第3話 転職、内定!

「オークスさん、リンゼイさんへ感謝を」

「はい?」


 老人が不思議そうに顔をゆがめる。


「ブランダム王のもとへ参りましょう」

「記憶が戻ったのですか?」

「えぇ、全て思い出しました」 


 参謀本部会議室を出て王の間へ向かう。巨大な鏡は魔のものが入り込まないための魔除けの意味合いがある。吸血鬼は姿が映らないとかそんな程度だがこういった場所には設置されていることが多い。

 廊下に飾られた魔族からの接収強奪品を見ながら、この狂った国の王へ謁見を求めなければならないと心を決める。世界を憂いて汚名を着たまま死んだあの勇者魔女王への手向けが必要だ。汚いおっさんの首一つではまったくもって足りない。

 彼女の計算では向こう千年は安泰らしい。だが、驕る者たちの考えは最早歯止めが利かない。彼女魔女王という抑止力が無くなってしまっては想定以上のスピードで増殖し食いつぶし、世界を崩壊へと導くだろう。


「おお勇者よ!」


 振り向いた王の首が落ちる。


「血迷ったか!?者ど」


 老人の首が落ちる。

 兵士の悲鳴が響く玉座の間からバルコニーへ向かい、魔族領の割譲を期待している民衆へ土地の代わりに二つの首を放り投げる。戦争と略奪で富を得ていたこの国の、腐った民衆どもの悲鳴がこだまする。

 心地よい。忘却の魔法を使ってここまで戻ってきたがある。


「愚かな民衆よ!貴様らの総代の首はくれてやる!死にたくなければどこへでも散れ!私はこの玉座でいつでも貴様らの襲撃を待っている!ふはは、フハハハハハ!!」


 天高く舞うカラスが輪を作る。兵士や冒険者、腕に覚えのある一般市民の死骸に群がる黒い烏ども。

 彼女の意思とは関係なく、俺がしたいからこうするしかない。俺は自分も、この国も、人間も許せそうにない。これまであった全てが邪悪などではなかった。だが、声を上げずに同調したならば、見て見ぬふりをして見殺しにしたならば、もはやそれは共犯者ではないのだろうか?


「すまないルプレグリア。俺はお前のようにすべてを抱えて死ぬようなことはできない。俺は俺の怒りのまま力を振るう」



 怒の魔王メギドはこうして誕生した。世界を調停するものとして殺し、壊し、人間だろうとエルフだろうと魔族であろうと一切の容赦なく力を振るうのであった。




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くだらないはなし 南部忠相 @voltex

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