第34話 女子会





「はい雑魚。」

「酷い………………。」



 怪盗稀子はスコットランドヤードに包囲されました。



「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ何で!?坊ちゃんの時はニ時間経っても捕まえられなかったし、結局逃げ切られたのに!?私、二十分も経ってないよ!?」

「うるさ」

「き、稀子さん……どんまいです!」

「…………。」



 哀れな怪盗稀子……ボードゲーム場に転がったコマを見つめる。人狼等の定番ゲームにそろそろ飽きてきたな〜と思ってた時、美耶子おばあちゃんがくれたゲーム。怪盗と警察にプレイヤーが別れて、遊戯盤上で怪盗を追い詰めるゲームだ。怪盗が切れ者だと、プレイ時間はどんどん膨れ上がっていく。怪盗が雑魚だと一瞬で捕まるけどな!!!(実地経験)



「……くっ……じゃあ次違うのやろう?そっちは勝ち負けとかないからみんなが楽しいよ?」

「今、楽しくなかったのは稀子ちゃんでしょ?」

「わ、わあ!どんなゲームでしょう?新しいゲームです?」

「そうなのー!おばあちゃんがね、みんなで楽しんでって言って買ってくれたのー!」



 ごそごそと押し入れを漁る。坊ちゃんの部屋なのに、私の物の方が多くない?…………いやいや気のせいだ。



「はあ?実家からの差し入れは禁止されてるはずでしょ?」


 

 ここのところ続けざまに引っ張り込んでいるせいで、坊ちゃんの部屋に馴染んできた紅緒が言う。あー、そういえば、紅緒にはまだいってなかったっけ。



「実家じゃないよ。実家ないし。おばあちゃんは、美耶子おばあちゃんのことだよ。」

「 」



 途端に虚無顔になる紅緒。

 うんうん。分かる、分かるよ。大奥様がただの使用人にゲーム買ってあげているとか虚無るよね。でも諦めて、現実だから。



「じゃじゃ〜ん!パン●ミック〜!」



 にっこりと両手で掲げたのは、世界中で沸き起こる未知のウイルスによる感染爆発に、プレイヤー一同が立ち向かっていくシナリオのゲームだ。勝つにはウイルス根絶。負けなら感染拡大で全世界がパンデミック。わあ、どことなくどきどきするのは、前世に関係しているのかな?



「ふむふむ、まずはプレイヤーカードを……」

「あー、俺、時間だから。」 



 す、と坊ちゃんが立ち上がる。慌てて私も立ち上がり、坊ちゃんに羽織を着せる。暦の上ではがっつり春だけど、まだまだ寒い日が続いている。



「あのさあ、今日は草むしりやめて部屋でゲームしてたら?」

「え?なんで?最近むしりがいがあるのが増えてきたのに。」

「ま、いいじゃん。とにかく、今日は三人でゲームとかしててよ。」

「ええ……なんか、主が働いてるときに遊んでるとか、使用人としてどうなのかなあって……?」

「…………今更じゃない?」



 障子を開いた坊ちゃんの後を追って廊下に出る。



「言ったからね?戻るまで、部屋から出ないでね?」 

「え、ああ、うん。」

「ん、じゃあごゆっくり〜。」



 坊ちゃんはそう言うと振り返らずに去っていった。……何だったんだ??


パタン、と障子を閉めて室内に戻る。



「……。」

「……。」

「……うーん、パンデミッ●は四人がベストなんだよなあ。うん、坊ちゃんが帰ってきてからにしない?ハブったら可哀想だし。」

「いや、あたしべつにやりたくないし。」

「またまた〜」

「稀子さん!お優しいです!」



 そうなるとやることないなあ。草むしり禁止されたし。あ、そうだ。ごそごそ、と棚を漁る。



「女子会しよ!」



 手には、コンビニスナックたち。こちらも入手ルートはおばあちゃんですよ。



「何です?これ?」

「……これは!」



 正反対の反応で戸惑う。



「ええ、いや、定番のハッピー●ーンと、最推しのポテチ、幸せ●ター味、それからこれまたド定番、し●チョコだけど。」

「こ、これが……ポテチ…………。」

「し●チョコ……??」



 あれ?この反応はもしや。



「もしかして食べたことない?」

「………。」

「………。」

「……食べたこと、ないんだあ?」

 


