第14話 異国の死神と梅の木

「では 僕はこれで・・」「あ!あの・・」

くるりと振り返る 綺麗だけど異様に白すぎる肌 

一瞬、 寒気を覚えるような怖い笑顔


「お嬢さん、僕はネットのラインもFBも登録しておりませんので

僕は死神ですから・・」彼の台詞である

「はい?」きょとんとしながら 彼を見つめる


「本当は貴方には別の者達が来るようでしたが・・まあ、良いです

貴方は仏教徒ですから・・」

「僕の今回の仕事は日本に住んでいる九十歳のドイツ人のお迎えなのですけれどね」


「同じ趣味の同志で コンビニにあるチャリテイボックスには小銭という喜捨でした 

女の子を助けてあげて貴方を心配する守護霊や仏神さま方のご様子」


「また時が来たら何処かでお会いしましょうね ぜひ漫画の御話でも」

きょとんとして訳が分からないまま 話を聞く


「これは僕からのギフトですよ ジュースの御礼です」


「笑顔を無くしたジャンヌ姫君の為に作られたお菓子」

「彼女を愛するルイ王により 作られて

また後の時代には教会にある聖母の像に捧げられたお菓子です」

「・・苦難の果てに得る聖杯を意味するカリスとも言われますね」

小さな箱には 淡い色の菱型に近いお菓子が十二個


「フランス、南欧プロバンスのカリソンです」「ええ!」

「アーモンドペーストを主体にオレンジピールなどを混ぜたマジパンですよ」


「では良き隣人、サマリア人の少女に祝福を」

胸元の十字架のペンダントが銀色に輝く 彼の姿がぼやけて 羽が舞う


「あ・・」その出来事に驚きを隠せないまま しばし立ち尽くす


魔法にかけられて ぼんやりとしたまま それから 家に辿りつくと・・

鍵を差し込む前にドアが開いた

「お帰り」「あ、お祖母ちゃん、お爺ちゃん」


「今日は久しぶりに皆の顔を見たくて 田舎から会いに来たよ」


「わあ 嬉しい」「カレーライスにナポリタンを作ったから お食べ」

「レンコンと里芋の煮物 それからお手製のコーヒーゼリーに紅茶の炭酸水」

「うん、嬉しいよ 有難う」


食事をしながら 会話が弾む それから気が遠くなり


あ、あれ? お祖母ちゃんもお爺ちゃんも 崖崩れが原因で5年前に亡くなって

そうだよね 仏壇にいつもご飯にお茶のお供えを・・


あ・・私 そうだ 一度、死んだ そうよ 死んだの


思い出した 何度も繰り返した 作る食事は違っていたけど

何度も何度も・・


すると声が何処からか聞こえた

「いつも有難う 嬉しいよ 珍しいお菓子貰ったよ」祖父母の優しい懐かしい声


ハッとすると

食卓でうたた寝をして 目を覚ますと そこにはナポリタンにカレーが置いてあった


レンコンと里芋の煮物もある 作ってくれたコーヒーゼリーに

空いたペットボトルに詰めた紅茶の炭酸水

当然のように両親の分もちゃんと用意されてある


食卓の上に 私の傍には小箱のお菓子 カリソンが10個


ふと、何かの気配に気がつく

窓の向こう、庭にあるはずの梅の木が 消え去り


「ええ!どうして」庭に出れば 根本がへし折れた形で消え去っている

足元には綺麗な梅の花びらが飾り立てるように 埋め尽くす


ガシャン 仏間から大きな音

「あ、仏像に似た女性!」きびすを返して 仏間に向かう


落ちていた仏像 仏像の腕は壊れて・・


「奈良の寺近くの何処かの店で お祖母ちゃんが買った仏像」

観音菩薩さま

叔父の家にはこれとは別の薬師如来の仏像

あの女性と同じように 腕は砕けて壊れていた


梅の花びらが 部屋に舞う「え・・?」

ひらひらと舞う花びら

誰かの優しい笑い声が 聞こえたと思うと 花びらは声と共に消え去った


夢幻の一夜 梅の花びら


それは 令和になって間もない

二〇二一年 三月三十一日の不思議な出来事だった


FIN

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鍵っ子の食卓 巡る因果で幾度も繰り返すのは? のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます @nono1

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