第12話 将門の乱(二)

 源扶(みなもとのたすく)は、父、源護(みなもとのゆずる)に、平将門(たいらのまさかど)が平国香(たいらのくにか)を追ってこの近くまで来ていることを報告し、襲撃を進言した。

「父上、将門がここ真壁本陣の間近まで軍勢を連れて迫っております。おそらく、国香殿を引き渡せと、言ってくるのでしょう。どうされますか?」

「ワシに命令などしに来るとは、将門は、随分、礼儀知らずじゃの。伯父の国香殿をはじめ、一族ともうまくいっていないようじゃ。ここはひとつ、お灸でもすえてやらんとな、、、」

と、将門襲撃を指示したのだった。

源護(みなもとのゆずる)の子・たすくは、

「東北の鎮守府副将軍、みなもとのゆずる様の命により、賊軍、たいらの将門まさかどを討ち取りに来た!たいらの将門まさかど、神妙に出て来られい!」

と、将門らが駐屯している常陸国真壁郡野本を襲撃した。

ところが将門の部隊は、この時点で、かなりの数の強者つわものらが加わっており、そのうえ秩父のジイも、今や武蔵野の七人と言われる、和田次郎(わだじろう)と、横山香姫(よこやまかおりひめ)、猪俣鴇芳(いのまたときよし)、川越直介(かわごえなおすけ)、児玉本将(こだまもとかつ)、村山潮代(むらやまちょうだい)に、西宗頼(にしむねより)を連れて将門の隊に駆けつけていた。みなもとのたすくらの将門討伐軍は、これに撃退され、たすくは討ち取られている。


 平将門が常陸国真壁郡野本に陣を張り、兵たちと、夕餉をとっている時分に、

「東北の鎮守府副将軍、源護(みなもとのゆずる)様の命により、賊軍、たいらの将門まさかどを討ち取りに来た!将門、神妙に出て来られい!」

と大声をあげる源護(みなもとのゆずる)の子・たすくを先頭に討伐軍と称する軍隊が寄せてきたのだ。

 その騎乗のみなもとのたすくの前に飛び出して来たのが次郎と香姫だ。その後ろには秩父のジイが付添うように続く。そのまた後ろに、ゆっくりとたいらの将門まさかどが現れた。

「アッ!将門!逃げれんぞ。その首、神妙に差し出せい」

と息巻くたすくを、将門は馬鹿にしたような目で見つめ、

「なあ~、次郎。ワシ、まだ飯を食うとらんのだ。この馬鹿息子の相手してやってくれる?皆殺しにして構わんよ」

と、きびすを返して陣の中に帰って行った。

「賊軍、将門!逃げるか!」

と煮えたぎり荒ぶるたすくに、次郎は、

「今、皆、お食事中。さっさと帰らないと、俺が痛い目に会すことになるよ。帰った、帰った」

その次郎の生意気な言いっぷりに、

「このガキが!首をねてやるわ!」

と大声で叫び、次郎に刀を振り下ろしたが、刀をもったまま近くの篝火かがりびに馬上からスっ飛んで行ってしまった。火の粉を浴び「アチ、アチ、熱い~」と地面を転びまわるたすくであった。次郎の後ろには、「くすっ」と笑い、気の力でたすくを馬から吹き飛ばした香姫がいる。その次郎と香姫の二人の姿を健やかに見守る秩父のジイが、そのまた後ろにたたずんでいた。

たすくは立ち上がり、部下に命を出す。

「先ずは、この者どもから叩き殺せ!」

「おう!」と、たすく率いる討伐軍の中の三、四人の武者が刀を振りかざし次郎たちを目がけて突進して来た。

次郎は、両手に持った二本の刀で向かってくる敵の脛を切り、倒し、香姫は、手裏剣の様な金串を二本、四本と投げ、それを操り、こちらに向かってくる敵の武器を持つ腕に突き刺した。秩父のジイは、槍で応戦しようと構えていたところで、たすくは、「皆の者、総がかりジャ」と指揮を執った。

