第11話 鬼の決定
「あんた随分強気だな」
「当然だ。姫の許しがあれば、この場で貴様を我が武勇伝のひとつに加えてもいい」
黒騎士は立ち上がると、腰の剣の柄に手を伸ばした。本当に抜剣する気はないだろうが、俺に向けられる闘気は本物だった。
「へぇ、あんた、俺とやりあいたいのか?」
俺が挑発的な目で対峙すると、会議室は静まり返り、誰かが唾を呑む音がはっきりと聞き取れた。
一触即発の空気が流れて数秒、垂れ目の優男が立ち上がる。
「まぁまぁ。強者同士、戦ってみたいという気持ちはわかりますが、ここは抑えて」
興が削がれたのか、黒騎士は鼻を鳴らして、乱暴に腰を下ろした。
「姫様。私はナオタカ殿の参戦を支持します」
エリーゼの表情が少し明るくなる。
「ですが、王家に忠誠を誓い、長年サフラン王国のために尽くしてきた英雄ならともかく……あー……」
言葉を濁しながら、優男は人差し指を立てる。
「一騎当千の力を持つ猛獣を、首輪も付けず飼うというのは、やはり前線の兵に少なくない、警戒心を与えてしまいます。そこでどうでしょう。こちらの意思で力を制御するような魔法道具の製造を軍の研究所に依頼すると言うのは」
「確かに、兵器に安全装置は必要不可欠。そういうことでしたら、私も姫様に賛成です」
優男の提案に、禿頭の男も同調する。
すると、さっきまで俺の参戦に反対だった連中も、椅子の背もたれに体重を預けた。
「まぁ、そういうことなら……」
「賛成はしませんが、反対もしません」
「私ひとりで反対してもしかたないでしょう。やむ終えませんな」
その様子を、エリーゼは納得がいかないような、落ち着かない様子で、もどかしそうに視線を泳がせる。そして、元帥が大きく息をつく。
「これで決まりですかな? では私から研究所のほうに、魔力と体力を抑制する魔法道具の依頼をしておきましょう」
「いやいいよ。俺やっぱやめるから」
再び、会議室に静寂が流れた。
エリーゼと元帥を含めた、全員の顔が一斉に俺のほうを向く。
馬鹿面下げて凍りつく権力者共に、俺は手をひらひらさせながら姿勢を崩す。
「あのさぁ、あんたら状況わかってんの? あんたらはカーディナルに滅ぼされる寸前で、それを最強の戦闘民族、最後の鬼である俺様が助けてやろうってんだぞ。全員で頭を下げて俺に助けてくださいと頼みこむのが筋じゃねぇのか? それをなんだお前ら? さっきから聞いてから差別発言のオンパレード。結局お前ら、俺ら鬼族を殺した連中と同じじゃねぇか。しかも言うにことかいて猛獣だの兵器だの首輪だの安全装置だの……俺は人間じゃないけど人なんだぜ? 人権ってものがあってしかるべきだろ? お前らにとって俺は物か? 道具か? ふざけてんじゃねぇよ」
これは言い過ぎだ。俺の目的は仕官して、好待遇で迎えられることだ。正式に俺を雇うなら、雇用主として最低限の礼儀は払うつもりだ。
頭を下げて頼みこめ、とは本気で思っていない。
でもこいつらムカつくから、ちょっと強気に言ってやる。
「力もねぇ弱小国のくせして身の丈に合わないプライドばかり立派だなぁおい。エリーゼ、最初はお前らを助けてやろうと思ったけどやめだ。こんな助けてもらっても礼も言えない、国家の行く末より自分らの体裁や面子が大切な人種差別主義者なんて助けてやる義理はない。カーディナルとの戦は、あとはあんたらで勝手にやってくれ。そもそもこれは、あんたらとカーディナルの戦争だしな。俺はおいとまするぜ」
俺が背を向けようとすると、エリーゼは慌てて立ち上がる。
「待ってくれ、私は、私はナオタカのことを差別なんてするつもりはない!」
「あんたにその気がなくても、臣下の皆さんは違うみたいだぜ? 俺を厚遇すると、あんたの身にも良くないことが起こるんじゃないか? じゃあな」
言葉を失うエリーゼを残して背を向けると、続けて元帥が立ち上がる。
「待て貴様! 先程から姫様への無礼の数々、ただで済むと思っているのか!?」
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