第9話 これからも秘密なふたりの×××

「んあっ⁉」


 ビクリと痙攣けいれんしたように体が動き、意識が覚醒かくせいする。

 

 ……どこだここ? あとなんか体も痛い。すごく凝ってるみたいだ。


 ベッドにもたれて座り込むようにしていた体を起こすと、目の前には気持ちよさそうに眠るアカネの姿があった。


「……ああそうか」


 ようやく状況を理解する。昨日夕飯をアカネにごちそうしてゲーム実況を見せたあと、そのままふたりで寝落ちしたのだ。スマホを見るとまだ朝の4時半だった。

 

 ……昨日は21時ちょっと過ぎに寝たから、ずいぶん早起きしちゃったな。


「しかし、懐かしい夢だった……」


 眠っている間、俺は初めて吸血された日の夢を見ていたようだった。

 

 ──あの後、俺たちはしばらく友達を続け、それから付き合い始めたのだ。


 おそらく一番最初の吸血のキッカケのインパクトが大きすぎて、お互いに改めて『付き合ってください』と告白するキッカケが掴めなかったのだと思う。だから俺たちは1週間と少し前まで、友達という関係性のまま陰で隠れてキスと吸血を繰り返していたわけだ。


 ……そんなこじれた関係も、なんか背徳感があってよかったんだけどな。でも、俺たちはそれ以上の関係をお互いに望んだわけで。


「で、1週間してもうお泊りか……まあ今回は何も無かったけど」


 でも、ゆっくりでいい。毎日が刺激的じゃなくたっていい。俺はこんな穏やかな時間も好きだった。眠るアカネの髪を優しく撫でていると、


「うみゅ……」


 アカネが目を開けた。


「あれぇ、クマちゃん、どこぉ……?」


 どうやら寝ぼけているらしい。寝っ転がったままベッドの周りを手探りにして、俺の肩を掴んだかと思うと、


「居たぁ」

「うわっ⁉」


 そのまま俺をぎゅっと胸に抱き寄せた。

 

「ちょっ、姫野さんっ⁉」

「うみゅ? クマちゃんが、しゃべっ……」


 アカネは自らの胸の中にすっぽりと収まった俺を見て、パチクリと。目をまたたかせた。

 

「きっ、岸守くんっ⁉」

「あ、はい……おはよう姫野さん」

「おはよう……って、なんで岸守くんが私の部屋に!」

「いや、ここ俺の部屋だから」

「えっ」


 アカネは体を起こすと辺りを見渡して、しばらく沈黙したのち、


「あ、あぁっ!」


 ようやく記憶が追い付いたようだった。




 * * *



 

 朝の6時。俺たちは家を出た。

 

「まだ空がちょっと赤いな」

「ホントだ。私、普段だったらまだ寝てる時間だよ」

「クマちゃんといっしょに?」

「……岸守くん、1000円あげるからソレ忘れて」


 他愛ない話をしながら、ふたりで手を繋いで登校する。アカネはお泊りセットの中にちゃんと制服も入れてきており、お互い準備は万全だ。


「えへっ、なんかこういうのいいね」


 アカネが表情をニヤけさせる。

 

「初めてだね、ふたりでこうしていっしょに登校するの」

「そうだね。いつもの登校時間に手を繋いで歩いてたら俺たちの関係バレちゃうし」

「うん。だからかな、特別感があって今日は朝から幸せ~って感じ」

「俺もだよ」


 校舎は普段から用務員さんが6時には開けてくれているようで、まだ早朝だったものの、俺たちは普通に1年C組の教室にも入ることができた。

 

「うわぁ~! クラスでふたりっきりだよ、岸守くんっ!」

「珍しいシチュだね」

「ホントにね! ねぇ、写真撮ろっ?」


 朝の6時半。誰もいないクラスで俺たちは思うがままに過ごした。普通の友達のように前後の席に座って会話して、登校途中に買ったお菓子を分け合って、黒板で絵しりとりをしたりした。それは今まで俺が学校で経験したことのない、とても楽しい時間だった。


「あ、もう7時半だね……」


 気が付けば教室にやってきてから1時間が経っていた。朝の早い生徒がそろそろ登校してくる時間帯だ。


「姫野さん。誰か来る前にしておこっか?」

「えっ……? いま?」

「だって姫野さん、昨日の昼休みから全然飲んでないでしょ?」

「あっ……そういえばそうだった」


 姫野さんは照れたようにしつつも、俺の腰に手を回してくる。


「教室でするなんて、なんかちょっと……」

「うん。なんかエッチだね」

「も、もう! あえてボカしたんだから言わないでよっ!」


 恥ずかしがるアカネに、俺は問答無用で口づけをする。


「あっ、んっ……ふっ……」


 それはいつもより、激しいキスになった。


 ……ああ、興奮する。昨日の夜からずっと可愛い姫野さんをいっぱい見てたのに、ずっと何もしていなかったから。

 

 いつの間にか、俺たちは舌を絡め合う。


「き、岸守くんっ……!」

「どうしたの、姫野さん」

「もう、私、ガマンできないっ……」


 あえぐように、アカネは言う。


「……うん、分かった」


 俺はいつも通り左肩を出す。アカネは糸を引くその唇で、俺の首元に吸いついた。


「岸守くんっ……いただきます」

「どうぞ、姫野さん」


 俺の体に突き刺すような快感がはしる。でも、それもあと数十秒ののちに終わる。そうしたら、また始まるのだ。俺たちふたりの内緒の関係が。誰にも悟られてはいけない秘密の学園生活が。

 

 でも、それでいい。

 

 陰キャの俺と学校No1美少女吸血鬼の姫野アカネが求め合っているなんて、他の誰も知らなくていい。そんなの、当の俺たちだけが知っていればいいことなのだから。




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最後までお読みいただきありがとうございます。


少しでも『おもしろかった!』と思ってもらえたら、作品の評価をしていただけると大変嬉しいです。


現在は他にも『このたび爆乳お嬢様の『乳持ち係』として雇われました』などを連載中です。ご興味あればぜひ1話からでもお読みください!↓

https://kakuyomu.jp/works/16817139558044695795


それでは改めましてありがとうございました!

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陰キャの俺と学校No.1美少女"吸血鬼"はみんなに隠れて×××している 浅見朝志 @super-yasai-jin

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