第40話 英雄の決意 ~モノローグ
夜も明けぬ静かな早朝であった。
帝都の東にあたる大路には公家たちが多く住まう御屋敷が立ち並んでいる。
そんな中、立派な門を構える御屋敷の前に一人の男が立っていた。
人気の無い通りには夜のうちに冷やされた空気が
体を覆う様に膝まで隠れる長い旅のマントをはおり、つばの広い旅笠をかぶった男。
男は暫くの間、ただただ門の奥を見透かす様に静かに立っていた。
着物から露わになった顔や腕には、まだ新しい無数の切傷。
男は天を仰ぐと拳を固く握った。
背筋を伸ばし、地についた足を揃えると、その男は門前に深々と礼をした。
「…………」
「小十郎っ行くのか?」
女の声が男を呼び止めた。
その御屋敷の屋根に座り、男を見ていた女が、その場から鳥の様に跳ね、男の前にフワリと着地した。
「小十郎。本当に行くのか?」
「
男は中納言・藤原兼光の御家人、渡辺小十郎。
そして女は御屋敷の居候、鬼娘の
朱羅は「ふっ」と小さく息を吐くと小十郎の前に左手を差し上げた。
その手に持っていたのは、布に包まれた長細い品。
朱羅は小十郎に胸元にその品を投げ渡した。
「ガシャリッ」
小十郎は投げ渡された品をガシリッと
「小十郎は、ほんに
「何も言わんと……旅立っていく」
「そんな
「それは私からの
「母様の宝物庫から選んで来た太刀じゃ」
「小十郎にくれてやる」
朱羅は何やら含みのある目でニヤリと口元を緩めた。
「それと……これは
と小さな子瓢箪が幾つか付いた、朱塗りの瓢箪を投げ渡す。
「…………」
小十郎は朱羅から投げ渡された太刀と瓢箪を無言で見つめた。
「…………」
小十郎は朱羅に向かって、また深く礼をした。
そして、その身を
「…………」
小十郎は誰もいない朝暗い大路の中に消えて行く。
「小十郎は、ほんに
と朱羅は消えていく漢の背に向かって独り言の様につぶやいた。
冥護の槍士と十六夜の鬼 ~帝都編 橘はじめ @kakunshi
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