三題噺「脅迫・柔軟剤・教会」

四つ目

強盗

「死にたくなければ金を出せ! 逆らえば撃つぞ!」


 突然銃を持った男が押し入り、私に銃を付きつけ脅迫した。

 その事で周囲に居た人達はパニックになり、叫びながら逃げ惑う者も。

 中には腰を抜かして立てなくなった人も居て、ずりずりと後ずさっている。


「あ、あの、貴方、場所を間違えていませんか?」

「うるせえ! 余計な事を言うな! これに金を詰めろ!」


 男は私の言い分を聞かず、鞄を押し付けて叫んだ。

 そう言われても困る。こんな鞄に詰める様な金はここに無い。

 この男は一体何を考えているのか、意味が解らず困惑して立ち尽してしまう。


「てめえ、聞いてんのか! くそっ、コイツを人質にする! この婆が死んでも良いのか! コイツの頭が穴をあけたスイカみたいになるのが嫌なら、早く金を詰めろ!!」

「ひぃぃ・・・」


 逃げ遅れたお婆さんが男に掴まり、こめかみに銃を突きつけられる。

 お婆さんは恐ろしさの余りか、買い物袋に入っていた柔軟剤を男にぶつけようとした。

 恐らく持っている者の中で一番大きく、ダメージを与えられると思ったのだろう。

 恐怖で震えた様子でありながら、頭の中は大分クレバーなご老人だ。


「ぐはっ!? こ、この婆ぁ、何しやがる・・・!」

「っ!」


 男の鼻に柔軟剤が直撃し、目を瞑って鼻を抑えた。

 ここしかないと思った私は駆け出し、男の手を捻って銃を落とさせる。

 落ちた銃を全力で蹴って男を押し倒すと、まだ逃げていなかった人たちも押さえてくれた。


「く、くそ、放せ、放せよ!!」


 男は最初こそ暴れていたが、その内暴れても無駄だと悟り静かになった。

 そして今度はすすり泣きを始め、俺だってやりたくなかったなどと言い出す。

 金が無かった。働き口も無かった。どうにもならなかったのだと。


 それでも強盗という手段に出て、人に銃を突きつけ脅す行為は許されない。

 叱るべき所で裁きを受け、罪を償って下さいと告げ、彼を警察に引き渡した。


「・・・悪かったな、騒がせて・・・婆さんの一撃、重かったよ・・・あの一撃を胸に抱いて、ちゃんと罪を償って来るよ・・・」


 いや、お婆さんは単純に殴っただけで・・・確かにアレは痛そうだったけれども。

 本人が納得しているならもう良いかと、彼がパトカーに乗るのを見送った。

 だがどうしても未だに一つ疑問が残るが。


「なぜ銀行ではなく、教会に強盗を・・・」


 聞いてもまともな返答が帰って来るとは思えず、もう私は忘れる事にした。

 世の中理解出来ない人は沢山居るものだ。あ、お婆さん柔軟剤忘れてる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三題噺「脅迫・柔軟剤・教会」 四つ目 @yotume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る