最終話 幼馴染『剣聖』とハズレ職能『転職士』

「ソラ、そんなに慌てるなよ」


「だ、だって!」


「落ち着け、親友」


 カールが俺の両肩を押して座らせる。


 ソファーに座ると自然と大きな溜息が出た。


 自分がソワソワしているのは分かっている。でもどうして心配になるじゃないか。


「慌てても仕方ないのは分かるんだけど…………はぁ」


「くっくっ。そんなだと良い――――」


 カールの言葉が終わる前に俺達が待っていた扉の向こうから音が聞こえた。


 俺は思わず、扉の中に駆け込んだ。


「フィリア!」


 中に入ってすぐに名前を叫ぶと、中で待ち構えた母さんが人差し指を唇に当てる。


「っ……」


 そして――――元気良い泣き声が部屋中に鳴り響いた。


「ソラお兄ちゃん。ほら、凄く元気だよ!」


 ルナちゃんが抱きかかえた小さな布をフィリアの隣からこちらに見せてくる。


 俺は急いで彼女達の元にやってきた。


「フィリア…………ありがとう……」


「ううん。私こそありがとうね? ソラ」


 そして、有り余る元気を示すかのように産声を鳴り響かせていた――――俺の子供に視線を下げた。


 くしゃっとなった顔が愛おしくて可愛らしくて、心の奥から溢れる嬉しさについつい涙が出てしまいそうになる。


 俺はゆっくり手を伸ばして自分の子供に触れる。


 暖かい子供の体温が手に伝わって来て、ようやく自分が父親になったんだと実感できるようになった。


「さあ、みんな。フィリアちゃんは疲れているのよ。そろそろ休ませるから、みんな部屋を変えてちょうだい」


 母さんに背中を押されて、初めての対面を惜しみながら、眠るフィリアを後にした。




「どうだ? お父さんになった気分は? 親友」


「えっと……まだいまいち実感が湧かないかな?」


「かーははっ。世界を救った英雄ソラ様がそれでいいのかよ」


「ん~あれはどちらかというと、ラビが一人でやったんだし? メンバー全員の力のおかげでもあるからな…………実際俺は何もできてない気がしてさ」


「なんだ、そんなこと思っていたのかよ。――――――心配しなくても、お前はそこにいるだけでいいんだよ。なんぜ『銀朱の蒼穹』のクランマスターだからな。まさかあの時はこれ程に大きなクランになるとは思いもしなかったな~」


「あはは、懐かしいな~子供が外に出れるようになったら、セグリス町にも連れて行こう」


「それがいい。孤児院の先輩達も会いたがっていたしな」


 俺達は最終戦争を終え、元封印の大陸――――西大陸に戻ってきた。


 『銀朱の蒼穹』は一度解散するべきか悩んだけど、メンバー全員からそれだけはやめてくれと頼まれて、今でも『銀朱の蒼穹』はアクアソル王国の隣の領地に住んでいる。


 子供が生まれるまでの一年。


 色んな出来事があったけど、今まで戦争ばかりだった世界に不思議と絆という光が溢れるようになった。


 今では全ての国が無条件和平条約を結び、その条約を調停を『銀朱の蒼穹』に依頼してくる事態となった。


 こればかりはまさかの出来事で驚いたのだが、最終戦争の壮絶な戦いで、各国の王様や兵士達、ひいては住民達も考え方が変わっていったそうだ。


 さらに元中央大陸である東大陸との交流もものすごく繁盛している。


 世界をアルマゲドンから救ってから色々変わっていたけど、その中でもカーバンクルとなったラビは圧倒的な力を持って――――世界を良い意味でめちゃくちゃにした。


 だって…………まさか、東大陸を魔法で西に移動させて、肉眼ですら見えるくらい近づかせたのである。


 東大陸が元々あった海域は、潮の流れがとんでもなく強くて近づくのすら難しかったのに、ラビの力でこちらに移動した上に、元々断崖絶壁だった大陸を押しつぶして海岸の高さにした。


 ラビの可愛い(?)いたずらだったけど、おかげで大陸間の交流は凄い勢いで進む事ができている。


 当のラビはというと、最近はもっぱらエスピルト民の森で過ごしている。


 精霊王である母さんと精霊神である俺がアクアソル王国で過ごしているので、かの森の席が空いているから、ラビはとても居心地が良いと暇があれば向こうにいる。


 世界でもっとも強くなったラビは、呼べば一瞬で飛んでくるので寂しくはないかな。



「って、ラビ。そこで何してるの?」


 屋敷の窓にラビがくっついて中を覗いていた。


「ぷぅ…………」


「ん? この前のいたずらをまだ怒っているかって? もう怒ってないよ~それより、うちの息子・・と会っていきなよ」


「ぷう!」


「うん。ちゃんと生まれたんだ。そろそろ呼ぶつもりだったけど、丁度いい時に来たね」


 窓を開けると同時に俺の胸に飛び込んでくるラビ。


 世界最強になっても尚、甘えん坊さんだ。


 暫くして、フィリアが起きたタイミングでラビと共に息子の元を訪れた。


 すやすや寝ている息子を俺とフィリアとラビで覗き込む。


 こんな幸せな日々がこれから毎日続くのだろう。


 ラビが息子を見てくれている間に、少しの間離れていたフィリアと唇を重ねた。






――――【完結】――――


 幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。を完結まで読んで頂き心から感謝申し上げます。ありがとうございました!


 カクヨムコンテスト7に挑戦するために書き下ろした当作品は、元々50万字近くまで書くつもりであり、途中で一度休載を挟みましたが、無事一年間(厳密には9か月)の連載で完結する事ができました。


 ここまで書き切ってみると、もっとよくできたはずの部分も多くて、自分の実力がまだまだだったんだなと思いながらも、今の自分の実力を底上げしてくれた大切な作品だなと感じております。


 設定、視点、表現、ストーリー、どれを取っても100点とは程遠い物だったかも知れません。でもそれがあって今の御峰。にしてくれた当作品を誇りに思います。



 転職士を最後まで読んだ皆様、当作品はいかがでしたか?


 作者にとってはとても大きな進歩を生んでくれた大事な作品ですが、読み終えた読者様の記憶にも一つ刻められる作品であったなら嬉しいなと思います。



 御峰。はこれまでもこれからも沢山の作品を紡いでいきます。


 もし当作品が面白かったと思った方はぜひ作者フォローをして、最新作などをチェックして頂けたら嬉しいです。

 少しずつではありますが、着実にレベルアップした御峰。の作品を届けますので、お楽しみに!


 ではまたどこかでお会いしましょう!


 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました!

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幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。 御峰。 @brainadvice

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