 秩父のジイの後ろに猪俣鴇芳いのまたときよしが、弓をもって現れ、

「なんだ~、面白いことになってんじゃねーか」と次々、矢を射始めたのだ。まるで、狩りでもしているかのように楽しんでいる。

突撃してくる敵に、将門の兵も迎え撃つべく攻撃を開始。

 それに紛れて川越直介(かわごえなおすけ)は、武蔵野の狼、七匹を従えて木を威嚇し、今にも飛び噛みつかんとしていた。

狼たちは、川越直介(かわごえなおすけ)について来ていたのだった。

武蔵野の牧で将門と次郎が狼に襲われていたのを助けるため狼たちと戦った時だ。皆で狼を退治しようとしていた時、臆病だが心優しき直介は、狼を殺さず、自分が狼に怯えたふりをして、狼たちの逃げ道を作った。それから、その時の狼の長が、直介の所にチョクチョク訪れるようになったのだ。その度に直介は餌になる物を与え、狼の群れの長と、そしてその家族とも心を交わしていったのだった。

狼たちは、直介が恋い慕う、香姫の後ろに控える女神アマノウズメを慕っている。アマノウズメは、いつも何時も臆病なのに香姫を勇敢に守ろうとする直介が心配で、狼たちに守らせているのである。

そしてたすく率いる討伐軍に対して児玉本将(こだまもとかつ)、村山潮代(むらやまちょうだい)、西宗頼(にしむねより)らが、将門直伝まさかどじきでんの刀と槍で舞うように戦闘に加わり、頼もしく暴れまわっている。西宗頼(にしむねより)は、川越直介(かわごえなおすけ)と同じく、臆病ではあるが、それでいて力持ち。将門から習った棒術を誰よりも得意としていた。将門は、槍を自らの背や腹の上をグルグルと廻し、蜂が舞うように槍で敵を攻撃をするが、宗頼の持つものは槍ではない。丸太の様な大きさの鬼の金棒だ。将門は、その姿を、満足そうに静かに眺めて、薄っすらと笑みを浮かべた。

「武蔵野の七人、か、、、」


将門は、みなもとのたすくの討伐軍を打ち破った勢いで、大串・取手(下妻)から源護(みなもとのゆずる)の本拠へ進軍して護の本拠を焼き討ちし、その際に伯父の国香を焼死させた。


将門は、源護(みなもとのゆずる)の真壁本陣に進軍し、

「平国香は、我父わがちちの領地を奪い取った者である。速やかに引き渡せば、こちらはそれで何もせず撤収する」

 その口上を聴いた国香は、

「源殿、将門の軍勢を追い返して下され。本に、礼儀知らずの一族の恥でござる」

と助けを求めるように源護(みなもとのゆずる)に乞い願った。

「まったく、東北の鎮守府副将軍のこのワシの子を殺したうえに、ワシに迫るとは、無礼にもほどがあるワイ」

 源護(みなもとのゆずる)は、奥座敷から庭に出て行き、兵に命を下す。

「守備隊、やつらに矢を射て蹴散らせ。その後、一人残らず殲滅せい」

屋敷の兵達が、正面の門のある塀に沿って弓を構えた。隊長と思える者の

「射殺せ!」の発令を合図に、将門の方へ一斉に矢が放たれた。

 将門は、それを見て、自分の兵隊に指令を出す。

「半分のものは、屋敷の裏手に廻り、火矢にて屋敷目がけて火を放て。門の正面にはワシと武蔵野の者と、数名が残こり、他の者は正面の門の左右に別れ、門から出て来る者達を槍、刀で殲滅せよ。それと、注意しよく聞け。裏からであっても、正面からであっても、源護(みなもとのゆずる)が逃げ出したならば、そのまま本人だけは生きて逃せ。捕らえもするでないぞ」


 そしてついに、源護(みなもとのゆずる)の屋敷の裏手から火が放たれ延焼し始めた。屋敷内に火の手が廻り、屋敷からの矢は放たれなくなった。

源護(みなもとのゆずる)は、

「正面の将門へ一斉攻撃をかけよ!」

と号令し、自分は裏門から数名の従者と逃げ出したのだが、本人以外は、火矢にて射殺されたのだった。源護(みなもとのゆずる)だけは、将門の、朝廷側と真っ向から対立することは避ける、と言う思惑により、無事に逃げおおせられたのだ。


