第2話〈狂い神の樹〉ユグドラシルにて〜悲懐の戦士2〜
「それでは、失礼します」
長官がその後何も言わなくなったので、そそくさと退室をさせてもらった。
正直、それ以上突っ込まないでもらいたかったから好都合だ。
長官室の扉を締めながら思う。
なぜ俺は戦うのかを―――――
☆★☆
俺の父は、ミドガルドとアスガルドの間に存在する別世界の枝を調査していた。
別世界の枝とは、その名の通り別の世界樹の枝だ。
だから、枝を通じて別世界の住人が度々こちらの世界樹に渡ってくるのだ
別の世界樹から来た者たちは、この世界のものと根本から違っていた。
形も違う。色も違う。話す言葉も、食べるものも、好きなものも嫌いなものも信仰するものも命のあり方も。全てが根底から、この世界とは違うと訴える。
しかし、大抵の別の世界樹からくる彼らは俺達の世界と同じように、家族を持ち、愛を持ち、感情も持っていた。
だからこそ、まっさきに攻撃するのではなく、こちらの世界の住人と意思疎通を測ったり、世界環境への適合を試みる者たちがいた。
そして、そうでない者たちも。
この世界に来たのは神の恵みで、この新しい世界を自分たちに与えくれたのだと。
元の世界に戻れないのなら、ここに自分たちの楽園を築こうと。
そして――――この世界を礎とし、元の世界に戻ろうと。
そんな者たちはまっさきに政府の抹殺対象になり、駆除専門の組織までもが作られた。
それと同時に、敵意のない異界の者たちを保護し、元の世界に返そうとする組織も。
俺の父は、後者の組織に属していた。
父はその世界樹の枝はどの樹のものなのか。
そして渡ってくる者たちに敵意はないか。
この世界に適合する可能性を持っているか。
それを調査していた父は、とても穏やかな人だった。
異界人を前にしても怯むことなく、冷静に観察し、意思疎通を図り、必要であれば戦闘もした。
幼いながらも、俺はそんな頼りのある父の背に憧れていた。
言葉の通じないもの相手にも、大丈夫だ、元の世界に返そうと、言葉に感情を乗せ意味のわからない異界人にも伝わる、そんな言葉を紡ぐ父の背が大好きだった。
優しく、それであって重みのある口調で、全ての世界樹たちが争わずに共存する、そんな夢を語る父が憧れだった。
そんな父が死んだ時、俺の世界は変わった。
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