流星

 天王星、海王星を抜けて冥王星にきた。

 そこには冥界を司る冥王がいた。だから女性はキラキラにここに連れてくるように頼んだのだった。そして今まさに冥王の前に膝まづき懇願していた。


「冥王さま、どうかお願いです。あの日わたしの娘は生を受けて産まれてくることができませんでした。娘を……どうか娘を生き返らせてください……。どうかお願いです!」


 冥王はじっと目を閉じて女性の話を聞いていた。やがて静かに目を開くと重々しい声でキラキラに告げた。


「キラキラよ、話してあげなさい」


 少し考えてからキラキラが語りはじめた。


「時間をあの日に戻すことはできる。でも娘さんを生き返らせることはできないんだ。この宇宙では神さまから与えられた命の量は決まっているからね」


「野菜やお魚の命では駄目なの?」


「数の問題じゃない、量なんだ。キミたち人間の命は……数えてないだろうけど生きるためにたくさんの命を引きかえにしているからね」


「だったら、わたしの命とかえてちょうだい」


「それじゃあ、お母さんのいない子どもになってしまうよ。それに、もし自分が産まれたことでお母さんが死んでしまったと知ったら……、そんなの悲しすぎるよ」


「でも、どうしても守りたかったって叫んでいるの! 今でも、ずっと、ずっと心が叫んでいるのよ! あの日から……」


 理性ではおさえきれない感情。自分のせいではないことで自分を責めて、そんな不器用な生き方しかできなくて、その頬を流れるわずかな光をあつめた輝きは、まるで流れ星のように美しくて。


 その涙を見たキラキラは


「わかった。じゃあ目を閉じて。今からボクが光のまほうで時間をもどすからね」


 キラキラがそう言うと辺り一面がまばゆい光に包まれていった。


「あぁ……、ありがとうキラキラ……」






 ◇◇◇


 深夜の病棟の廊下で一人静かに座っていた男性に看護婦が声をかけた。


「お父さんでいらっしゃいますか? おめでとうございます。元気な女の子の赤ちゃんですよ」


「つ、妻は……? 妻はだいじょうぶでしょうか?」


 看護婦が心配そうな男性の顔をじっと見つめる。そして、


「はい。奥さまもお元気でいらっしゃいますよ」


 そう言ってにっこり笑った。


 それからしばらくして、産婦人科の部屋の窓から若い夫婦が夜空を眺めていた。


「あっ、見てごらんよ。あの星きれいだよ」


「あら? あんなところに光る星なんてあったかしら? あっ!」


 その瞬間、夫婦が見ていた星が流れ星になって、スゥっと光の尾をひくと、そっと夜空の藍色の海に消えていった。


「すてきな流れ星だったね。……キミどうして泣いてるの?」


 見ると女性の頬にはひとすじの涙がつたっていた。


「なんだろう? 不思議ね、なんだか胸がぽかぽかとして、勝手に涙があふれてくるの。可笑しいわね」


 そう言って女性ははにかむと涙をぬぐった。


「何か願いごとでもお祈りすれば良かったかな?」


「とっても優しい流れ星だった気がするの……。でも願いごとなんて、これ以上何を望むことがあるのかしら?」


「それもそうだね」


 そう言って二人は手をつなぐとスヤスヤと眠る赤ちゃんを眺めて微笑みを交わした。



 その日ひとつの星の命が消えてなくなった。


 星の名前はキラキラ。流れ星キラキラ。


 ――忘れないで、ボクの名前はキラキラ。

   いつもキミの心で輝いてるよ。



 おしまい

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流れ星キラキラ TiLA @TiLA_k

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