第2話 汚い街並み。

 久し振りに帰ってきた街の景色は、随分と小さく見えた。自分自身の視界や感覚が肥大化してしまったのか、前のように良い街だとは思えなくなってしまった。


 「…ダサい街..。」

それは一人になったからなのだろう。二人で見る景色はどれも、綺麗で素晴らしかった。


 「こんにちは。」


「あ、こんにち..は...」

普段見ない顔だった、というより風貌がこの辺りの人では無い。若く目立ってスタイルがいい、だが不思議と美しいとは思わなかった。


「覚えてる?」「…え。」

こんな知り合いはいない、だが向こうから話しかけてきた。女友達と呼べる存在は果たして過去にもいた事があっただろうか。


「ウソ、覚えてないの?

わたしだよ。カレン、茨崎カレン。」


「……あ! 茨崎!?」


「思い出すの遅すぎ。

わたし直ぐにわかったよ、あんた坂下でしょ」

学生時代同じクラスだった茨崎。

随分と風変わりしていて気が付かなかった、前は黒髪おかっぱに厚いレンズの眼鏡をかけた地味な女子だった。名前が派手な為、見た目に合わないとよくバカにされていた。


「誰だかわかんなかった..。」


「名前通りの女になったでしょ?

あんたは..あんまり変わんないね。」

口調が少し強くなった、他所に行って色々あったのだろう。まさかこんな場所に帰ってくるとは思わないが。


「えっと、観光?」


「はぁ? 違うよ!

出戻りだよ、帰ってきたの。」


「…本物に?」


「悪い?

..まぁ言いたい事はわかるよ。あんただって、なんでこんなトコに今だにいんの?」


「……。」 「お互い様みたいね。」

そう言った彼女の顔は呆れた嫌なものではなく、優しい微笑みだった。まだ知り合いがいて安心したのだろう、それもお互い様だ。


「あんたは無事で良かったよ。」


「ん、どういう事?」


「言葉のままの意味、気にしないで。

..連絡先、まだ持ってるよね?」


「持ってるよ。」


「たまに連絡するから、そしたら返事して」


「……わかった。」

長らくして来なかったのに、今更なんだと自意識過剰な感覚が募ったがそれを振り払い静かに了承した事のみを伝えた。


「ありがとう、じゃね!」

夕陽が照る向こうへと去っていく、突然帰ってきた事に意味はあるのだろうか。少しばかり気にはなるが、物事の殆どは無意味なものばかりだと既に気付く生活をしている。恐らくそれを聞き出しても、大した納得は得られないだろう。


「クウゥ〜ン..」


「お前も気になるか?」「ワン!」「そうか」

会話はこの程度、何を言っているかわからないくらいが丁度いい。


「帰るか..」

夕陽とは反対の方向に歩みを進め、家に帰る。

その後は同じ、コンビニの弁当を広げなんとなくテレビを点ける。


「…またカルビだ、買いやすいのかもな。」

今日は一口目を口に入れられた、やはり悪いのは弁当自体ではなく偶々起きた事故。


『ピロン♪』「ん、なんだ?」

携帯が鳴る、見るとそこには一件のメッセージが届いていた。


「茨崎から。」

フットワークが軽いというか、言った後の行動が速すぎる。取り敢えず何かを送ろうと試みたのだろう、メッセージの内容は何でもない日常的なものだった。


『4チャンでやってるニュース見てみて』


「‥4チャン、いきなりなんだよ?」

言われた通りにチャンネルを回すと通り魔殺人の事件が報道されていた。


『一昨日、会社員の男性が殺害された事件で犯人と疑われた男の身柄が...』


「通り魔? 

..なんか物騒だな、犯人は捕まったのか。」


『見てるよ、これがどうしたの?』

おそろしく凄惨な事はわかったが、わざわざこれを見せる意味がわからなかった。


『ピロン!』 「……え?」

疑問への返信は直ぐに返された。


『私、その被害者の遺族なの。』


「……そうなんだ」

思っていたよりも強い納得をする事が出来た。

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