第10話 桜が咲いたそのあとに
「……ちゃん…………くやちゃ……さくやちゃ…………」
ううーん……。
なんか呼ばれてる……?
「起きてサクヤヒメ!」
ちゃんとプロポーズを聞いて!
……ってあれ? ここはどこ?
石段がある?
「さくやちゃん! 大丈夫?」
わたしの背中を支えて、そう言ってくるのは――。
「ナギくん!?」
えっ、ニニギじゃないよね?
普通のシャツを着てるし!
「戻ってこれた……?」
「びっくりしたよー。上からさくやちゃんが降ってくるんだもん」
「えっと、ここは……?」
「覚えてる? 此花神社だよ。頭打っちゃったかな」
頭の痛みはないから、大丈夫だと思うけど……。
あれは、夢だった?
「ケガはないと思う。ナギくんが、助けてくれたの?」
「うん。さくやちゃんが、神社に向かったって聞いたから、探しに来たんだ」
「どうして?」
長くむこうで過ごしたせいで、感覚がくるってるけど、今日ってナギくんに振られた日だよね?
ナギくんに振られて、ショックで神さまに文句を言いに来た日……。
わたしに、なにか言いたいことがあったのかな?
ナギくんに支えられたままでドキドキしたけど、わたしは身を起こして、ナギくんに向き直った。
「さくやちゃん、僕の話を最後まで聞かずに帰っちゃうんだもん」
「話って……」
ごめん意外に、なにを伝えたいんだろう?
好きでいるのをやめて、とか?
友だちをやめるね、とか?
そんなのショックすぎる!
せめて、好きでいるくらいはさせてほしい!
「僕は、さくやちゃんのことが好きだよ」
「…………え?」
好き?
ナギくんが?
わたしを?
「えっ? でもじゃあ『ごめん』ってなに!?」
「僕のほうから伝えたかったんだ。さくやちゃんは気にするなって言いそうだけど、かっこつけたかったっていうか……」
はずかしそうに言うナギくん。
……かっ、かわいい!
いつもはかっこいいナギくんだけど、まゆを下げたその表情はかわいすぎる!
「それに……さくやちゃんは、国見くんのことを好きだと思ってたから、びっくりしちゃって」
「仁くんを!? ないない絶対ない!」
どうしてニニギと同じようなかんちがいを!?
思いっきり否定すると、ナギくんはおかしそうに笑った。
「だから仕切り直させて?」
急に真剣な表情で見つめられて、ドキッとしちゃった。
わたしは姿勢を正して、言葉の続きを待つ。
「さくやちゃんのことが、大好きです。僕と付き合ってください」
コノハナサクヤヒメは、どうなったかな?
ちゃんと、自分の気持ちを伝えられた?
もう確かめるすべはないけど――。
「はい! わたしもナギくんのことが、大好きだよ!」
そう言って、思いっきりナギくんに抱きついた。
わたしは伝えたよ。
いっぱいかん違いしちゃったけど、これからは、ナギくんの言葉をちゃんと聞いていこうと思ってる。
お姉ちゃんに敵うところは、まだ見つけられないけど……。
少しずつ、自分のことを、好きになっていけたらいいな。
もしかしたら、神代のことは、夢だったのかもしれない。
だけど、コノハナサクヤヒメとニニギノミコトが結ばれたことは、きっと本当だ。
だから、あなたたちみたいになれるように、がんばるね。
立ち上がったナギくんが、わたしに向かって手を差し出してくる。
その手を取って立ち上がると、ナギくんが目を合わせて笑ってくれる。
並んで歩きだしたとき、なにかに呼ばれた気がして、神社を振り返った。
「あ…………」
石段の先で、一瞬。
桜が吹雪いて、消えた。
〈終わり〉
サクヤコノハナ神代記 安芸咲良 @akisakura
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