ひた隠しにしてきた、主人公の抱える世界に対する“負い目”。人によってそれは、誇りになったり、強さになったり、ともすれば武器になったりもする。でも主人公にとっては、それは紛れもなく、どう逆立ちしても“負い目”でしかない。その隠してきた“負い目”が世界に向けて零れ落ちてしまった時、主人公は、日常の中にあまりに自然に溶け込んで、本当はかけがえのないものだった、失われていく優しさを知る。“落としたスープパスタは拾えない”けれど、落とすことなく手に残った温かさは、読者の胸に何かを残すはず。
とても優しいお話しです。紅葉の小さな秘密を店員さんたちがフォロー。それによって気付かされる思い。世界は悪意だけではない、と気付かされる小説です。
『かつて行きつけだった店が閉店』という経験は、多くの人にとってしたことがあるか、あるいは容易に想像ができることのはずです。そんな、ありふれたところから始まる予想外の物語とあたたかな結末。この物語を読めば『あの店、久しぶりに行ってみようかな』と思わせてくれます。私も前職を辞めて久しく顔を出していない定食屋にまた行ってみたくなりました。現実に人を動かせるかも知れない力を持つ、素敵な作品です。
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