540字百合掌編『ドライに言い放つ。』

犬鳴つかさ

ドライに言い放つ。


「ねえ」


 お菓子を口の中でさせながら、咲妃さきが言った。


「なに?」


「好きな人とかいる?」


「いないよ」


 すぐに否定の言葉が出た。返事が早すぎて怪しまれたかもしれない。


「ほんとに〜?」


 咲妃は案の定ニヤニヤしながら、からかうような調子でパッキーの先端を私の目の前でくるくる回す。


「とんぼじゃないっての」


 回転する先端を目でとらえてぱくついた。


「おー、いい食べっぷり」


餌付えづけされてるみたいで、気分悪い……」


「あはは。ごめんって。じゃあさ、じゃあさぁ、好きなタイプは?」


 目を輝かせた咲妃は机に手をついて、私の目の前まで乗り出してきた。


 放課後の教室の窓から差し込む夕日。それに照らされた彼女の瞳がうっすらと虹色に光る。私にとっては、どんな宝石よりも輝いて見えた。


「しつこいなあ」


「お願い!テキトーに思いついたやつでいいから」


「そうだな、じゃあ……」


 高鳴る心臓が少し落ち着いた時を見計らって、私は口を開く。


「……年はあんまり離れてなくて、


 話が面白くて、


 時々からかってくるけど根は優しくて、


 笑顔が素敵な人がいいな」


「ふーん、なんだか私の男版みたいなやつだな?」


「確かに。私か咲妃──どっちかが男だったら良かったのにね」


 冗談みたいな言い方で、私はドライに言い放つ。


 本当の気持ちに気づかれないように。

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540字百合掌編『ドライに言い放つ。』 犬鳴つかさ @wanwano_shiba

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