星芒祭
Kolto
第1話 すれ違い
「ごめん!コルト!明日から3日間ぐらい任務で帰れないの!」
晩ご飯を食べながら突然大きな声で言うのはララフェル族の白雪
「そんな大きな声で言わなくても…わかったよ、寒いから暖かい格好して行くんだぞ?」
少し困ったように笑うのはアウラ族のコルト
外は雪がふわふわと降っている
本格的な冬が始まり寒さが厳しくなってきた
「わかってるよー!もう!な、なるべく早く帰ってくるようにするからね!?」
「はいはい、無理して怪我しないように」
「むっ…はぁい」
何だか今日は素直な白雪
いつもなら子ども扱いするなと言ってくるだろうに
白雪がムッとするのを楽しんでしまうコルト
食事も済み、他愛ない話をしながら就寝の準備を進める
うとうとし始める白雪はとても愛おしい
そっと頬に手を添えると「…ひゃ…ッ」と小さく声が漏れる
「あ、ごめん、冷たかったか?」
「び…びっくりしただけ…っ!!」
コルトは体温が人よりも低め
手はいつもひんやりとしている
冬は特に冷たくなってしまう
「悪かったよ。じゃあ…ゆっくり休んで…おやすみ白雪」
どこか寂しそうな微笑みを浮かべ、親指で すっと白雪の頬を撫でると部屋を出ていく
撫でられた頬が熱くなる
「…目が覚めちゃったじゃん…」
翌日は寝不足のまま家を出る事になる
______________
家にいるのも気が滅入るので外に出る事にしたコルト祭
今日はやけに人が多い
それも男女ペアの
親子も多い
皆がとても楽しそうで幸せな笑顔をしている
少し胸の辺りがグッと締まる感じがする
「おにーさん、おにーさん」
そう背中をつつかれ振り返るとヴィエラ族の女性がいた
ヴィエラにしては小柄で可愛らしい
「…自分に何か?」
「おにーさん1人?これから予定あるの?」
「いや…何も…」
「何も無いのね!じゃあ私と遊んでよ〜!私も1人なの!」
「え…いやでも初対面…」
「たまにはこういうのもいいでしょ〜?最初はみんな初対面よ!」
そう言うと女性はコルトの腕に抱きついて歩き始めた
「ちょ…」
断ろうとするにももう歩き始めてしまっている
それにどうせ何も予定は無い
1人で気を紛らわせるよりはいいかは こっちの方が紛れるかもしれない
そう考え女性に付き合う事にした
________________
「ちょっと!おにーさん今日 星芒祭だって知らなかったの!?」
そう驚きながら配られていたお菓子を頬張っている
「あ〜…だから人が多いのか…」
「有り得ない!こんなに飾り付けもされてるのに…!おにーさん鈍感過ぎない??そんなんじゃ彼女できないよぉ〜?」
「………恋人なんてできなくていい」
少し苦しい顔を見せるコルト
「ふぅん?じゃあ今日は私と恋人ごっこね!おにーさんカッコイイのに勿体なさすぎるよ!私が練習台になってあげる!」
「そんなのいらないよ…」
本気で嫌な顔をしてしまう
「はい、そこ!すっごい嫌そうな顔!ひど〜い!私傷ついちゃうよ??」
そう言われると焦る
知らない人であっても悲しい思いはさせたくない
「おにーさん結構顔に出やすいんだね?今度は反省してる〜おもしろ〜い!」
なんだか女性に見透かされてるのが少しムッとなる
しかしその通りだとも思うので何も言えない
「ねぇねぇあっちで何かパフォーマンスやってるよ!行こ行こ!」
そう言われて手を引っ張られる
呆れながらもこうして振り回されるのも悪くは無い
__________________
「あ〜!今日は1日いっぱい歩いた〜!足いたぁ〜い!」
「…だからって何で俺まで宿に?」
「え〜?いいじゃん?おにーさんの話もっと聞きたいし〜?それに、今日限定で宿の中も可愛いぬいぐるみとか装飾さてれるの、見たかったんだよねぇ〜!」
今日1日の宿代も食事代も全てコルトが持った
はぁ…と小さく溜め息が出る
「おにーさん、寂しいんでしょ?ずーーーっと遠く眺めてるような顔してたよ?」
「別にそんな事は…」
語尾に力が無くなる
顔も逸らしてしまう
「もぉ〜!」
コルトの頬を温かい手が包むと、びっくりと同時に柔らかい唇がコルトの唇を塞ぐ
「…ッ!?何…っ!?」
「ねぇ、本当に苦しそう。私が慰めてあげよっか?」
「そんな事しなくたって…」
どんっとベッドに押し倒されて上に乗られる
突き飛ばすことなんてできない
こんな時どうしたらいいのかはわからない
そんな自分も嫌になる
「ふふ…無防備すぎるし鈍感すぎる…恋愛上手く出来ないんだね?今にも泣きそうなぐらいなんだよね?」
「…何が分かるんだよ」
不機嫌そうに睨みつける
「そんな怖い顔しないで?私、可哀想な人は放っておけないの。おにーさん分かりやすいしっ!」
不敵に笑う彼女を見ると腹が立ってくる
勢いよく体勢を逆転させると驚いたのか「キャッ」と声が出る
「あのさぁ、さっきから苦しそうだの可哀想だの言いたい放題言ってるけど何なんだよ…」
「だって顔に書いてあるもん?みんな楽しんでるんだし、今日ぐらいあなたも苦しいの忘れればいいんじゃない?」
「…はぁ…なんかちょっとムカつく」
「ふふ!図星だからムカつくんでしょ?いいよ?私にぶつけても。好きにしていいよ?」
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朝になっても疲れが抜けない
昨日はかなり疲れたからか
初めてあんなに振り回されたのだから仕方ない
星芒祭ではプレゼントをするらしい
小さな花の髪飾りを作ってみた
帰宅し家に入ろうとすると閉めたはずの鍵が開いている
そっとドアを開けるとソファに白雪が寝ていた
「!?白雪!?」
ハッと口を抑え静かに近付くと
泣き腫らしたような顔をして寝ていた
近くには『コルトへ』と書いてある綺麗にラッピングされた箱が置いてあった
「………」
これを内緒で用意するために任務と嘘を付いていた事にようやく気付く
自分にどうしようも無い怒りが湧いてくる
箱を取ると自分が用意した物を白雪の隣に置き、家を出る
(俺は本当にダメなやつだ…)
そう思うと岩壁を殴る
拳に血が滲む
こんなにも大事な人の事がわからない
1番近いようで1番遠くに感じる
白雪は自分のせいで苦しんでいるだろう
白雪が俺の事を忘れてくれたらきっと幸せなんだろう
自分が苦しいのは構わない
大切な人が苦しむのなら自分がいない方がいいのかもしれない
もしも記憶を改ざんする方法があるのなら
白雪の中から俺の存在を消して幸せに暮らして欲しい
自分はそれで満足できるのだろうか?
無理やり満足させるしかない
そんなどうにも出来ないことを考えたところで何も変わらないが
今日は白雪のやりたい事、何でも付き合おう
最低でクズなりのお詫びに…
星芒祭 Kolto @kolto441
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