レンタル30・そして連環は巡りゆく
魔導レンタルショップ・オールレントが臨時休業して、もう半年が経過する。
魔族に滅ぼされた故郷を救うために、ルーラーはカルファードの地に『越境の扉』を作り出した。
『黄金の連環』により運命を捻じ曲げ、空間と時間を越えることで、ルーラーは故郷へと旅立ち、皆の前から姿を消した。
その日から、世界樹の精霊であるワーズは世界樹の根元で深い眠りにつく。
フェンリルのラグナもまた、ワーズの傍らで、世界樹とルーラーの居所を護るかのように、静かに佇んでいる。
ワーズが眠りについてしまったので、魔法薬の素材も入手出来なくなり、頼みの綱であるカルファードへの扉も開かなくなってしまった。
そうなることを予測しながらも、ルーラーはオールレントの留守をひばりに任せた。
魔法薬だけなら、ひばりでも調合できる。
必要な素材は心もとないが、まだ魔導レンタル契約書のスクロールも残っている。
それらを少しずつ使いながら、ひばりはオールレントを維持していた。
でも、その最後の在庫も三か月前に尽きてしまう。
いつ戻るかわからないルーラーのために大切な人材を割くわけには行かないと、魔導省は関川ひばりを魔導レンタルショップ出向の任務から解除。魔導省勤務の魔導教導官としての任務を与える。
そのひばりの功績かどうかは定かではないが、この方3ヶ月の間に一人、また一人と魔力回路が解放される人たちが現れた。
一番最初に魔力に目覚めたのは、オールレントに出入りしていた柳川祭。そしてすぐあとで彼女の友人の西田が、常連の朽木や飯田も魔術師としての覚醒を始めたのである。
この現象については原因は不明であるが、世界樹の近くにいたことが魔力回路の覚醒に繋がってあるのではという予測が成り立っている。
だが、オールレントはルーラーの所有物であり、現在は世界樹の守りにより敷地内部に入ることもできなくなっている。
唯一、朽木や飯田、西田、祭、ひばりの五名のみが入ることを許されているのか、目に見えない結界をすり抜けて入ることができた。
………
……
…
「……もう、半年か」
「それぐらいは、経ったよなぁ。ルーラーさん、向こうの世界でも元気だったらいいんだけど」
「大師匠は元気に決まっていますわ!! だから私たち『大賢者ルーラーの弟子』が、こうやって掃除をしているのではないですか!!」
朽木と飯田、西田が掃除をしている中で、祭とひばりはカウンターの中で昼食を作っている。
いつもルーラーが淹れていたコーヒーを、見よう見まねで淹れるひばりと、ホットサンドを作る祭。
「……また煎りすぎ……どうやっても、師匠のようなコーヒーは作れない……」
「ホットサンドも無理ですよ。何かこう、ほんとうに何かが足りないのですよ」
それがなんなのか、ひばりと祭にもわからない。
それでもどうにか、五人分のランチを用意すると、全員がカウンターに集まった。
「……80点」
ひばりの淹れたコーヒーを、朽木が辛口採点する。
「いやいや、十分に美味しいと思うけど。朽木はコーヒーには煩いだけだから」
「いや、わしは厳しくするぞ。ひばりちゃんや、君がその場所で、ルーラーのコーヒーを淹れようとするのなら、わしはルーラーと同じ味ができるようになるまでは辛口採点を続ける……まあ、普通に美味しいのも認めるがな」
「あはは……本当に厳しいですね」
「朽木さん!! ひばり師匠はコーヒーの淹れ方を学んでいませんのよ。それなのに同じコーヒーを淹れろって無茶じゃありませんか!!!!」
西田が朽木に食ってかかるが、朽木は顔色変えることなく一言。
「それが、大賢者の弟子の務め。一から十まで教わって作るものに意味はない。わしは古い人間だから、技術は目で見て盗めと教えられていたからな。それでも、ここまで似た味を再現できるのは大したものだよ」
そう告げつつ、ホットサンドも食べる。
「うん。普通に美味い」
「普通ですか……よし、次は頑張ります!!」
「西田さんなりに、ルーラーさんの味を再現か。それでひばりちゃん、食べ物じゃなく魔法薬については再現できるようになったのか?」
──グサッ
素材が無い。
故に魔法薬など作れない。
そう考えて許されるのは、普通の魔法使い。
でも、ひばりは大賢者ルーラーの弟子。
そこで立ち止まるなと、朽木は伝えようとしているだけ。
──ゴトッ
そしてひばりもまた、冷蔵庫から小さな小瓶を取り出してみせる。
「オール地球産の素材で作った、スキルのレンタルポーションです……」
やや薄く濁っている青。
ルーラーが作ったものよりも輝きは弱く、素材が悪いから濁ってしまった。
それでも、ひばりは独自で魔法薬を一から開発したのである。
「へぇ、大したものだよ。それで効能は?」
「は、ハゲになります」
──プッ
朽木も飯田も、思わず吹き出してしまう。
まさか、ハゲ促進薬を作るとは思っていなかった。
「最後にどうしても、効果が逆転してしまうのですよ……昔、ルーラー師匠も話していたのですが、反作用を抑える術式が弱かったと思うんです」
意気消沈しつつも、ひばりはポーションを眺める。
それを手に取り、朽木は一気に飲み干す!!
──ゴクゴクッ……ハラ〜ッ
飲んだ刹那、全ての髪が輝き、まるで落ち葉のように抜け落ちていく。
「く、朽木さん!! 何をするのですか!! まだ副作用だってわからないんですよ!!」
「副作用もなにも、ご覧の通りだよ。ということでひばりちゃん、わしの髪を元に戻す薬を作ってくれないか?」
「はぁ〜。こいつの天邪鬼は、昔っから治らないよなぁ。ひばりちゃん、朽木の髪を戻せるのか?」
飯田もそう問いかけるが、ひばりも困惑してしまう。
それを治す薬のレシピは分かっている。
けれど、この地球には素材が無い。
──ゴトッ
「さて、この素材ならば、朽木さんの髪の毛を戻せる薬ぐらいは簡単じゃろ? ひばりや、手順は覚えているかな?」
懐かしい声、そしてカウンターに並べられた錬金素材。
誰もが目を疑った。
もう、戻ってこないと考えていたかもしれない。
でも、そこには、みんなの知る懐かしい顔があった。
「ようやく向こうの仕事も終わってな。暫くは向こうとこっちを行き来しなくてはならぬが、ようやく時間が取れたんじゃよ……心配かけたな」
大賢者ルーラーは、世界を修復して帰ってきた。
その後ろには、青い鎧に身を包んだ東家光瑠の姿もある。
笑顔でひばりたちにサムズアップする光瑠を見て、本当に全てが終わったと理解した。
「ルーラーさん。済まないがコーヒーを頼めるか? ひばりちゃんのも悪くは無いが、やっぱりルーラーさんのが一番だよ」
朽木が笑いながら話を振る。
ひばりや西田、祭は感極まって泣いているから。
「ふむ、それじゃあ……と、そのまえに。ただいまじゃな」
その言葉で十分。
詳しい話も聞きたいけれど、今は、ルーラーが無事に帰ってきたことが嬉しかった。
その場の誰もが、こう、口ずさんでいる。
おかえりない……と。
──FIN
The story goes on forever.
But the next story will begin in a little while.
【完結】三丁目の大賢者さん〜異世界の大賢者ルーラーは、地球でのんびり過ごしたい〜 呑兵衛和尚 @kjoeemon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます