第3話 本当の景色

 後日、しっかりと話を聞いた。犯人は地域によく出没していた接点の無い通り魔の男性で被害者を襲った直後にすぐ捕まった。被害者はカレンの旦那で襲われた理由は偶然、殺せるならば誰でもよかったのだ。


「一晩泣いて、帰ってきた。

...捕まったとしても犯人が住んでた街にいたくなくて、だからあんたに言ったんだ。」


無事でよかった


「そうだったんだ..」

最近は知り合いの不幸が多い。聞かされるだけでしんどいが、当事者はより辛い思いをしているのだろう。


「ごめんね、しんみりさせて」


「..いやいいよ、最近慣れてきたし。」

本当は全然慣れていない、嫌な思いに一つ上乗せされただけだ。


「範一も最近亡くなったんだ、あと義数も。

..その後だったから、なんか怖くてさ」


「範一も死んだの? 義数も⁉︎

...他の人は大丈夫かな。」


「…調べてみよう」 「え?」

言われると不安に感じてきた、立て続けに友人が三人も不幸になっている。電話帳に残っている他の友人は、何か不幸なら目にあっていないだろうか。


「片っ端から実家を周る、何か起きていたら本当にマトモじゃないと判断できる。


「直ぐに調べよう、茨崎も頼む!」

茨崎も自分の持つ連絡先で調査を開始する。

何故そんな事を行ったのか、もう嫌だったからだ。漸く帰ってきた友達が涙を流して悲しげな顔をして話すのが。


「あんな顔が見たかったんじゃない、おんな話がしたかったんじゃない!」

調査は朝から夕陽が沈む夜に差し掛かる時間まで行われた。一通り終わり話を聞くまで随分な時間を掛け、最後に二人が集まったのは街灯のある電柱の近くだった。


「どうだった?」


「..駄目、みんな死んでた。」


「オレも同じ。

嘘だろ、みんな不幸になってるってさ..」

連絡をしても返信が無い訳だ、皆既に携帯など持っていなかったのだから。


「いつからなのかな? 同じ時期?」


「バラバラだよ、死んだ時期は..。」

何故気付かなかったのか、小さな街なら直ぐに広まる筈なのに。


「ワン!」


「...ごめんな犬。

いまそんな気分じゃねぇんだよ」


「ワンワン!」

事情を知らない犬が吠えかける、しかし相手をする余裕はない。


「ワンワン! ワンワン!」


「うるせぇな!

今そんな気分じゃねぇって言ってんだろ!?」


「クウゥン..」

落ち込む犬に寄り添い頭を撫でて微笑む茨崎。こちらには背を向けている、寂しい背中がひっそりと犬を抱いては涙を堪えている。


「‥ごめんね、坂下。」


「……なにがよ?」


「私にも..〝お迎え〟が来たみたい。」


「え..」


犬が大口を開け抉るようにして茨崎を噛みちぎる。喰われた茨崎は血溜まりとなり、肉を呑み込んだ犬は派手なメイクと金髪の髪を頭に生やしてこちらを向いた。


「ワン! ワンワン!」


「お前、その格好..」


「ワン! ワンワン! ワンワン!」

吠える犬の背後から、ゾロゾロと幾つもの犬がこちらに向かって鳴き声をあげる。


「ワンワン!」「ワンワン!」「ワンワン!」

腕に時計をはめた犬、首にバンダナを巻いた犬、白髪の髪に丸い眼鏡を掛けた犬。

みんなみんな、貞治の〝知り合い〟の姿だ。


「は、はは..‼︎ なんだよぉ..!

お前らこんな近くにいたんじゃん!!」

歩みは自然と、鳴き声の方へ進んでいた。


「まったくよぉ..! 寂しかったんだぞ?

ずーっと一人でよぉっ! ハハ、ハハハハ‼︎」


貞治の瞳からは、大粒の涙が溢れていた。

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