第3話 支局に凛々と共鳴し合う記者魂

      

 

 目の前で繰り広げられる光景に呆然としてカメラを向けるのも忘れていたヤエガキ記者は、自分より少し上に見える女性から放たれる清冽な気品にたじろぎながらも、ダメもとで取材を申し込んでみると、女性は思いのほか素直に応じてくれました。


「大学の乗馬クラブ時代のパートナーだったハッピー号を、卒業後、家に引き取ったのですが、父が経営する会社が倒産してしまいまして、この子の居場所をどうしようと悩んでいたとき、新聞の地方版でお助け牧場のことを知りました。こちらにお願いすれば、この子を一生守ってあげられるとわかったときは本当にうれしかったです」


 うっすら上気した頬に、お化粧らしき痕跡はほとんど見当たりません。(#^.^#)


「経済的な負担……ですか? いいえ、ちっとも。派遣事務の職場には手作り弁当を持参していますし、洋服は古着、日用品は百均、髪の手入れも自分でするなどの工夫できり詰めれば、この子の委託費や往復の飛行機代くらいはなんとかなりますから」

 

 ――世の中、まんざら捨てたもんじゃないな。(´;ω;`)ウッ…

 

 自分でも思いがけないほど胸を熱くしたヤエガキ記者の目に、純真な心根そのままに清楚で無垢で飾り気のない女性が、とびきりの別嬪べっぴんさんに見え始めています。💚

 


      ☆☆☆☆


 

 夕方、見るからにやる気がなさそうだった行きがけとは別人のように生き生きして支局へ帰ったヤエガキ記者は、珈琲を飲む手間も惜しんでパソコンに向かいました。

 新米の椅子のうしろを、体重100キロ超えの巨漢が行ったり来たりしています。


「あの……支局長、なにか?」

「いや、なに、これでおまえもやっと昔気質のブンヤの仲間入りかと思ってな。新聞記者はな、人間を深く掘りさげるのが仕事だ。いい仕事をしろよ、期待しているぜ」


 斜向かいの席でスポーツ記事を書いていた先輩記者の肩が、くすりと揺れました。

 資料類で乱雑を極める支局内に、妙なる楽の音が流れるのはこんなときです。🎶


 まあ、たぶんに照れ混りに披露すれば、


 ――共鳴する記者魂の連鎖。(⋈◍>◡<◍)。✧♡


 とでも表現すべき、妙なる和音が……。

 

      ****

 

 新米記者入魂の記事は、翌々日の地域版に掲載されました。

 うっかりすれば見のがしてしまいそうに小さなベタ記事ではありましたが(笑)、ハッピー号と女性が頬を寄せ合うツーショット写真が採用されたことは幸いでした。

 

 ――なんの罪もない馬たちに、穏やかな余生を送らせてあげたい。


 損得抜きの牧場経営を誇りとしている杉田オーナーの静かな、そして熱い想いや、遠い東京の空の下で愛馬の余生を支えるために懸命に働いている若い馬主の胸の内を少しでも社会に伝えたいと、未明まで推敲をかさねた原稿の大半がバッサリ削られてしまった理由は、地元出身大物代議士の国会報告記者会見があったからだそうです。


「いやあ、わりいわりい。このツケは必ず払うからな、追っかけろよ、あの牧場」


 猪首のうしろを掻いて詫びる支局長に苦笑で応じた新米記者はそっと誓いました。

 

 ――いつかきっと、心やさしい人たちのことを、日本中に紹介してやるんだ!✑

 

 牧場に降り立った天使の矢に💖を射抜かれてしまったらしい新米記者は、東京へ帰省したら、学生時代に通ったカフェに誘ってみようかなと思っているみたい。☕


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