第12話 鬼が行く


 言葉を失うエリーゼを残して背を向けると、続けて元帥が立ち上がる。


「待て貴様! 先程から姫様への無礼の数々、ただで済むと思っているのか!?」

「無礼? 俺はそいつの家来じゃねぇ。俺がエリーゼに気を使う必要がどこにある? あいにくと俺は人間じゃなくて、あんたらの言う不吉な地獄の使者なんでね。地獄の王ハデス様になら敬意を払うぜ、なんてな」


 俺が腹を叩いて笑うと、初老の男が顔を真っ赤にして肩を震わせる。


「貴様姫を、この国を見捨てる気かこの非国民め! それでもサフラン王国の臣民のひとりか!?」


 あまりにもガキ臭い発言に、俺はドン引きだった。こいつ老化が進み過ぎて脳味噌が幼児退行起こしてんじゃねぇの?


「臣民? 俺の話聞いていたのかよ? 俺はこの国で生まれたけどな、ガキの頃にお前ら人間たちに仲間を何人も殺されてこの国を追われたんだよ。当然、助けてくれる奴なんざひとりもいなかった。そんな俺が王家に対する忠誠なんて持っていると思うか?」


 禿頭の男が叫ぶ。


「貴様には人としての情がないのか! 貴様の故郷が他国に滅ぼされようとしているのだぞ! 貴様にわずかでも良心があるのなら喜んで姫のため、国のために戦うべきだろう!」


 うわぁ、こいつら超必死。笑えるんですけど。


 わかっているよ。


 さっき、俺の参戦を望まないようなことを言っていた奴もいるけど、あれは嘘だ。


 黒騎士はどうか知らないけど、こいつらは俺の戦力が喉から手が出るほど欲しくてしかたないんだ。


 でも、それと同時に、亜人に恩を売りたくない、という心理も働いている。


 結果、参戦は認めるけど、あくまでも自分たちの忠実な部下であり、都合の良い兵器として運用する、というのが理想の落とし所だ。


 そのため、交渉術の基本である『譲歩』をすべく、最初は強硬な姿勢を取る。それから、条件付きでなら参戦を認める、としたのだ。


 でもこいつら、亜人を見下し過ぎて交渉をしくじった。


 こいつらは、俺を参戦させたい『エリーゼ姫』を交渉相手に選んだ。


 たぶん、人間の奴隷や使用人として従順な亜人ばかり見て来たからだろう。


 でも俺には自我がある。参戦するかどうかの決定権を持つのはエリーゼじゃあない。


 あくまでも、俺個人なんだ。


「お前ら人間てさ、いつもそうだよな」


 冷やかな声で、淡々と口を動かす。


「自分たちの都合で他人を差別迫害して勝手に殺して搾取して、それが当然だと信じて疑わなくて、なのに自分たちが奪われる側になった途端に卑劣だの蛮族だのと。言っておくけどな、俺はあんたらに復讐する気はないけど、あんたらもカーディナルも同じ卑劣な蛮族にしか見えねぇよ」


 俺を睨みつける元帥は、歯ぎしりをして殺気立つ。


「貴様……言わせておけば……」


 ここまで言っても反省ゼロ。いよいよ終わってんな。


「おまけに、人のことを散々道具扱いしておいて、今度は人としての情ときたもんだ。俺は人か? 兵器か? 俺がなにものなのか、お前ら人間の都合でコロコロ変えるなよ」


 最後は声は荒立てず、俺は軽い足取りで会議室の壁際まで歩く。


 連中はまだ色々と言っているけど、癇癪を起こしたクソガキ共に付き合う時間がもったいない。俺は右こぶしを振り被ると、会議室の壁を思い切り殴りつけた。


 けたたましい破砕音が、ヒステリックな言葉をすべて押し流す。


 とりわけ頑丈だったであろう、会議室の厚い壁に人間大以上の風穴が開いて、心地よい風が入ってくる。


「じゃ、俺は行くんで」


 あんぐりと口を開けたまま戻らないおっさんたちを捨ておいて、俺は風穴から外へと跳躍した。屋敷の庭に落ちながら考える。


 さてと、サフラン王国が駄目となると次はどこへ行こうか。


 この近くで、俺の実力をアピールできる場所となると……おーそうだ♪


 草むらに着地すると同時に、俺は閃いた。


 カーディナル軍に行こう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 紹介文通り、ここまでです。


 人気があったら、本格連載したいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄血のオーガ 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