土星
つぎにやってきたのは土星だった。
「やあ! 土星さん、久しぶり!」
「あら? 前に会った気はするけど誰だったかしら?」
「忘れないで、ボクの名前はキラキラ。
いつもキミの心で輝いてるよ」
「あらそう。ねぇキラキラさん、この帽子おしゃれでしょう? わたしって太陽系で一番美しい星だと思うのだけど、そっちのあなたはどうかしら?」
「は……はじめまして。その……とってもすてきなお帽子だと思います」
けしてお世辞ではなかったが、たいした自信だと女性は思った。
「うん。とってもよく似合っているよ!」
適当にあしらわれたキラキラも特に気にするでもなく土星にほめ言葉をおくる。
「ありがとう、まぁ当然よね。はぁ……でもどうして木星さまったら、こんなに美しいわたしがそれとなく思いを伝えているというのに全然応えてくださらないのかしら? わかっていらっしゃるはずなのに……」
どうやら木星と土星はお互いに思い合っていたようだ。
「土星さん! 恋愛で『見返り』を求めだしたら、それが相手に伝わると相手はその気持ちが重くなってつかれちゃうと思うんだ! だからボクはね……」
「キーッ! ちょっとあんた! 誰が重たいですって⁉︎ ちゃんと適正体重だわ! 失礼ね!」
親切心でアドバイスしようとしたキラキラだったが、どうやら言葉えらびを間違えてしまったらしい。すかさず女性がフォローにはいった。
「ねぇ、土星さん。鏡の法則ってご存知ですか?
あなたが好きな人はあなたのことが好きです。
あなたが大切にしたい相手は、あなたのことを大切にしてくれます。
あなたが尊敬している人は、きっとあなたに対しても同じ敬意を向けてくれるでしょう。
すべては鏡のようになっているんです。
だからあなたの気持ちが本物なら何も心配しなくていいと思いますよ」
「あら? あなたはなかなか良いこと言うじゃない?」
女性の言葉に土星は気分を良くしたようだ。
「そうだよ! それが宇宙の法則なんだよ!」
キラキラもここは全力でそれに乗っかった。
◇◇◇
「ふぅ〜さっきは助かったよ、ありがとう! あれもキミの言うただの理屈かい?」
土星を後にしてからキラキラが女性にたずねた。あのあと土星はもう少し気長に待ってみるとなった。意外と一途な面があるようだ。きっとそのうちうまくいくことだろう。
「鏡の法則のこと? そうよ。でも今回はじっさいに体験したことだからただの理屈とは少し違うわ」
「じっさいの体験?」
「ええ。私が夫にしたこと、向けた感情、それが鏡のように返ってきて、けっきょく……」
女性は目を閉じて胸に手をあてると自分の感情と向き合い、しばらく苦しそうにしていた。しかし、やがてつき物が落ちたような表情になるとキラキラを見てはじめて小さく笑った。
「ねぇ、キラキラ。あなたと一緒にいて私は忘れかけてたものをいろいろ思い出したわ。だから、あなたに一つだけお願いごとをしたいの」
「オッケー、何でも言ってごらん」
「死んだ人を生き返らせて欲しいの」
「……」
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