あとがき(という名の小説テーマのざっくり解説~下請法:不当な経済上の利益の提供~

 23日の担当であるznk氏(@chuuzai_houmu)よりバトンを受け取り、法務系アドベントカレンダーのテーマとして小説形式で投稿しているものとなります。


 簡単な自己紹介ですが、日頃は製造業で法務部員として働きつつ、暇があればゲームやライトノベル・小説の読書に勤しみ、ウマ娘を育成し、チャンスがあれば拙作を書き上げてはライトノベルの新人賞に投稿してデビューすることを目論んでいる人間です。法務経験は新卒採用でいまの会社に入社してから一貫してビジネス法務領域です。そろそろ社会人満10年です。

 最近は弁護士資格を持った方がミステリ系の小説賞で次々とデビューされており、感服するばかりでございます。

 元彼の遺言状は面白いのでおすすめです。

 

 さて、今年は例年より書きだしが遅れました。理由は弊社グループの法務メンバー(国内外)を一同にTeamsへ招集して開催した法務会議の主催・司会・全体進行を、それこそ先週までやっていたためです。ほんまあかんレベルで忙しかった。結局なんか僕が準備も本番も事後対応も8割くらいあれこれやったんですけど、そのせいで終わった瞬間抜け殻になって小説を書く気力が湧かず、ウマ娘の育成に逃げ、いやいやあかんあかんなにやってんねんバカタレ!と気合いを入れて書き始めたのが12/19の夜11時30分頃でした。その日はアイドルマスター・シャイニカラーズのライブが両国国技館で開催されておりまして、私は会社の同期と二人で現地に行ったんですね。そこでパワーもらって、白紙の原稿と無事に向き合うことができました。


 音楽のちからってすげぇ!


 さて、今回のテーマは『下請法』の『経済上の利益の提供要請』(下請法4条2項3号)とコロナ禍というものを組み合わせて、想定されるようなケースを物語にしてみました。なお、修正した通知文書は掲載しませんので悪しからず。(需要がめちゃくちゃあれば私なりのものを掲載しようかなと思いますが、多分ないのでこれはいいですね)


 経済上の利益の提供要請と一重に言っても、具体的な事例に落とし込んでいくと非常に様々な類型があります。個別具体的なケースに直面した際には、経済上の利益の提供要請の内容がどういうものか、それは下請事業者にとって不利益になるものか、下請事業者は負う負担の内容が合理的な範囲であるか否か、経済上の利益の提供要請に至る経緯やその内容の決定に至るプロセスが問題ないか否か、などの観点を相関的にみていく必要があります。


 コロナ関連で発生した、不当な経済上の利益の提供要請であると判断された具体的な事例については、令和3年6月2日に公正取引委員会が発行している

「令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/jun/shitatyo/210602honbun.pdf)にて掲載されており、

例えば、(以下原文ママ)


① 遊技用具の付属品の製造を下請事業者に委託している製造販売会社D社(本社

東京都)は,下請事業者に対し,自社の取引先遊技場に当該付属品を納品させてい

るところ,自社で行うべき当該付属品の設置作業を下請事業者に無償で要請して

いた。

② 自動車部品の製造を下請事業者に委託している製造会社E社(本社神奈川県)

は,下請事業者から当該部品を受領した後,下請事業者に対し,不良品の有無を確

認する作業を当該作業に要する費用を支払うことなく行わせていた。

③ 厨房機器の製造を下請事業者に委託している製造会社F社(本社東京都)は,厨房機器の製造に使用する部材,部品等の種類ごとの数量を確認する棚卸作業を下

請事業者に行わせていた。当該作業はF社が自社で行うべき作業であるところ,F

社は,当該作業を行うことによって下請事業者に生じた費用の一部を負担してい

なかった。 (上記①~③は当該資料のP22~23に掲載)


 などがあります。


 今回の小説に描いたシーンでは、まさしく③に近い事例が発生していたかもしれない、という状況でしたが、辻村の同期が持ち込んできた相談に同席した久留が「こいつは怪しい」と踏んで、費用負担をするつもりがあるのか否かを事業部へ確認しています。この結果、違反となってしまいかねない状況を結果的に回避できた、という成果に繋がっています。


 法務という仕事の多くは、こうした危険回避的な、リスクの芽を摘み取るような仕事が多数を占めます。その取りこぼしや、法務の目の行き届かないところから燃え広がってしまったものが、訴訟や紛争という形で法務に持ち込まれることもありますが、法務に所属する身としては、こういう訴訟や紛争は避けたいと誰しもが思っているでしょう。(ですよね?)なぜなら会社の本業は製品を開発し、製造し、販売して、利益を得て、次の製品を開発し、世に出していくことで社会を豊かにしていくことなのですから。訴訟で利益を得ることを定款に書いている企業なんてありません。(調べてないですけどないですよね?)


