喫茶店の彼女と付き合いたい

アシカ@一般学生

喫茶店の彼女と付き合いたい

毎週火曜日夕方頃いつも通っている喫茶店「お銀」に彼女はいた。


静かで少し高級感漂う狭い店内には、スーツ姿のサラリーマンや高級服を見にまとった主婦がチラチラいた。


僕はこの場所をそこそこ気に入っていた。客層も良く、店員もキチッとした制服で店主も愛想の良いおじさんでたまにサービスをしてくれる。この場所は高校生の僕にとって学校帰り誰にも邪魔されず、静かに読書ができる空間であった。


「お銀」自慢のコーヒーとベーグルサンドを頼もうとした時、彼女は優しく微笑みかけてきた。

「あ、いつものですよね、」

クリクリとした目を細めて僕に向けた笑顔が素直に可愛いと思ってしまった。一目惚れだった。


この時から僕は彼女が気になり始めた。


僕は本の字を追うどころか彼女を目で追うようになっていった。彼女を気になり始めてから段々と彼女についてわかったことがある。彼女は毎週火曜日のシフトに入っていて、静かな店内でいつもバタバタしていた。オーダーを間違えて、慌ててキッチンへ戻っていく姿を何度か見た。その姿が徐々に愛おしく思ってきた。


彼女はいくつだろうか、どこの学校行っているのだろうか、この辺が家なのか、彼氏はいるのか、

考えれば考えるほど彼女が頭から離れなくなっていった。


しかし、彼女と僕には大きな壁があった。

僕は「客」で彼女は「店員」

この関係性から一歩踏み出す勇気を僕は持っていなかった。


ある雨の日いつものようにお銀に向かうとそこには「申し訳ございません、家庭の事情で本日定休日とさせていただきます。 店主」と書いてあった。


呆気に取られた。


毎週僕がどんな気持ちでこのお店に来ているのか店主は知っているのだろうか。彼女が僕にとってどれだけの存在になっているのかこのクソ店主は知っているのか!


彼女に会えないことで八つ当たりのように何も悪くない店主にあたっていたその時

「あ、あれ〜今日休みだったの?」

後ろから聞いたことのある女性の声が聞こえてきた。

振り返るとそこにはいつもの彼女が立っていた。心臓が飛び出そうな感覚だった。走ってきたのだろうか、彼女は息を切らしながら雨の中立っていた。いつもの彼女と一つ違った点と言ったら私服姿であったこと。青いワンピース姿が似合う彼女はいつも着ているバイトの制服よりも可愛く見えた。

「あ!こんにちは」

彼女は僕に気がついたかと思えば、みるみる顔が赤くなっていった。走ってきたのが恥ずかしかったのだろう。

「今日休みなんですね」

彼女から話しかけられ内心興奮している自分を抑え、僕も彼女に話しかけた。

「そうなんですよ!私学校終わって急いで来たのに休みって、店長本当にいい加減にして欲しいですよ!」

彼女は、頬を膨らませながら怒っている感じで答えた。いつも目で追っていた彼女とこうやって話せているだけで幸せな気持ちになった。


「あのーいつもコーヒーとベーグルサンド頼んでいる人ですよね?」

彼女に認識されていることを知って僕は思わずニヤケそうになってしまった。

「あ、そうです、、、」

「あーやっぱりそうですよね、私あなたの読んでいる本好きなんですよね!」

意外な共通点を知って僕は嬉しいと一言で表せられない気持ちになった。

「え、本当ですか!?僕は中学生の時からこの作家さんの本を読んでいて、、、」

「え、私もそうです!面白いですよねこの作家さん!」

ありがとう店主!さっきまで憎き存在だった店主が天使のように感じられた。

「ここで話すのもあれですし、近くのお店に入りませんか?」

彼女がそう提案してきて僕は断る理由がなかった。


近くのファミレスに入った僕たちの会話は弾みに弾んだ。名前や年齢の話から始まり、好きな作家のことや好きな音楽、趣味のことや通っている学校についてたくさん話した。彼女は近くの女子大に通っていた。彼女が話せば話すほど彼女について知れて僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