承平五年(九三五年)二月、将門は、源護の子・たすくらに常陸国真壁郡野本で襲撃されたが、それを殲滅させた。その勢いで源護の本拠へ進軍し本拠を焼き討ちする。その際に、伯父の国香を焼死させたのだった。


同年十月、源護と姻戚関係にある平良正は、親族の手前、致し方なく軍勢を集め鬼怒川沿いの新治郷川曲(八千代町)に陣を構えて将門と対峙たいじした。

将門の陣には、秩父のジイの他、次郎たちもいる。

将門は、自分の後に立ち並ぶ秩父のジイと武蔵野の七人に少し頭を下げた。

「早く国に帰りたいだろうに、すまんのお、秩父の」

「いえいえ、我らは、勝手に出張って来たのです。お役に立てるよう努めるだけですわい」

そこで、次郎が胸を張って応える。

興王きょうおう様が、自分は朝廷との関係もあり手出し出来ないから、俺らが将門様の助けになってくれ、と言われ、俺に任せといて」

それに将門は、クスッと笑い、微笑んだ。

「何を偉そうに」

と、秩父のジイは、次郎の頭をポンと触ったが、

「言葉を慎め」

「やかましいやい」

「生意気な」

等と、香姫、鴇芳らに頭を小突かれながら言われた。

 その時、鬨の声の様なものがあがった。

平良正は、親族の手前、致し方なく陣を構えて将門と対峙たいじしている。小人数の兵を突撃させ、手合わせをして、サッサと国に帰ろうとしていたのだった。

 正面から、突撃して来た平良正の兵を、将門の兵は、中に取り込み、あっという間に殲滅させた。そしてその勢いで、平良正の陣に突撃していったのだ。最初から敗走するつもりでいた平良正、狼や将門の兵たちに追われながらも何とか脱出したのだが、自分に随行して来た殆どの兵を失うこととなってしまった。

そこで良正は、国香亡き後の一族の長である良兼に救いを求めたのだった。

静観し、関わらないようにしていた良兼も、どうにも放置できなくなり、国香の子の平貞盛を誘って軍勢を集め、承平六年(九三六年)六月、上総国を発ち将門を攻めることとなった。

この時代において、将門は、情報網を多岐に張り巡らせており、平良兼、貞盛、出陣の報を入手している。

「まったく、良兼殿も迷惑なことじゃろうな。しかし、まあ~、うちの一族は、次から次にワシを困らせるものじゃの」

将門は、そこで、床几から腰を上げ、

「ちょっと嚇してこようかの?秩父の、武蔵野の皆も、もう帰って良いぞ」

と、秩父のジイと武蔵野の皆に言った。そこで次郎が、

「いいや、将門様を攻撃する者は、俺が退治してやる!」

といきまいた。そこで将門は、

「次郎、もう良いのじゃ。これはワシら身内、一族の争いじゃ。おぬしたちが関わることは無い」

と、次郎をあやすように言った。

そこで秩父のジイは、息巻く次郎の肩をトントンと軽く抑え、将門に一礼をして、

「それでは、将門様、ワシらはこれで失礼いたします」

と、自分の馬の方に向かう。次郎は、それに従い付いて行く。そして、今一度、将門に向って、強い調子で言い切った。

「何かあったら、直ぐに呼んで下さい。直ぐに駆けつけます」

 それを聞いて、将門は、

「はは、有難うヨ。ワシの兵たちも休暇が必要じゃ。わしらもパパっと片付けて、サッサと帰るわ」

と、前線にいる兵達の方に向かったのだった。


 それから将門は、平良兼、貞盛の陣へ、奇襲をかけたのだ。その奇襲を受けて平良兼は、敗走することになる。そのまま逃げ続け、下野国(栃木県)の国衙(県庁舎)に保護を求めた。追いかけた将門は下野国国府を包囲するが、一部の包囲を解いてあえて良兼を逃亡さる。その後、下野国衙と停戦交渉をして自らの正当性を認めさせて帰国した。

