっちん,家寄って行くでしょう?」

手を握りながら涼が聞いた。

「いえ・・」

「えっ?来ないの?」

「あ,家ね。行くわよ、もちろん!」


電車に乗ってどこかの駅で降りた。達美は大学は東京だがまだ通っていない、

地理がわからないまま涼についてきている。

マンションの部屋に入って涼が

「珈琲にしようか。あ、でもやめよう」

「どうして?」

「だってあとでキスする時、珈琲の香りがするもん」

「キ・キス・・って」

「何赤くなってるの?初めてじゃないじゃん」

(そうなの?すでに・・私たち・・)

「先にシャワー浴びてくるね、好きにしてて」

「うん・・」

(どうなってる?願いは叶ったってこと?本当に?マジ,すごい)


腰にバスタオルを巻いただけの姿で、涼がシャワー室から出てきた。

「きゃっ!」

「どうしたの?今日は変だよ?ほら、たっちんも入っておいで」

シャワー室に連れて行かれた。

「こうなればどうにでもなれよ!」


「初めての相手が、涼だなんて、なんて幸せなんだ,私」


この世界での達美は済んでいても、達美本人にとっては初体験だった。

横で眠っている涼の顔を見て、達美は思った。

「ダメだ、現実の涼とじゃなきゃ、しあわせになれない」

涼の頬にキスをしてから、服を着て部屋を出た。

達美の目に涙が溢れた、せめて結婚式はすれば良かったかも・・


心の中で(ありがとうございました、もう現実に戻してください)と祈った。

するとあの建物が突然見えた。正面の重厚な扉を開けた・・


「おい、たっちん」

涼が卒業式の帰り道,声をかけてきた。

「なに?」

あの時の涼の顔が頭に浮かんで、赤くなりながら答えた。

「たっちん、東京行くんだよな、大学」

「そう、長いこと学校一緒だったけど,初めて別になったね」

「それなんだよな」

「何が?」

「俺たち離れるのはおかしいだろう」

「は?」

「幼稚園から一緒でさ、今更離れるのはおかしいってこと」

「どういうこと?」

「大学行くのやめない?」

「何言ってんの」

「俺が卒業するまでさ,家の手伝いして待っててよ。いや,俺も大学行くの辞めるか」

「ちょっと落ち着いて。何言ってんの?私は別として,涼は大学行かなくちゃ。お父さんの会社継ぐんでしょう」

「継いだ時に学歴必要か?高卒の社長ってダメか?」

「ダメじゃないだろうけど、涼のお父さんがなんて言うか。私が怒られるよ」

「よく二人で悪戯して怒られたな」

「そう,涼のお父さん怖いもん」

「あのさ、結婚してくれない?」

「・・・」

「え〜ダメなの?」

「涼には彼女がいるじゃない。どうするのよ」

「ちゃんと別れたよ、さっき」

「はぁ?」

「俺はたっちんと結婚したいの」

「もし、この先好きな人が出来たらどうするのよ?」

「付き合う、でも結婚はたっちんとする」


達美は思いっきり笑い出した。

「浮気はするけど,待っていろってこと?」

「そうなるか?ダメだな」

「ダメよね」

「わかった!ちょっと来い」


涼が達美の手をとり、自宅へ向かった。

部屋に入るなり涼が言った。

「今日さ、お互いの両親に言う。大学は行く。でも、先に結婚してからだ」

「なぜそんなに急ぐの?」

「夢を見た、結婚式の前日、たっちんがいなくなった。すごくショックで、俺が一番好きなのはたっちんなんだってわかった」

「うそっ・・・」

「嘘じゃないよ。絶対浮気はしない・・と思う。でも、嫁は達美だけだ」


現実でも結ばれたふたりだが、案の定、親には早いと反対された。

想定内の二人なのでお互いを信じて勉学に励むことにした。


「お稲荷様ありがとうございました」

あの鳥居には願い事の仕方の下に稲荷神社と記載されていた。

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