それに働いている姿の彼女も可愛いが目の前でパンケーキを頬張りながら好きなことについて話している彼女も可愛かった。


時間はあっという間に過ぎていき気がつけば20時過ぎになっていた。

「あ!そろそろ帰らないと」

彼女は時計を見ながらそう答えた

「今日はとても楽しかったです!」

そう言う彼女の笑顔は眩しかった。


お会計は僕が払った。彼女は「私が払います、年上なんだから!」って言っていたが「いや、良いですよ!」と言って僕が払った。お会計はお金がない僕にとって少し痛手だったが彼女と話せたことが幸せだったので関係なかった。


「なら今度お返しさせてください!」


そこから彼女とは「お返し」と言う名のご飯によく行く仲になった。

彼女のバイト終わりに僕と待ち合わせをして夜ご飯を食べて帰る。初めはお互い敬語で話していたが、徐々に打ち解け始め今ではタメ語で話すようになっていった。


「最近ね、店長体調悪くてお店出てこれないの。だから新しいバイトの人が入ったんだけど、その人の態度があまり良くなくて、、、」

彼女は何度目かのご飯を食べに行った時そう愚痴を溢してきた。

「具体的にどんなところが良くないの?」

僕がそう聞くと彼女は少し躊躇った後に話してきた

「元々店長体が良くなかったけどなんとかお店に出れてる感じだったの。でも最近になってもう身体の限界が来て、そこで店長の知り合いの橋下さんって言う人を雇ったの。橋下さんは私と同じ大学生で、授業の合間を縫ってやってきて店長の代わりにコーヒーを淹れるの。バイトだけど実質店長代理って感じかな。初めは仲良くやってたんだけど、徐々に色々命令してきて。それが少し鼻につくって言うかなんて言うか。」

高校生の僕がなんとかできるような問題でもなかった。しかし、話を聞いておいて何も返さなかったら僕は役立たずの烙印を押されてしまう。そう色々考えているうちに

「でも、悪い人ではないんだよ!コーヒーは店長よりも美味しいしなんだかんだ言って周りを見て行動してリーダー感あるって感じで!」

彼女は何か察したのか気を遣ってか、忙いでそう言ってきた。しかし彼女のその行動が僕の愚かさを浮き彫りにした。


そこから彼女と会う機会は少し減った。僕がなんだかんだ言い訳を作って彼女と距離を取っていった。年上でアルバイトをしている大人の「彼女」とお小遣いで喫茶店に通いまだ親の脛をかじっている子どもの「僕」とではなんだか世界が違う気がしてならなかった。


しかし、彼女のことを好きと言う気持ちは変わらなかった。どうにかして彼女にもっと近づきたかった。


ある日久しぶりにお銀へ行った。お銀へ行くと、彼女は少し驚いた表情をしたがすぐにいつものような笑顔になって

「いらっしゃい」

と言ってくれた。やっぱり彼女が好き。いくら壁があったとしても彼女が好きだった。


席についてしばらくして彼女が僕の方へ来ると僕は思わず口走っていた

「あ、あの明日少し会えませんか?」

彼女に会えたことが嬉しくて自分でも最初何を言っているのかわからなかった。

「どうしたの急に?敬語なんか使っちゃって」

彼女は少しからかいながら言ってきたが「いいよ」と答えてくれた。

僕は心の中で舞い上がった。明日彼女に告白する、そう心に誓った。


ちなみに橋下って言うやつも見てきた。彼女に「またオーダーミスかよ」と嫌味たらしく言っていたが、それ以上彼女を責めず黙々と仕事に戻っていった。なんとなく悪いやつではなさそうな気がしていた。


お店から出た帰り道。さっきまで降っていなかった雨が降り始めていた。僕は家まで電車を使って帰ろうと駅へ向かっていた。リュックから財布を取り出そうとした時、ふと何か違和感を覚えた。携帯をお店に忘れていた。駅からお店まではそんな距離もなかったので僕は走ってお店まで戻った。


お店は閉まっていたが、彼女が中で働いているので事情を話せば許してくれるだろうと思っていた。


僕は遠慮しながらゆっくりと扉を開いた。











扉の先には、裸で戯れ合う男女がいた。


その男女には見覚えがあった。

さっきまでお店で働いていた2人だった。


彼女はさっきまで僕たちお客さんが使っていた机の上で仰向けに寝転がって男は彼女に覆い被さるように立っていた。

男は一生懸命腰を振って彼女が答えるように「あっあっ」と喘いでいた。


彼女と目が合った。

「ちが、違うの!」

彼女は焦ってそう言ってきたが僕は彼女の声なんて聞こえていなかった。

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