 将門は、下野国国府に赴任している下野国衙に書をしたため、

(私は、国に戦を挑むつもりはなく、むやみに役人を殺そうとしている訳でもないのです。ただ、いきなり私を殺そうと攻めて来た者を追い払ったまでなのです)

それに対し、下野国衙から、

(ここに逃げて来られた平良兼殿は、貴殿に殺される、国を滅ぼされると云われております)

と返答、疑義があったので将門は、

(国府を取り囲んではおりますが、別に国府を攻めるつもりはございません。私を亡き者にしようとした者達を追って来た迄です。特にその者を殺そうとも思ってはおりませんので、南の囲みを解除致しますので、その者をお逃がし下さいませ。その後、全ての囲みを解いて、私たちは、此処を去り、国元に戻ります)

と返答し、下野国衙と停戦交渉をして帰国したと云われております。


しかしながら、同年、源護によって朝廷に出された、国に対して反乱を起こした謀反人としての告状によって、朝廷から将門に召喚命令が出されました。将門は平安京に赴いて検非違使庁で訊問を受けることになり投獄というか幽閉される。それでも、承平七年(九三七年)四月の朱雀天皇元服の大赦によって全ての罪を赦されたのだった。


 平安京に赴いて検非違使庁で訊問を受け、投獄されたたいらの将門まさかどは、

朱雀天皇元服の大赦によって全ての罪を赦された。

平安京から帰国後も、たいらの将門まさかどは良兼(よしかね)を初め一族の大半の者と対立しており、またしても良兼は、将門まさかどを攻めたのでした。この戦いでは将門まさかど側は、虚をつかれ、また兵数の少なさで敗走することとなりました。

そのおりに、良兼は将門の妻子(良兼の娘と孫)を自身の館へ連れ帰るのでした。


「お父様、私は、平の一族、将門様に輿入れした身でございます。いくら、娘とはいえ、勝手に私を実家に戻すという事は、一国一城の殿の妻の拉致、監禁となりますぞ」

「あんな、身勝手で乱暴で分からず屋だとは思わず、お前を輿入れさせたんじゃ。あのバカ息子は、親族一同に限らず、ワシにまで反旗をひるがえしおるわ!可愛げのない!ガマンならん」

「将門さまは、必ずや、ここを攻めて来られまするゾ。その時は、父上は、私とこの子を人質として斬りまするか?」

「大事な娘や孫をそのように扱わぬわ。将門の兵は、大体は、ワシら平一族の様々な処から貸し出しておった者達じゃ。そいつらは、全て国に戻した。奴のところには、大した数の兵はおらん」

