第2話 魔女王とのお話

「勇者よ。この話を聞いてまだお前は私にその切っ先を私に向けるか?」


 彼女の顔は悲しそうな、それでもどこかうれしそうな不可思議な表情を浮かべていた。


「お前は殺しすぎた。すでに引き返せる一線は超えてしまったんだ!」


 美しい姿形も、心地よい声も、自分を犠牲に他者救うその優しい心もすべてが勇者には無い何かだった。それが人間からの畏怖の対象であっても。


「殺さねば皆死ぬ。魔族も、人間も、精霊やエルフも関係ない。これ以上増えれば皆仲良くあの世行きだ」


 生き物は生まれたその瞬間から魔力を吸収して生きている。その鼓動、吐息にも魔力を使って生きている。だがこの世界に満ちている魔力は有限だ。そう、有限なのだ。これが意味すること、生命が増えすぎれば皆魔力を吸収できなくなり心中するということだ。もっとも多くの魔力を必要とする精霊はほとんどが死に絶えて七大精霊だけが存在する絶滅種となり果てた。彼らは全にして個、個にして全のあべこべな生命だからさして気にしていないようではある。だが問題はほかの魔族、人間、エルフだった。

 もともと森の中で節制のもと生きているエルフたちは数も増えずに穏やかだったが、そこから平原に進出して適応した人間たちは爆発的に数を伸ばした。豊かな生活を求めて農耕や牧畜を始めることで余計に魔力を消費した。戦争によって大勢死ぬこともあったが、太平の世が訪れた時その拮抗は崩れ去った。


「だが、だが! これではお前だけが悪者じゃないか! そのせいで世界は俺を選んでお前にけしかけた! だれよりもこの世界を愛したお前に引導を渡すために!!」

「この命、とうに使い方は決めていた。その最期、お前のような勇者ものが訪れてくれたのだ、神に感謝の一つでもしようじゃないか」

「……俺と逃げよう。俺とお前なら追っ手なんか怖くない。お前が守った世界の行く末を共に見届けよう」

「それはできない。結末は広く知れ渡り、続く世の礎とならなければ」


 言い終わるか否か、ルプレグリアは勇者の剣を抱くように自らの胸へと深々と突き刺した。


「~~~~~~!!!」

「私は疲れた、お前のもとで休ませてくれ」


 勇者の声は誰もいなくなった城の中で響き続けた。

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