願いが叶っちゃう・かも

@cloth-pigeon

第1話 制服大好き

北山比呂きたやまひろは、学校の行き帰りに使う都電の運転士に夢中になっている。

同級生の長谷部は毎回揶揄っている。

「そんなに好きならなっちゃえば?」

「何に?」

「都電の運転士、そしたら毎日着られるじゃない」

「自分が着るのは興味ないの、着ているのを見るのが好きなの!」

「どんなにカッコよくっても制服は脱ぐんだよ。カッコいいって言ってた人の普段着見ても、全く興味を示さないなんて相手に失礼だよ」

「だね、違うんだよねぇ」

「まったく、学校遅れるよ。急げ!」


比呂はとにかく制服が大好き。

サラリーマンのスーツは対象外のようで運転士系が大好きだ。

ある日、憧れていた運転士の仕事が終わり、目の前に普段着で現れた時に

「違う!」

と、言ってショックを受けたことがあった。

その時、自分はが好きなのだとわかった。

都電には女性の運転士もいるのだが、興味は無いらしい。ひたすら男性の制服姿が良いらしい。

理由は早くに他界した父親が自衛官で、小さかった比呂は制服姿イコール父親の図式になっているようだ。


ゆねは別に見ているだけで、誰にも迷惑をかけていないのだからと放って置いた。


「ゆねちゃん、比呂お邪魔してない?」

比呂の母親から連絡を受けて初めて、比呂が帰宅していないことを知った。

「いつもの駅で別れて帰りましたよ」

「そう、連絡が取れないのよね。全くどこほっつき歩いているんだか」

「私も探してみますね」

「ごめんね、でも無理しないでよ」

ゆねは携帯に連絡したり,LINEを送ったりしたが比呂からは返事がなかった。

取り敢えずいつも比呂が行っている、都電の停留所に行ってみることにした。

終電にはまだ時間があったからだ。

「ゆね、俺も行くよ」

兄の健史たけしが上着を着て声をかけて来た。

妹が巻き込まれてもいけないし、比呂を憎からず思っていたからだ。


いつもの停留所に比呂の姿はなかった。

「兄貴、営業所行ってみる」

ふたりは都電に乗って、営業所前で下車して周辺を捜した。

兄が営業所の中にいた人に話を聞いたが、

「今日は彼女見てないな」

と、言いながら他の運転士にも聞いてくれた。

比呂は運転士の間で有名人らしく、最初は勘違いをした人が続出したらしい。

今は皆んなが比呂の姿を見ると、手を振ってくれるようになっていた。

「今日は朝夕いつもの子と一緒にいるところを見ただけで、ひとりになっては見てないようだよ」

「ありがとうございました」

営業所をでたところで、ちょうど戻ってきた運転士の智明ともあきに会った。

智明は比呂が特に気に入っている運転士だ。

「おつかれさま」

「どうしたの?ゆねも青い顔してそこに立っていたけど」

「ああ、比呂が帰ってこないので探していて」

「比呂?さっき王子駅で見かけたよ」

「本当に?ありがとう」


健史とゆねは、入ってきた都電に飛び乗り王子に向かった。


結局その晩は、比呂を見つけることが出来なかった。

比呂の母親は大袈裟にしたく無いとはいえ、一応警察に届けを出した。


翌日は土曜日で学校が休みなので、ゆねは都電に乗って比呂を探すことにした。

兄はデートをすっぽかす訳にはいかないと、朝から出かけている。

乗りあわせた運転士に

「比呂ちゃんまだ見つからないの?」

と、声をかけられる。


昨日最後に見かけたという王子駅で降りて、飛鳥山周辺を探すことにした。

土曜日なのとお天気がいい日で結構人が出ている。

自分が知っている飛鳥山は一部分なんだと、驚くくらい広い公園だった。

その足で王子稲荷神社まで行ってみた。

比呂が好きな場所なのだ。もう少し足を伸ばすと名主の滝公園に着く。

「ここで手がかりがなかったら諦めよう」


掃除をしている女性に

「高校生を昨日から今日にかけて見かけませんでしたか?」

聞いてみると

「そう言えば昨日遅い時間に、ひとりで歩いている子を見かけたわね」

「本当ですか?どこに行きましたか?」

「王子稲荷の階段を上がって行ったわ」

「ありがとうございます」

もう一度王子稲荷神社に戻り、社殿から奥の狐の穴跡を探した。

すると参拝者がいないのに、本坪鈴ほんつぼすずの音が聞こえた。

「えっ?」

すると足元に何か落ちてきた。

拾い上げると比呂の定期入れだった。


その頃比呂は、年上の男についてビルの階段を上がっていた。

その男は自衛隊の制服を着ていた。帽子で顔ははっきりしないが、精悍な顔立ちをしていた。

すると比呂が口を開き

、何処行くの?」

と聞いた。

「お父さんのいるところだよ」

男は答える。

「この扉を開けたらお父さんのいるところだ。お母さんもいるよ」

「お母さんも?」

「そうだよ、一緒に暮らせるんだ」


扉を開けた瞬間、光りが比呂の身体を覆った。



「ほら,比呂時間だよ。起きなさい」

「ん〜まだ眠いよー」

「学校遅れるよ」

えっ!お父さん!

