第8話 空き巣の恐怖

最近は働き方改革などと言ってオフィスビルの消灯が速い。

時刻は十七時五十分照明が全部消えているオフィスビルに忍び込む。

他と比べて大きめの部屋を探す、どうせ忍び込むなら、金のありそうな所がいい。

まだ夕方だが、窓のない廊下は既に真っ暗だ。

あまり光が漏れないように、小さなライトで辺りを照らしている。

小さなライトでは、照らした先が丸く光り、少し離れると色が消える。

暗い所は随分慣れたが、このビルはなにか薄気味わりーー。


一階から四階まで調べたがこの部屋が一番大きい。

入り口のドアを回してみる。


「……」

「な、何だ空いているじゃねえか」

「不用心にも程があるだろう」


じゃあ入ってみるか。

部屋の中に入り、入り口を閉める。


ガチャリ


「……?」

「うわーーあ、な、何なんだ」

「カギが自動で閉まった」


くそう、大声を出してしまった。

しかしおかしい、ドアにカギが閉まった。

来るときは、空いていたのに、今は閉まっている。


ガチャリ


逃げ出す時うっとうしいのでもう一度開けておく。


ガチャリ


「うおっ」


おかしい、おかしい。

又、閉まった。

どう見てもオートロックじゃない。

古いドアに古いカギだ。

もう一度開けてやる。


ガチャリ

ガチャリ


「きゃはははは」


「うわーーーーっ!!」


カギを開けたらその途端しまって、子供の笑い声がした。

くそう、大声を出してしまった。

カギはもう良い、最悪こんな古いドア蹴り飛ばせば壊して出られる。

それより金目のものだ。

盗んだら直ぐにおさらばだ。


ドンッ


「うおっ」


くそう今度は天井から物音がした。


ドカーーン!!


「なに、なに、何なんだよ」

「だれかいるのかよーー」

「だれだーー!!」

「だれかいるなら出てこい!!」


「……」


「くそう誰もいねーのか」


ライトで照らすと、キッチンのポットが床に落ちていた。

こんな物、風で動くわけがねえ。

ここは、絶対なにかおかしい。


ドンッ、パキッ


「ヒッ」


又、天井で音がする。


「もーいやだ、さっさと貰うもんもらって帰るぞ」


「きゃはは」


女の子が返事をするように笑った。


「くそー何なんだ」

「はーーはーー」


ライトで照らして部屋中見ているが、まるで金目の物がねえ。

それどころか物が少ねえ。

金庫すらねー。

こうなったら机の引き出しだー。


「くそお、ここにもねえのか」

「はーー、はーーー、はーー」

「この奥かー」


俺は中途半端にしか開かねえ引き出しに手を突っ込んで探ってみた。


「うわああ」

「やめろーー」

「やめてくれーーー」


俺の手をすごい強い力で引っ張る奴がいる。

グイ、グイ、引っ張りやがる


「くそーー」

「やめろっていってるだろーー」


渾身の力で後ろに引っ張った。

くそっ、引っ張っている奴が急に手を離しゃあがった。


ズガアアン






「さあ、すき焼きよーー」

「きゃああーーー」


「どうしたまゆ」


すき焼きの材料を一杯抱えて、部屋のドアを開けたまゆが悲鳴を上げた。


「コウさん、誰かいる」


部屋のスイッチを入れると、見知らぬ男が倒れている。

古いビルの俺の部屋は壁がコンクリート製で、その壁に相当な勢いで後頭部をぶつけたのだろう、男が気を失っている。


「死んでいるかもしれねえ、あの女刑事さんに連絡する」




「おまたせーー」

「んーーー」

「コウさんこれはどういう状況」


「なんだか、見知らぬ男がね」


「そ、そんなの警察に電話してください」

「この電話は私のプライベート回線なの」

「デートのお誘いだと思うでしょ」


いそいそとやってきた女刑事さんは、見た目は余り変わらないけど、石けんの匂いがしている。


「コウさん、いつの間にそんな電話番号をゲットしていたんですか」


まりあさんとまゆが恐い顔をして詰め寄ってくる。


「いや、警察へのホットラインだと思っていたんだよーー」


「所で、それは何ですか」


「あーーすき焼きです」

「刑事さんもどうですか」


「えーーー、良いんですか」


事務所の机の上にすき焼きの準備をして、女刑事さんも一緒に、全員ですき焼きパーティーを始めた。




「こんばんはー」


「あら、はるみさん」

「こんな遠くまではるばる那古屋から何をしに」


お姉ちゃんがとげのある言い方をしています。


「引っ越しのご挨拶に来ましたのよ」


はるみさんが嬉しそうに答えた。


「ここでコウさんが事務所を」

「開いているって聞いて」

「助手をする為に引っ越してきました」

「これは、ご挨拶の松阪牛のお肉です」

「しゃぶしゃぶ用ですが」

「すき焼きでも大丈夫です」

「私もご一緒して、よろしいですか」


「大歓迎さ、大勢で食べた方がご飯はおいしい」


コウさんがご機嫌でニコニコしながら、はるみさんの持ってきたお肉を玉子に付けて頬張っている。

私も折角だからたっぷり玉子に付けてお口いっぱい頬張る。


「おいしいーーい」


「まゆ、おいしいなーー」


コウさんが私に同意を求めます。


「おいしいですね、コウさん」

「ほっぺが落ちそうです」




「なんだかギスギスしていますよね」


あれ、まいちゃんがコウさんの横の誰もいないスペースに話しかけています。


「まいちゃん誰としゃべっているんだい」


コウさんがそれに気が付いてマイちゃんに質問しています。


「えっ、赤い服の、女の人です」


「えーーーっ」


えっ、今ここに赤い服の人はいません。

何を言っているんでしょう。

コウさんがすごく驚いています。


「ねえ、まいちゃん」

「まいちゃんには見えるのかい」


「えっ、コウさんには見えないの」


「そうなんだよ、見えない」

「でも、まいちゃんのお母さんとお姉さんは見えるよ」


「えーっ私には見えないです」


えーーーっ、何の話しをしているの、私にはどちらも見えません。




「なーーあんた、俺もすき焼きが食いたいんだけど」

「持ってきてくれないかなー」


皆ですき焼きを囲んでいる後ろで、空き巣が誰もいない自分の横のスペースにむかって話しかけている。


その姿は空き巣にしか見えていないようだった。

コウの事務所にはまだまだ目に見えない人がいるようだ。

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コウの怪異日誌 覧都 @runmiyako

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