 そして、危険回避をするには、こういう勘所を押さえている方が法務だけではなく事業部にいる、ということも大切なことです。今回のケースでいえば、若手である辻村は経済上の利益の提供要請が不当なものでないか否か確認すべきポイントとなっていることに気付かず、同期である飯沼は小間使いのような形で法務へ依頼してきているので、金城の指示がなければ書面を法務に確認してもらう、という判断をしなかったはずです。そして、法務に持ち込まれたからこそ、久留は危険回避ができたわけですが、仮に金城が「書面を法務に確認してもらったほうが良い」と、職場の上司である課長を押し切ってでも法務を頼らなければ、この書面は製造委託先・下請先へ通知されていたわけです。なんとも怖い状況ですね。

 そうなった場合、下請先から工数相当の対価がほしいという声があがって初めて「下請先から金を払えと言われているけれど、本当に支払わなければならないのだろうか」なんて趣旨の相談が持ち込まれることになっていたことでしょう。そして実際問題、そういう局面になって法務に相談が持ち込まれる、ということも十分想定できてしまうというのが実際のところです。

 こうなってしまうと、最悪の場合、対応が間に合わず、下請事業者が公正取引委員会に相談として持ち込んでしまい、あるいは支払いをしないまま公取の調査が入ってしまい、結果的に摘発を受けてしまう、という結果に繋がりかねないわけです。


 金城の存在は非常に重要だったわけですが、それでは果たして、金城が存在しなくとも、こういうケースを事前に拾い上げて危険回避的な判断を先んじて実施する、という体制や仕組みを構築することも、できないわけではないのでしょう。あるいは事業部に対して、こういうケースのときには自部門での独断ではなく、法務への相談を行う、といった対応ができるように教育をしていく、ということが大事になってきます。


 そして、そういう活動は今後ますます重要になってくるのでしょう。戦略法務という側面でも、予防法務という側面でも、臨床法務という側面でも。


 目下、ありとあらゆる企業の法務部が色々な方向を向いて、様々なステークスホルダーと新たな試みを開始し、あるいは法務部のあり方を進化させている状況です。特に、事業部門に入り込もう、新規事業へ特に傾注しよう、と躍起になっている企業はたくさんあります。


 ならばこそ、いまいちど、ちょっとは立ち返り、振り返り、果たして仕事をするうえでもっとも身近に存在するパートナーであり貢献すべき相手である事業部と、このままの関係でいることが必要十分なのだろうか、昇華していくばかりではなく足元を強くするために広く根を張り降ろすような思考でできることはないのだろうかと振り返ってみるのもいいのではないでしょうか。

 新規事業へフォーカスし、ESGやSDGsや5GやADASといったトレンドに強くなるばかりではなく、日頃のヒヤリハットを分析し、その数を減らす、という視点・思考もまた、重要なことだと思います。いや、ほんと。強くなるにはまず足腰から、というじゃないですか。上半身ばかり鍛えても、いざってときに踏ん張りきかなくなりますからね。これは人間の身体も企業も同じです。


 4月 – 3月を年度としている企業はもう少し寝ると第三四半期が締まり、管理職は予算や次年度の部門方針をどうすべきかあれこれと頭を悩ませる頃合いかと思いますが、もし、お時間があるのであれば、ミルクでも飲みながら拙作を読んで息抜きをいただき、このあとがきを読んで、ふむ、そういえばな、と立ち止まっていただけるようであれば幸いです。


 最後に、今年も本企画を主催いただいたKaneko氏には多大なる感謝を申し上げます。こんな機会に積極的に参加しなければ、こういうことも書けませんからねっ!


 それでは、本年最終日となる25日は、直近で吶喊沖縄旅行を満喫されていた中川氏(@naka_fbbiz)です! 

こんなとりとめもない形でバトンを渡す形となり恐縮ですが、期待しております!


 では、私はこれで筆を置かせていただき、Uverworldの日本武道館クリスマスライブへと行かせていただきます!


 最後に、この小説が面白いとおもったら、カクヨムの機能で評価をいただけると、私が泣いて喜びます!

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とある年末の書面審査 - 拝啓で始めるなら敬具で締めろ 辻野深由 @jank

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