卒業式の日

またな!

「……」


「…………」


「……誰もいない」


「当たり前か。昨日で活動日は終わったんだからな」


「……」


「…………」


「最後か……」


「……」


「……じゃあな、こたつ。俺、卒業したよ。まあたぶん、OBとしてまた来るけどな」


「……」


「………………」


「ひとりで何言ってんだ俺は」


「…………」


「みんなんとこ戻るか……」

「熱騎先輩?」


「うお、ぬくもちゃん」

「こんなところでどうしたんですか? 部室に忘れ物とか……?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。最後に、目に焼きつけたくなってさ。ぬくもちゃんこそどうしてここに」

「私は……。私は熱騎先輩を探してて、なんとなく、ここかなって……」


「そっか。ごめんごめん探させちゃって」

「いえ、いいんですいいんです……! あ、あの、卒業おめでとうございます。……その……また会えますよね……?」


「また会うも何も、俺たち彼氏彼女じゃん……恋人なんだし普通に会うよ」

「ぁ……いえ、なんか、心配になっちゃって……」


「…………」

「…………」


「……行こうか」

「先輩……明日も明後日も、来週も来月も来年も、会えますよね?」


「当たり前だよ。だってぬくもちゃんは……」

「ぬくもちゃんは……?」


「……大切な恋人なんだから。待ってこれ今誘導したよな?」

「えへへ……もう一回言ってもらっていいですか?」


「どんだけ言ってほしいの……。じゃあ俺の『大切な恋人だから』一回につき一回、ぬくもちゃんからの『あつきせんぱいしゅきしゅきび~む♡』を請求するけど」

「オタクきも……きもすぎて肝になりました」


「想井先輩、音琴先輩。部室棟にいたのか。探したぞ」

「あ、メラニャちゃん」

「キャロチュピカさん。こたつ部、集結ですね」


「想井先輩、卒業おめでとう。行こう、校門のあたりで燦射院先輩も待っている」

「火巳子先輩が!? 来てくれたのか。貴人を待たせるわけにはいかねー、外に出よう」

「燦射院先輩来てくれたの、嬉しいですね……!」


「メラニャちゃん、ぬくもちゃんと一緒に来年もこたつ部を盛り立ててくれな」

「当然だ。僕に任せておけば何も問題はない」

「だらだらするだけですけどね……」


「そういや最近のソーニャ・シルバーブレードちゃん様、エルデンリングの配信やってるよな」

「ああ。僕はフロムゲーのファンだからな」

「昨日の配信も可愛すぎてしんどかったです……! しかもゲームが上手い……憧れます……」


「……そうか。僕の配信を見てくれているということは、想井先輩が卒業して……今年度のこたつ部が終わっても、電子の世界でまた会えるということなのか」

「ニャちゃ様のありがたい言葉来たな」

「wikiに載せたい……」


「いや僕はソーニャとは別の存在なのだが。けれど、そう考えると寂しくはない。卒業を心から祝福するよ、想井先輩」

「うん、ありがとね」

「あッ! 熱騎さん、ぬくもさん、メラニャさんッ! ごきげんよう、ですわァッ!」

「燦射院先輩……!」


「熱騎さん、ご卒業おめでとうございますわ! オーッホッホッホッホッホ!!」

「ありがとうございます! 嬉し~」

〝アツキ! 卒業おめでとう。七十七不思議存在を代表してお祝いするぜ〟

「ジンタさん!? ありがとうございます!」

\あつきー おめでーとー/

「スミくんも! ありがとね~スミくん、うにゃにゃにゃ~(猫吸い)」

「賑やかになってきたな。僕たちこたつ部関係者で打ち上げでもしようか?」

「いいねメラニャちゃん。ぬくもちゃんも、それでいい?」

「ひとごみニガテなんですが……」

「ぬくもさんの人ごみの基準かなり低いですわね」

「あ、そうだ。俺んち最近リフォームしてさ。リビングに掘りごたつあるよ。みんなで来る?」

「行く行く~」

「おまえには言ってねーぞフェブラリー斎藤。ヌルっと登場するな」

「あたいも行くサァ!」「おれもいいッスか?」

「おでん部にも言ってない」

「打ち上げ、名案ンゴねえ」「ひょっひょっひょっ!」「ンフフフフフ……」「ボンビベンババンボ」

「十帝の皆さんにも言ってない」

「 我 を 、 も て な す が よ い 」

「こたつの神!?」

「すごい大所帯になりましたわねッ! 全員で熱騎さんのおうちへ行きますわよッ! こたつの部屋にどんなシャンデリアがあるのか今から楽しみですわァッ!!」

「ないですよ」

「さあ、想井先輩の家へ出発だ!」


(…………)


(俺んちに訪問しようとぞろぞろ歩き出す、こたつ部と縁のある奴ら……)


(入りきらねーよ……)


(……)


(まあいいか)


「熱騎先輩、どうしますこれ……?」

「そうだなー。とりあえず」

「とりあえず?」


「ふたりで走って振り切ろう。行くよ――――」

「えっ。わ、わかりました。では――――」


「あ」〝あっ〟\あ/




「「「「「「待てええええええええ!!!!!!!!!!」」」」」」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬北高校こたつ部日誌 令和 かぎろ @kagiro_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