「それで父上は、何時かは将門様の所へ攻め込むのですか?」

「まあ~、ワシが平の一族の長であることを敬い、反省して詫びにでも来れば、許さん訳でもないがの、、、」

「あのお方は、人に詫びたりは致さぬでしょう。詫びに来ねば?」

「近々、攻め殺す、、、」


 将門は、一旦、秩父のジイの手助けを受けて、武蔵野に新たに居を構えた。それを聞いた次郎達が、毎日の様に将門の元に何やら手土産を持ってやって来るようになったのだ。

 ある日、将門が昼間に縁側で寝転がっている所へ、次郎、香姫と直介が、七匹の狼とともに現れた。

「将門さま~、喰い物、持って来たよ」

次郎のその声に、

「あ~?」と、次郎の方を振り向いた将門は、

「うわ!びっくりした、、、あの牧で襲われた記憶があって、その狼たちには未だに慣れることが出来んな」

 香姫が、クスッと笑い、狼たちの背を撫でながら、

「今日、お持ちした雉とかウサギ、イノシシなどは、この子たちが獲った物ですよ。この子たちも、私たちと同じように将門様をお慕いしております」

「あ、そう」と、上目遣いに頷く将門であった。

「将門様、どうなさるのですか?女房、子供、攫われたんでしょう?」

「攫われたと言うても、あちらにとっては娘と孫じゃから」

「それで、安心して毎日、こんな処で、ほけ~っとしていらっしゃるのか?」

「何じゃと!誰が、ほけ~っとじゃ。どうにもこうにも軍勢が足らんのよ」

「それじゃあ、ワシらが取り返しに行こうか?」

「お前らが居れば百人力じゃが、相手は、千以上おるからの」

「じゃから、こっそり夜這いをかけては?」

「はあ~、夜這い?自分の妻にか???」

そこで香姫と直介が、次郎の頭にゲンコツを食らわした。

「言葉が違う!バカ!」

そして次郎が言い直す。

「夜襲でもなく、こっそり夜に館に忍び込んで、連れ出し奪い返すのです」

「ふむ、夜、コッソリとの、、、良いかもな」

 その数日後の夜、将門、次郎、香姫、直介は、馬に乗り、狼五頭とともに平良兼のやかたの近くの森に向った。狼の一族の中で、小さい二匹は、お留守番だ。最初は必死に、一緒について来ようとしたのだが、狼の長の威嚇、命令でシブシブ狼の巣に残ることにとになったのだ。

将門、次郎、香姫、直介は、平良兼のやかたの近くの森の一角に馬につなぎ止め待たせ、狼たちに乗り替え、静か密か速やかにやかた前に来た。それから狼たちは、直介と一緒にやかたの前に待たせ、将門、次郎、香姫がやかたに忍び込んだ。

このやかたの内には将門と親交の深い者も大勢いた。実の弟達まで居たのだ。将門は、事前に、妻子の奪回について館内部やかたないぶの者と連絡を取っていた。将門の妻子がどの時間に、何処に居るのか、事前に情報を得ていたのだ。また、将門の妻にも、将門が迎えに来ることが館内部やかたないぶの者から知らされていた。

 やかたの門は、やかたの内にいた将門に通じる者が、開けて迎え入れた。庭をソロリソロリと将門たちは、奥方のいる部屋に忍び寄って行ったのだが、寸前のところで良兼が、孫を訪ねて来たのだ。焦る奥方、将門たち。

「ワシの可愛い孫はまだ起きとるかのう?」

「今、寝かしつけるところにございます。最近、夜遅くまで寝ないで困っております」

「お~、そうか、そうか。寝るところか」

「早く、目を閉じなさい」

 将門の妻が、子供を叱る声に、良兼は、

「顔を見たら直ぐに退散するでな」

と、部屋の戸を開け、中の布団にくるまっている孫の顔を見て、にこやかな笑顔で満足そうに去って行った。

将門たちは、部屋から出て行った良兼の姿が見えなくなるのを待って、事前の打ち合わせ通りに、奥方のいる部屋の戸を刀の鞘で、コン、コン、コン、コン、コンと五回叩いた。部屋の戸は内側より、ゆっくりと静かに開けられ、部屋の中から将門の妻と子が、ゆっくりと忍ぶように、そ~っと出てきた。将門と妻は、そこで固く手を握り合い、しみじみと見つめあうのであったが、次郎に、

「早くやかたから出ましょう」

とせかされ、次郎の後に従う。香姫は子を抱えるようにそ~っとやかたを抜け出す。やかたの内部の者の手引きで、やかたの外に出た将門たち。それぞれ、外に控えていた狼の背に乗り、静かに素早く、馬を待たせてある場所まで移動した。将門をはじめ、その妻、子も狼に乗るのをためらってはいたが、香姫の手引きで恐る恐る乗ることが出来たのだ。将門の妻と子は、香姫の後ろに突然現れた、優しく微笑んで控える女神、アマノウズメに招かれ、心許したのだった。


 妻と子を取り戻して勢いを増した将門は、妻に、

「良兼殿の兵を攻めるぞ」

と宣言し、了承?を得た。

 将門は、良兼らの兵を筑波山に駆逐し、それから三年の間に良兼は病死し、将門の威勢と名声は関東一円に鳴り響いたのでした。

 これを機に将門は、関東を西の都と切り離した統一国としようと動き始めたのだ。



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