第3話〈狂い神の樹〉ユグドラシルにて〜悲懐の戦士3〜

父が死んだ





それ知らせは、俺の世界を根底から歪めた。



父は異界人に殺された。


意思疎通を試みた新たな種の異界人に殺されたそうだ。




父はその異界人との意思疎通の可能性がないと知ったらすぐさま、戦闘態勢と入り、その場にいた他の調査メンバーとともに戦ったそうだ。




しかし、その異界人は強かった。

いや、は強すぎた。



その異界人たちは最初は大人しかったそうだ。


いや、大人しく見えたそうだ。



最初はこちらの世界に踏み入った瞬間、何かを観察するようにその目らしきもので世界を見渡していたそうだ。


父はその理性の宿る行動を見て、意思疎通を試みることを決めたようだ。


そして父達調査員たちが意思疎通を試みようと近づき視界に入った瞬間、そいつらは豹変して攻撃をしてきた。





結果、死亡者は父だけだったそうだ。


いや、遺体が見つかったのが父だけだそうだ。



たった一人の帰還者であるその調査員は、こう言った。



みんな攫われたと。




実際、その異界人たちは引き上げて行っったと思われる。


その調査員はこうも言った。



父は皆を守ろうと一人で侵入した異界人の半数を殺し、そして――――


――――異界人達の興味を引いてしまった。



父は異界人に攫われそうになった瞬間に、持っていた銃で自身の脳天を貫いたそうだ。


そこで異怪人達は父を諦め、他の調査員たちを狙ったと。




この話を聞いた時、俺は正直こう思ってしまった。





父が誘拐されずに、自害してくれてよかったと。




この自分の思いに気づいた瞬間から、俺は狂い始めた。


父が誘拐されていたら、異界人達に何をされるか分かったものじゃない。


高い知性があると見られる以上、父という人族でも指折りの実力者を取られるわけにはいかないのだ。




たしかにそれは正しい。


この世界を守りたいものにとっては正しい。


しかしそれは父の息子として、正しいのだろうか?



否、息子ならば泣き、悲しみ、父の仇を討とうと心に誓う。そういう王道ストーリーを紡がなくてはいけないはずだ。


それなのに自分は?


父が死んでくれてよかったと?



俺は自分の心の奥底に潜む、冷徹な一面に呆然とし、生まれ変わった。




冷徹な異界人調査員兼駆除員へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界樹感染 雨紅 @WASABIEUGLENA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