 にやり、と私は笑った。













「ね、どう?美味しい?」

「……まあまあね。」

「美味しいです!特に幸●バター味、最高です〜!」



 ふふん。やろ?憂ちゃん分かってるやないか。よしよし。



「ふ、ふああああああ」

「ほらほらもっと食べな?」

「ふああああもぐもぐもぐ」

「……。」



 美耶子おばあちゃんから貰ったティーカップに紅茶を淹れれば、気分はパーティ。だってこのティーカップ、お姫様が使ってるの?って言うくらい美しい。浅めのカップは優雅で、散りばめられた繊細な花柄がとても可愛い。結局、一式貰ってしまったので、有り難く使わせてもらっています。



「紅緒、おかわりどうぞ!」

「……どーも。」



 私は飲んでも味分からないけど、こういうのは雰囲気大丈夫だよね、と紅茶を一口。うん、なんかぬるいしか分からん。くう……!


 それにしても、女子会かあ……正直、紅緒と仲良くなれるとは思ってなかったから嬉しい。憂と紅緒も仲直り……というか、本人たちで話をつけたようだし。「話し合い」のあと、紅緒がげっそりした表情をしてたのが気になるが。



「何?」


 

 じ、と見つめていると紅緒が半眼で見返してきた。



「ん?いやあ、紅緒が一緒に遊んでくれて嬉しいなって話。」

「はあ……無理矢理引っ張ってるのは誰よ……。」

「なんだかんだ付き合ってくれてんじゃん。ありがとう!」

「……。」

「でも、一体どういう心境の変化なの?私のことあんま好きじゃなかったでしょ?」

「あんたっていうか……まあ、あたしは、馬鹿みたいな意地をはっていたのよ。悪かったわ。」



 その言葉を聞き、ついまじまじと紅緒を見てしまう。



「……何?」

「え、いやあ、なんか、紅緒って……もっとツンツンしてる子、というか……。もうちょっとガツガツ……ピリピリしてるというか……そんな感じだと思ってたから……。」

「…………あんたって馬鹿に見えるけど、わりとちゃんと周りみえてるのね。」

「失礼だよ??」



 あと憂?ポテチばっかり食べないで●みチョコも食べなさい。口に無理矢理チョコを突っ込む。



「ふああああむしゃむしゃ」

「……。」

「そうなんだあ、何か心境の変化があったの?」

「……そうね。あたしがずっと欲しかったものが、もしかしたら、そんなに大したものじゃなかったかもって気づいたの。だから、もうどうでもいいかって。」



 そう言って紅茶を眺める紅緒はどこか抜け殻のよう。紅緒は誘えば、嫌な顔をしながらも付いてきてくれる。それは嬉しいけど、以前の紅緒ならぜったいなかったと思うのだ。


 紅緒の望みが何だったのかは分からないけれど、前の紅緒は生き生きとしていた。やっていたことはどうなのかとは思うけど、もっとオカシイ人、いっぱいいる(しろめ)ので、何も言えない……。いや、一般的な道徳観念だとアウトだと思うからね!真似しちゃだめだからね!



「そうかあ……じゃあ、次の目標、早く見つかるといいね。」

「次?」

「うん。紅緒がうじうじしてるのは勿体無いよ。紅緒は悪巧みとか下剋上狙ってるときが一番輝いてるよ。」

「……言ってくれるわね。」

 


 ぴき、と青筋を立てる紅緒。うん、そういう顔の方が似合ってるよ。ぼんやりしてる紅緒は、なんだか消えてしまいそうな儚さがある。それはとても、怖い。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生まれ変わったら呪いの人形だった! まふ @uraramisato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