堂本哉斗という男は
「僕と彼女は、3年前の夏に出会いました。
警察の薄暗い取調室で声を震わせ、質問に答えていく。
「そうですか。話を続けて下さい」
「はい、そこで初めて彼女に出会い。一目惚れでした。綺麗な人だなと思い、話をしました。彼女も楽しそうに…ぐっぐすっ…すみません。彼女を思い出したら…」
鼻を啜っているが、涙は出ていない。
警察も涙が出ていないことに気づいている。
「いいえ、ゆっくりで大丈夫です。自殺された
「はい、ありがとうございます…」と首だけでお辞儀をすると
「出会いは…」と重たい口を開く。
ーーー3年前の春
高校の卒業式後にたまたま見かけたレンガ造りのカフェに立ち寄った。
カフェの中に入るとゆったりと過ごせそうな音楽が店内を包んでいた。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ!」と店員さんに声をかけられる。
平日の昼間だからか、店内の音楽が大きく聞こえる。
1人席に腰掛けるサラリーマン風の男性がコーヒーを片手にメニューを眺めていた。
高校の制服で胸に花を刺し、カフェに居るのが珍しく思えたのか男性が声をかけてくる。
「こんにちは、お兄さん。その制服はここの近所だね?」
「……え?あ、はい…そうです」
「驚かせたかな?すまないねぇ…良ければ一緒にどうかな?」
「いえ、ご迷惑でなければ…」
「良かった!ではここに」と隣の席の椅子を引いてくれる。
「ありがとうございます…」
男性はコーヒーをひと口飲むと携帯を取り出し、一枚の写真を表示する。
「見てくれ…俺の娘も今日、卒業したんだよ!君と同い年かもな…」
写真には卒業式と書かれた看板の前で卒業証書を持った女子生徒が立っていた。
「おめでとうございます。顔、似てますね?」
「ありがとう。君もおめでとう、そうかな?奥さん似だってよく言われてるよ。はは」
「ありがとうございます。娘さんの名前、聞いてもいいですか?」
「あぁ、ゆめ。柚子が芽吹くと書いて
「
「ありがとう」
※
「この時、僕は初めて彼女に恋をした…と思っていました」と、薄暗い取調室で初恋の話を刑事達に話す。
「そこで、
「はい。大学に入ってからもカフェには通っていました。そして、僕は入学してすぐに親しそうに話をしている
「運命…ですか…それから入学してどうされてましたか?」
ーーー大学入学して数日後…
教室は階段のように一列一列段々と並んでいる。
教授の言葉を一言一句、聞き逃さないように素早くパソコンに打っていく人。座っているだけで朗読会を聞いてメモすらしない人。教授の声で船を漕ぐ人と様々なスタイルで授業に出ている。そんな中、僕は
「ねぇ、今から帰り?」と
「え?なぁーにぃ?てか、誰?」
「あぁ、ごめん。僕は
「頼みぃ?ゆきに出来ること?」
「うん、いつも一緒にいる子を僕に紹介してほしいんだ!!」
「いつも一緒にいる子?あぁ、ゆめちゃん??」
「そう、その子を紹介してくれないか?」
「ゆめちゃんはねぇー最近、大学近くのカフェでバイト始めたのぉー」
常連客として通い詰めていたカフェだと知ると両手でガッツポーズをつくり飛び跳ね喜び、カフェに向かう。
(やっぱり…
いつも通り、カフェに到着すると帽子を深く被り直す。
深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐くとドアを引く。
ーーーカランッと鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ、お好き席へどうぞ!」と
緊張しながら、「…コーヒー」と呟く。
(あぁ、びっくりさせたかな?同じクラスのやつが急に来たから…)と内心ドキドキしながらお店が閉まるギリギリまで居座った。
夜になり、
何度か後ろが気になるのか振り返る、
なんて話しかけるか考えていたら歩くスピードが早くなっていた。
そして、気がつくと手が
※
「こんばんは、お嬢さん。と声をかけました」と頭を下に下げ恥ずかしそうに話す。
目の前の刑事は2人とも呆れた様な顔をして静かに話を聞く。
1人の刑事が頭を抱え、口を開く。
「それで?夜道で突然話しかけて、自己紹介をしてその後どうしましたか?」
「え?えっと…その日は帰りました。それから何度か
「手紙を…それは、この封筒の束で間違いないですか?」
「えぇ!そうです!!その
「そうですか…」
Dear
こんばんは!今日はカフェのアルバイト休みだったんだね!体調、悪いのかな?大丈夫?心配だな…でも、大丈夫だよ!!今日も僕が見張っててあげるからねっ!安心して眠ってね?明日もカフェで待ってるよ!!早く逢いたいな!愛してるよ、僕以外が近づくことがないように守ってみせるからいつでも僕の元においでよ?
逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい…From君の恋人
と愛が込められた手紙が10束づつになって机いっぱい置いてある。
はぁーとため息が聞こえる。
「ストーカーですよ?待ち伏せをして家に行き、手紙を送る。ましてや、付き合ってもいなかったそうじゃないですか?全てあなたの妄想ですよね?」
「そんなこと、ある訳ないですよ!!!!」と大声で言い返し、思わず立ち上がる。
「まぁ、落ち着いてください。こんなにも手紙を出して返ってきたことはありますか?」ともう1人の刑事に椅子に座るように肩を押される。
「……ありません」と首を小さく左右に振る。
「そうでしょうね、彼女の家から出てきた彼女の物ではない物は
小分けにした証拠品を
「………!?」驚いた表情を見せるが口を開ける様子は見られない。
「ほぉ?ここで、黙秘ですか?」
「………」
「見覚え…ありますよね?」
「
「うるさい!!!」と机を叩き、大声で話し始める。
「
最後に刑事は殺人の証拠を突きつける。
「これは、ご遺体から採取された犯人と思われる男性の皮膚片を調べたものです」
「もう、言い逃れ出来ませんよ?盗聴器も睡眠薬も自分が仕込んだと認めたんですから」
「知らないはず、無いですよね?その腕の傷のこと」
容疑者の腕を指差し、容疑者を睨みつける。
ビクッ!と肩を震わせゆっくりと頷くと息を吐き、俯きながら話し始める。
「全て…僕が
「殺人を認めるんだな?」
「はい。僕は彼女を愛していたのに…1度も愛してると言ってはくれなかったから…」と話終えずっと我慢していた涙を手の甲で拭い取ると刑事を見つめ口角を上に上げる。
「あはははははははは」と壊れた笑い声が取調室、全体を包み込む。
「僕は、君しか愛せないからね…」と一粒の涙がこぼれ落ちる。
僕は彼女と結婚した。 クロネコ @kurokuroneko
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