「なんだよ、不思議なものを見るような顔して、お父さんの顔に何かついているか?」

「うん、目と鼻と口がある」

「馬鹿なことを言ってないで、支度して学校行ってこい」

「ねぇ、ずっといるよね。帰ってくるまでいるよね」

「いるよ、どこも行かないよ」


比呂は支度をして学校へ向かった。

いつもの都電停留所でゆねと待ち合わせる。現実の世界と一緒だ。

「都電の運転士は私のことわかるのかな?」

「なに独り言言っているの?」

ゆねから背中を押されて都電に乗り込む。

ちょうど運転士は智明だった。

「おはようございます」

「おお,おはよう」

いつもと同じ挨拶をしてくれる。


比呂は今いる世界が違うことを知っている。お父さんがいるわけない。

でもお稲荷様が叶えてくれたんだ。

「少しの間でいいからお父さんと過ごしたい」

そうお願いしたことを叶えてくれたんだ。


学校が終わり一目散に家に帰ると

「お父さん!」

と大声で呼んでみる。

「お父さんは仕事よ」

母が代わりに答える。

「何時に帰るの?」

「7時には帰るでしょう」

時計が止まっているのか?と思うくらい時間が経つのが遅い。

やっと7時になった。

玄関で父の帰りを待っていると、智明と一緒に帰ってきた。

「おかえりなさい!」

父親に飛びつくと

「そろそろ嫁に行く子がいつまでも、父親にくっついていると変に思われるぞ」

と父親が言った。

「えっ?」

そばにいる智明が

「そこが比呂のいいとこでもあるが、夫としては心配だ」

と笑いながら比呂の頭を撫でる。

三人で家の中に入ると母が

「明日の結婚式の準備は出来ているの?」

と比呂に聞いてくる。

ちょっと待ってどういうこと?

頭がパニックになった比呂が、洗面台で自分の顔を見ると

幾つ?

と思えるくらい大人になった自分が映っていた。

智明と結婚?え〜考えてもいなかった

「比呂!早くおいで」

リビングで智明が呼んでいる。


四人で夕食を食べ、就寝時間になった時

「お父さん、一緒に寝てもいい?」

と寝室に比呂がやってきて聞いた。

父は、

「いいよ、明日からは娘であって娘じゃなくなるからな」

笑いながら迎え入れてくれた。

母も、

「こんなに甘えっ子で奥さん務まるのかしらね」

と笑った。


目が覚めると結婚式の当日で、父とバージンロードを歩くところだった。

父は自衛隊の制服でウェディングドレスの比呂と、腕を組み並んで智明のところまで歩いて行った。

この手を離したくないと思ったが、すぐに場面は変わっていた。


病院のベッドに比呂はいた。

何してるんだ?私

智明が父と一緒に入ってきて

「お疲れさん,子どもの顔見てきたよ」

と智明が言った。

父も、

「比呂の子どもの頃にそっくりだ。可愛い女の子だよ」

と笑顔で言ってくれた。


マジで!もうママなの?

次の日は子どもの入学式だった。

父は全く変わらず写真のままだった。

私だけが歳をとっている。


もうこの辺で終わりにするか?

父が言った。

もう会えないの?

また会えるよ、いつも比呂と母さんのそばにいるよ

わかった、最後にもう一度抱きしめてくれる?

父が比呂をギュッと抱きしめて

愛する比呂元気でな。母さんにもよろしく


比呂は意識が遠くなっていくのがわかった。

お父さん!


「おい、比呂!大丈夫か?」

目を開けると、智明が心配そうな顔をして目の前にいた。

「えっなんで?ここは?」

「王子稲荷神社の境内だよ。倒れているところを、ゆねが見つけて連絡をくれたんだ」

「そう、どれくらい時間がたったの?」

「一晩、昨夜から行方がわからなくて、30分前に見つけた」

「一晩で智明と結婚して子どもが産まれたの?」

「何言ってんだ?高校生のくせして夢でも見たのか?」

「そう、お父さんと会ったの。智明もいたんだよ」

「わかった、お母さんが心配しているから帰ろう。話は後で聞くよ」

「その前に」

比呂はお稲荷様に御礼をした。

「お父さんに会えて良かった。ありがとうございました」



北村比呂は相変わらず電停で、制服姿の運転士を見ていた。

「比呂ちゃんにじっと見られると、誤解もするよなぁ」

笑いながら運転士が声をかけていく。

「比呂!」

ゆねの兄健史が、反対のホームから声をかけて来た。

「お兄ちゃん、この間は迷惑かけてごめんね」

「お父さんと会ったんだって?良かったな」

「うん!お稲荷様に感謝!」

「だけど智明が旦那だって?」

「あはは、そうだった。子どもまで出来ちゃった」

「案外本当かもよ」

「え〜」

「何がえ〜だよ」

「あれ,智明。どうしたの?」

「これだ、マジで言ってる?」

「冗談だよ、制服じゃないから気分が盛り上がらない」

「うるさい!ほら、行くぞ」


あの日、目を覚ました時、一番心配してくれたのが智明だとわかり,なんとなく付き合うことになった。

今日は父の月命日で、一緒に墓参りをすることにした。

都電に乗って雑司ヶ谷まで行った。

墓の前で智明が

「比呂、俺たち歳の差あるんだけど、結婚してくれる?」

と、比呂に聞いた。

「え〜、他の人と付き合う期間をくれないの?それから家では制服着てくれる?」

「いいよ、他の人と付き合うのは別として、パジャマも制服でいいよ」

「なら、いいよ!ねっ!お父さん」

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